生活クラブ活動情報

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利用を高めることが社会への発信力に

 
 

生活クラブ連合消費委員会は毎年、委員の入れ替わりの時期にあたる7月にその年度の大きなテーマとなる課題について学習会を開いています。今回のテーマは「私たちの共同購入の力『利用結集』」。秋の利用結集統一行動に向け、あらためて「利用結集」の意味を考える機会としました。前半の学習会は、東京大学大学院の鈴木宣弘教授が「TPPと私たちの暮らし」をテーマに講演。後半では、利用結集活動に欠かせない「開発活動」に関する提案と活動紹介がありました。(2012年8月1日掲載)

TPPで日本の社会システム、制度が崩されていく

東京大学大学院の鈴木宣弘教授 TPP(環太平洋経済連携協定)の本質について鈴木宣弘教授はまず「経済学には規制緩和を徹底して1%の人々の富が増加し、その一方で99%の人々が損失を被り食料も医療も十分に受けられないような生活に陥っても、統計上の富が増加していればそれが効率だという理論があります。それを米国主導で徹底しようとするのがTPPの本質と言っても過言ではありません」と指摘しました。
 政府があたかも“関税撤廃の例外”のように匂わせている米や乳製品も、交渉参加国の間では「7年間の猶予を認める」との合意があるのみで、関税撤廃に例外がないことを鈴木教授は明らかにしました。また、関税だけではなく、TPPは国境を越えた自由な企業活動を目的にしているため、国民生活を守る制度や仕組みをも非関税障壁として撤廃と緩和を目指していることから、日本の社会システム、制度そのものが崩されていく危険性を訴えました。
 日本の農業について「もっと開放しなければならない」との言説がTPP推進派からあがっていますが、鈴木教授はこう反論しました。「日本は鎖国ではありません。製造業の関税は世界で一番低いし、農業の関税も非常に低い。それが証拠に、皆さんの身体の原材料である食料の61%は海外に依存しています。皆さんの身体はもう国産ではない。『こんな身体に誰がしたんだ』というくらいの開放度です」。関税を撤廃することで日本の第一次産業がどのような事態に直面するのか。鈴木教授がその具体例として持ち出したのが、昭和30年代に関税がゼロになった木材とその後の林業の衰退でした。「林業は輸出産業になったでしょうか。残念ながら山は二束三文になって木材の自給率も95%から18%に下がりました。その山をいま外国の方が高く買うので気がついたら日本の山が外国の領土になっているのです。これと同じようにTPPによって日本の農地は荒れ果てます」

協同組合のネットワークの強化を

 日本ではこれまでに関税や国内保護政策を削減してきた結果、米の価格はこの10年でおよそ半減しました。TPP参加でこれ以上食料、農業を自由化すれば自給率は13%に落ち込むと試算されています。この時、日本人は何を食べるのかについて、鈴木教授は「このことをきちんと議論しなければならない」と指摘しつつ、アジアやEUとのお互いの差異を認め合う緩やかな経済連携を進めるべきではないかと提案しました。
 そのうえで、自分たちの食は自分たちで守る。そのためには食に安さだけを求めることは命を削り、次世代に負担を強いることになるので生産者も消費者も持続的に幸せになれるような適正な価格形成を一緒に検討すべきと指摘。日本における「強い農業」の源とは、生産者と消費者の「つながり」にあると強調しました。
 その実践例として紹介したのがスイスです。スイスでは、生産コストだけではなく、ナチュラル・オーガニックや動物福祉、生物多様性、景観などといった要素を考慮した食料は健康に優しくおいしいとする国民全体の理解が進んでいます。その結果、生産コストが周辺国に比べて3~4割も高いにも関わらず国内農業は負けていません。スイスはミグロなどの生協が食品流通の大半を占めているため、生協陣営が「本物にはこの価格が必要」と言えばそれが説得力を持ちますが、鈴木教授は日本の協同組合にこう期待を寄せています。
 「日本の場合、農協にも生活クラブをはじめとする生協にも、一組織でそれだけの価格形成力はありませんが、個々の組織は大きくなくても、ネットワークを強めていくことでかなりのことができるようになります」
 また鈴木教授は、日本でも農業が地域コミュニティの基盤を形成していることを実感し、食料が身近で手に入る価値を共有して地域で自分たちの食の未来を切り開こうという自発的プロジェクトが芽生えつつあることを紹介しました。
 「このような動きが国内で広がることが海外に負けずに国産農産物が売れ、条件の不利な日本で農業が成立するための基礎条件です。こうした流れを創り出すトータル・コーディネーターとしての大きな役割も協同組合など関係者に求められています。全国的なうねりとなることによって、何者にも負けない『強い農業』が形成されると思います」

