生活クラブ活動情報

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育てよう!未来につなぐ希望の種

 
 

本州一の生乳(*1)生産量を誇る「ミルクの国」・栃木で、3月15・16日に「第9回GMOフリーゾーン全国交流集会in栃木」(主催:遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン)が開かれ、全国から消費者・生産者ら約400人が参加しました。(2014年3月24日掲載)

 国内のGMOフリーゾーン面積は昨年から約2646ヘクタール増え、8万4512ヘクタールに(2014年3月現在)。日本最大の湖である琵琶湖の面積の約1、3倍、佐渡島(新潟県)とほぼ同じ面積で、日本の耕作地全体の1.8%に相当します。
 世界的に見れば食料支配へ向けた多国籍企業の動きが加速する中、組み換え作物の栽培面積は年々拡大し、世界最大の食料輸入国である日本への輸入量も増え続けています。また現在、参加をめぐり政府間交渉が進められている環太平洋連携協定(TPP)は、日本の食の安全を脅かす重大な問題をはらんでいると指摘されます。
 こうした状況を踏まえたうえで「自治体での組み換え作物栽培規制条例の制定を後押しするためにGMOフリーゾーンを拡大していきます。その輪を広げることで、世界の人々とともに地域の農と食文化を守り、食の安全と生態系を守ります」とする大会宣言を参加者全員で採択しました。
(*1)しぼったままで加工されていない、牛などの乳のこと

GMOフリーゾーンって?

 GMO(Genetically Modified Organism)とは遺伝子組み換え技術によってつくり出された生物のこと。そして、これらが「存在しない」地域を「GMOフリーゾーン」といいます。生産者は自らの意思で組み換え作物の栽培・流通を拒否します。個人や事業者は「GMOフリーゾーンサポーター」として組み換え作物を食べない・流通させないことを表明します。
 1999年にイタリアで始まり、日本では2005年に滋賀県高島市の「針江げんき米栽培グループ」が最初の宣言を行いました。この動きを全国に広げていこうとGMO全国交流集会が毎年開かれるようになりました。

【基調講演】前提が間違っている日本の食料戦略

東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん 基調講演の話者は東京大学大学院教授(農業経済学)の鈴木宣弘さん。日本の「食」と「農」の危機的状況と、環太平洋連携協定(TPP)の問題点を指摘し続ける数少ない論客の1人です。
 日本の食料自給率39%については「いわば身体の60%以上が国産じゃないということ」、「国内総生産(GDP)の1.5%でしかない一次産業を守るために98.5%を犠牲にするのか」という議論があることに対しては、「欧米では食料は軍事的武器と同じ『武器』として認識されているが、日本にはそうした食料戦略がない」と喝破します。
 さらに世界最大の農産物輸出国・アメリカの食料戦略の一番の標的は、日本とされていることに触れました。「食料自給ができない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ」。これはジョージ・ブッシュ前大統領がアメリカ国内の農業関係者向けの演説でしばしば口にした言葉です。またウィスコンシン大学のある教授が授業で「日本で畜産が行われているように見えても、エサをすべてアメリカから供給すれば完全にコントロールできる」という趣旨の発言をしていることを引用し、「日本は目先のコストが安いからと安価な輸入品を選ぼうとするが、前提が間違っている。“生命線”である食料を断たれたら息の根を止められる」と危機感をあらわにしました。

