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オランダへ福祉政策の視察に行ってきました!―たすけあいの地域社会・市民参加型の福祉社会をめざして

 
 

各地の生活クラブ生協は、地域での組合員活動を基盤に、さまざまな形での福祉事業を展開し「誰もが自分らしく安心して暮らせるまちづくり」に取り組んできま した。急速な高齢化が進む今、介護が必要になった高齢者が、住み慣れた自宅や地域で安心して暮らし続けられるように、「地域包括ケアシステム」づくりをめ ざすことが重視されています。
今後の生活クラブの取り組みへの参考とするため、生活クラブ共済連の理事や、生活クラブのシンクタンクである「市民セクター政策機構」のメンバーが視察団を組み、「市民参加型の福祉」へと政策転換を行なっているオランダへ行って来ました(2015年5月10・11日)。  

国家の福祉から市民参加型の福祉へ

総人口が1,600万人あまりのオランダでは、2040年までに65歳以上の人口が460万人となる見込みで、高齢化率は現在の17.6%から27%になる と予測されています(日本は2014年で25.9%)。社会の急速な高齢化への対策として、早い段階で議論し提案されたのが「市民参加型の福祉」です。

オランダは、これまで北欧諸国と同水準の高福祉システムを採用していて、高齢者・障がい者・子育て支援の全般にわたって国家による社会保障制度が充実しています。しかし2014年度の国家予算では、財政赤字のため60億ユーロ(約8,000億円)の追加緊縮策が盛り込まれ、社会保障分野の支出が大幅に削減されました。

そして2015年1月1日、新しい法律「社会支援法2015(WMO2015)」(*1)が施行され、「国家による福祉」から本格的な「市民参加型の福祉」の社会へと転換してきています。とはいえ、高水準の福祉システムが長く続いたこともあり、人々の間では「福祉は国家が行なうもの」という考えが根強く、市民自身が福祉社会の主体であるという意識は薄いのが実情です。

これまでは医療制度と長期養老制度と福祉制度があり、介護については医療制度によって対応されていましたが、家族や地域住民の主体的な参加を引き出すことで高齢者の自立を支援するという、「市民参加型」の福祉制度を根づかせるために、官民で様々な施策が試みられています。

“自立”のために

高齢者が福祉の対象になるということは、社会から隔離されて大事に扱われることと思われがちです。しかし、地域の中で永く暮らし続けるためには、高齢者自身が「自立」した個人として、できるだけ自分自身の選択によって暮らしていけることが大切であり、それは高齢者自身が望んでいることでもあります。

オランダでは、そのために必要なもの―「住宅の整備」「相談できる場所」「集まれる場所」「自分が介護されるだけでなくボランティアとして自分が誰かの役に 立つこと」など―が、自治体・NPO団体・日本の社会福祉法人に近い組織・市民のボランティア活動によって用意されています。また、労働政策としてのワークシェアリングや、ワークライフバランスを重視する考え方も広く定着しているため、市民のボランティア活動も活発です。

今回の視察では、オランダで第3の規模の都市、ハーグ市(*2)にある、高齢者の自立のための施策を行なっている団体・施設の4ヵ所を訪問しました。

認知症の方々も市民の協力で安心して暮らせる体制

まず最初に、高齢者デイサービスを提供し、軽度・重度の要介護の方々が入居する施設を訪問しました。この施設は、日本の社会福祉法人に近い形態の団体で、 ハーグ市の高齢者福祉事業を統括している「WZH」が運営しています。施設の周辺は移民が比較的多く居住する地域で、小学校の生徒の90~100%が移民の子どもだということです。

WZHは、特にアルツハイマー・認知症の初期段階の人が、安心できる環境に住みながらいつでもケアを受けられる体制を作っています。こうした体制を支える市民どうしの協力を活性化させるために、ボランティアの力を使うことに重点をおいています。また、ハーグ市内12ヶ所に「出会いセンター」を設置し、そこでアクティビティーに参加しながら高齢者とボランティアに参加したい市民が出会える場所を設けています。そこ に集まる交通手段も、市の財政で賄われるタクシーを利用することができます。

介護を必要とする高齢者と市民との「出会い」をサポート

次に、WZHと同様の形の団体が運営する「出会いセンター」を訪問しました。低所得層向けの集合住宅の中にあります。

10人から20人ほどの高齢者(主に認知症の方々)がボランティアの付添いで集まり、レクリエーションに参加したり、みんなで食事をするなどして一日を過ごします。

市民のボランティアへの参加を手助け

次に訪問したのは、ボランティア団体である「MOOI」 が、移民が多く暮らす地区で運営する出会いの場、「コーヒーテーブル」です。東欧系やイスラム系などの住民が混住する地区では、公民館を作ってもなかなか活動が広がらないため、市民どうしの出会いの場を設けることには市当局がかなり力を入れています。高齢者のための喫茶室でも、出会いの場をつくるようにしています。

福祉事業体・住宅公団・自治体が共同した充実の自立支援施設

最後に訪れたのは、元々在宅ケア事業を行なっていた「エイケンブルグ財団」が管理している高齢者住宅です。この財団と住宅公団とハーグ市が共同して、自立支援を行ないながら必要な福祉サービスを提供する施設です。良質の住環境だけではなく、レストラン・診断センター・ホスピス・美容院・買い物スペースなども併設し、医者は常時2人、さらに理学療法士・看護師・セラピスト・栄養士も常駐しています。オランダでは安楽死が合法で、ホスピスでは本人の選択による安楽死にも対応しているということです。

誰もが安心して暮らせるまちづくり―生活クラブにできることは?

歴史的・社会的背景には大きな違いがあるにせよ、市民参加による社会活動の広がりや、恒常的なボランティア活動の存在など多くの点で、オランダと比較して日本はまだまだなところがあります。

そうした中でも、各地の生活クラブの取組みでは、地域の組合員のつながりを基盤にした「ワーカーズ・コレクティブ」による介護・福祉事業をはじめ、さまざまな形での地域活動の実践例が数多くあります。こうした積み重ねを発展させ、生活クラブ以外の事業者や団体、自治体などとも連携して「市民参加型の福祉事業」であるオランダ型の事例をつくりだし、これからの地域社会づくりの方向性を示すことが生活クラブの役割だろうと考えました。

 

(*1) 社会支援法2015 (Wet Naatschappelijke Ondersteuning=WMOと略)
社会福祉法と障がい者サービス法、特別医療費補償法の一部を統合した法律。目的は、互助を活用しながら、できる限り自立した生活と社会参画を促すことにあり、地方自治体レベルの責任で住民ニーズに即した社会支援の施策を行なうことを定めている。

(*2) ハーグ市
北海沿岸に位置する南ホラント州の基礎自治体。人口約48万人で、アムステルダムとロッテルダムに次ぐオランダ第3の都市。国会議事堂や各国の大使館があり、多数の国際機関が設置されていることで知られる都市。

(2015年7月7日掲載)