加工食品のジャンル別方針議論に向けて

加工食品・水産課の志村保幸課長 現在、連合会では消費材のジャンルごとに(1)市場動向と市販品の問題、(2)共同購入の到達点と課題、(3)開発方針について整理中です。拡大学習会ではこの秋からの政策論議に向けて、加工食品分野の基本的方向と消費支出の高い「調理食品」について「ジャンル別方針」が提起されました。説明と提起にあたったのは連合会事業部加工食品・水産課の志村保幸課長。
 国が調査している「家計支出」によれば、単身世帯や高齢化で世帯数は増えているものの、食料支出は1992年をピークに減少を続け、2011年には80.7%(92年対比)に縮小しています。また穀類や野菜、肉類といった家庭で調理が必要な食品(内食)は減少を続ける一方、低価格で調理しやすいレトルト食品や惣菜セットなどの調理食品や弁当・日配食品(中食)のウエイトが高まっています。一時伸びた外食は横ばいであることから、「食の外部依存」は外食から中食へとシフトしていると見られます。家計支出の構成比でも48%が加工食品となっています。
 一方、生活クラブにおける共同購入の加工食品への支出は39%ですが、「女性の就業率の高まりや少子高齢化により調理時間が短縮されていることなどから、調理食品(惣菜)の購入比率が高まってきています」(志村課長)。また、かつては品質面の優位性が明確で、価格対抗力が明らかでしたが、「加工過程が増えることで原材料の優位性が見えにくくなり、価格の問題も課題になっています」(前同)
 こうした現状認識のもと、今後の方針策定に向けて――「素材主義」を大切にしながらも「調理済食品」を拡充し、素材と加工品を両輪として国内自給力を向上する――との基本的な考え方が示されました。
調理食品の具体的な開発については、以下のような方針があげられました。

  • 開発方針の根幹を『まず、食べておいしいという感動』におくとともに、健康・環境・安心や“合意価格”“奪わない食”に配慮した開発を進める 
  • 食品産業と国内農業は相互連鎖で結ばれており、食農連携の推進が自給率向上にとって不可欠
  • 世界的な食料事情を踏まえ、国内の農畜水産業が持続的な生産を続けられるよう調理食品開発を国内自給を高める手段と位置づける

神奈川での組合員参加による消費材開発活動

神奈川の「組合員参加による消費材開発活動」を紹介する飯田厚子さん 続いて、今後の組合員参加による開発活動の論議に向けて「神奈川での組合員参加による消費材開発活動」の紹介がありました。報告した湘南生活クラブの理事・飯田厚子さんは、まず新たな開発活動に取り組む問題意識を(1)利用の低迷が課題、(2)参加型運営の再構築・強化が課題、(3)利用結集活動の強化と参加型運営の活性化のための用具として新たな開発活動を提起として、神奈川でのこれまでの「消費材開発プロジェクト」の経過などを紹介しました。
 そのうえで湘南生活クラブの実践を報告。その基本方針をこう説明しました。
「消費材開発・改善活動は生活に必要・有用なものを主体的に協同して創るという組合員主体の参加型の消費者運動のひとつです。組織の活性化につながる開発運動です。活動は一部の参加に留めず大ぜいの参加で進め、組織的な活動として材の利用結集の視点もあわせ持ち進めることを基本とします」

参加者からは質問、意見のほか、消費材開発活動の紹介もあった 最後に、連合消費委員長の植田泉さんは拡大学習会をこうまとめました。
 「TPPで、私たちが何をしなければならないかはとても大きな問題でしたが、鈴木教授のお話は私たちを力づけてくれましたし方向性は間違っていなかったことを評価していただきました。加工食品のジャンル別方針は今日、初めて提起されました。消費材の開発活動とともに、利用を高めることが社会への発信力につながるという視点を持ちながら、それぞれの単協で語り合う場面を多く設けてほしいものです。そして、この秋の利用結集統一行動は今後の命運を握っています。前年比107%という数値は努力目標ではなく獲得目標ですから、まずはそれに向って活動を進めていきましょう」