TPPと対の規制緩和

話に聞き入る人々 TPP交渉に関しては農業分野のデメリットだけが強調されていますが「農業は国民の命の問題、環境の問題」と鈴木さん。食に関連しても「食の安全基準の緩和」や「遺伝子組み換え食品のさらなる拡大」、「食品添加物の基準緩和や表示の問題」などの問題が含まれていると指摘します。「ウシ海綿状脳症(BSE)対策で設けてきた海外産牛肉の輸入制限や国内の検査の緩和」などのように、TPP参加に先駆けた日本国内の規制緩和はすでに始まっています。
 そして、ひとたびTPPが発動されれば「アメリカ企業に対する海外市場での一切の差別を認めない」として日本は攻撃される可能性があります。
 表示問題一つをとってみても、「国産や特定の地域産を強調した表示」、「遺伝子組み換えでないという任意表示」などが貿易障壁に当たるとして認められなくなることが危惧されます。地産地消運動やGMOフリーゾーン運動などは壊滅的な打撃を受けるでしょう。
 食品を選んで食べたくても消費者には価格以外の違いが分からなくなり、その結果、遺伝子組み換え作物の生産や流通が増えると考えられます。生産者もまた、あらゆる農作物の特許を独占した多国籍企業から種子を買い続けなければ食料生産ができなくなってしまいます。
 アメリカだけでなく日本でも、ごく一握りの企業の利益と結びついた一部の政治家、官僚、マスコミ、研究者が、国民の大多数が気付かないうちにTPPやそれと表裏一体の規制改革、国家戦略特区などを推進しています。
 「『今だけ、カネだけ、自分だけ』しか見えない人びとが国の将来を危うくしつつある。このままでは日本が伝統的に大切にしてきた助け合い、支え合う安全・安心な社会はさらに崩壊していく」と鈴木さんは警鐘を鳴らします。

【現状】遺伝子組み換え作物の栽培面積、世界の農地の1割を超える

「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」代表の天笠啓祐さん 「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」代表の天笠啓祐さんは、遺伝子組み換え食品がもたらしてきた〝3つの犯罪〟として、以下を挙げました。

  • 「生物多様性の破壊」(農薬が効かないスーパー雑草、スーパー害虫の出現などを含む)
  • 「食の安全を奪ってきた」
  • 「種子独占をもたらし、多国籍企業による種子支配をもたらしてきた」

 さらに「環太平洋連携協定(TPP)とは、経済の国境を破壊するもので、多国籍企業の力が国家の主権を上回る状況を生み出す」とし、TPPと組み替え食品により起こりうることとして、食品表示や食品の安全審査の簡略化、多国籍企業による食料支配の強化が進むことを危惧しています。そして最もその影響にさらされるのが、世界で一番多く組み換え作物を食べている日本人なのです。
 組み換え作物の栽培面積は拡大し続けていて、2012年には世界の農地の10分の1を上回る、1億7030万ヘクタールになりました。異なった形質をもつ組み換え品種を掛け合わせて作った「スタック品種」と、耐乾燥性品種の栽培が広がっていること、新たにアフリカでの栽培が拡大していることなどが近年の特徴と言えます。一方で「ロシアでは組み換え品種の栽培を禁止する動きがあらわれ、この間、栽培面積を伸ばしてきた中国でも風向きが変わっている」と天笠さんは指摘します。
  新たな組み換え品種の動向としては、今年バングラデシュで殺虫性を持つナス(Btナス)の作付けが始まり、インドネシアでは組み換えサトウキビが栽培される可能性が出てきました。
 焦点になっているのは組み換えイネ。フィリピンでは「ゴールデンライス」の商業化に向けた動きが出ています。ビタミンの一種であるベータカロテンを多く含む、イネを脅かす複数の病気に抵抗性を持つ品種で、今後2年程度で承認される見通しです。さらに日本国内でも独立行政法人・農業生物資源研究所による「スギ花粉症治療イネ」、「スギ花粉ペプチド含有イネ」「複合病抵抗性イネ」「開花期抑制イネ」の栽培実験が新たに始められます。

【パネルディスカッション】 生産者と消費者がつくる対案。「まるごと栃木」

登壇したパネラーたち パネルディスカッションでは、遺伝子組み換え作物の栽培やTPP推進の大きな流れに対する具体的な対抗策の一つともいえる、「まるごと栃木」の実践が紹介されました。
 「まるごと栃木」は生活クラブと提携する栃木県内の水稲、青果物、酪農、畜産の生産者たちが参加して2008年に発足しました。自給率を上げることでできるだけ輸入に頼らない安定した食料生産のしくみを実現しようと、飼料用作物の生産やたい肥の地域内循環を進めています。エネルギーの面でも再生可能エネルギーの活用による自給をめざし、牛乳の生産者である新生酪農栃木工場や生活クラブ栃木の宇都宮センターで太陽光発電を始めています。
 生活クラブの「黒磯米」の生産者グループ・どではら会の益子光一さんは、茨城県つくば市の研究施設で遺伝子組み換え作物の視察をした際、「生態系に取り返しのつかない悪影響が出るのではないか。こんな研究を進めさせてはいけない」と実感。反対の意思を示すために、多くの人々の目につく場所に12畳分に相当する巨大看板を設置した経緯を話しました。「まるごと栃木」に関連してどではら会では、飼料用米(実の部分)と飼料用イネ(実のついた稲わらごと活用する飼料)を栽培して酪農家や畜産農家に届け、かわりに家畜の糞尿から作られたたい肥をもらい田畑に使っています。
飼料用米。ニワトリには籾つきのままで、豚には食べやすいように粉砕して与えます 「今までは飼料用米を作っても採算が取れなかった。でも今年からは農業政策が変わり飼料用米に手厚く助成金がつくようになる。試算してみたら、輸入の濃厚飼料と同じくらいの価格で供給できるとわかった。国産の飼料用米を普及させるための追い風にしたい」と益子さんは意気込みます。農事組合法人喜連川ファーム理事で養豚農家の菊地文夫さんは「平田牧場と提携して、生活クラブの基準に沿って遺伝子組み換えではない飼料を与え、平牧三元豚を育てている。まだ輸入の配合飼料の割合が高いが、飼料用米を肥育の初期の段階で10%与えている」と説明しました。
 新生酪農栃木工場に生乳を出荷している箒根酪農業協同組合の印南智久さんは、2011年に起きた東日本大震災に起因する福島第一原発事故による影響のなかで、「まるごと栃木」を続けるために牛に与える飼料の放射能検査を徹底し、生乳から検出されることがないよう(検出限界値1キログラム当たり1.2~3ベクレル)対策していることを紹介しました。
 遺伝子組み換え作物に関連しては「多国籍企業の種子支配が強化されるなかで、いつまで非遺伝子組み換えの飼料用トウモロコシとダイズの種子を入手し続けられるのかと、皆が不安を持っている。トウモロコシとダイズを使わない配合飼料は出来ないか。そういう研究も行いながら、生乳を供給し続けるための手段を模索していきたい」と提案します。

生活クラブ栃木理事長、伊藤三保さん 生活クラブ栃木・理事長の伊藤三保さんは、消費者として携わってきた立場から次のように話します。「原発事故のあと、それぞれの生産者の皆さんが独自に放射能検査をして、生活クラブ連合会でさらに検査を行うという二重のチェックが実現している。こうして循環型農業の実践が栃木でできていることを、広く一般の皆さんにも知っていただきたいと『まるごと栃木まつり』をはじめ、さまざまな機会に紹介している。少しずつでもともに食べ支える仲間を増やしたいと、努力をしているところです」。
 基調講演を行った鈴木宣弘・東京大学大学院教授は「連携した取り組みで本当にすばらしい。感銘を受けた」と「まるごと栃木」を絶賛。「私たちが自分たちの力で生活や地域や食料を守っていくために今、何をやらなければならないのかを示している取り組みだ」として、各地で行われているさまざまな実践をつなげ、さらに強化していくことが必要だと締めくくりました。



<番外編>2010年4月に生まれ、生活クラブ埼玉の組合員たちが命名した箒根酪農業協同組合の熊倉牧場の「さくらちゃん」。もうじき3頭目の子牛が生まれる予定です。
*詳しくは生活クラブ埼玉のサイトへ>>