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2009年09月29日:奈良新聞

安全な循環型社会 次世代へ継承

座談会では農業と食の問題を通して「健康・環境・安心・安全」について真剣な話が展開された<br />=五條市西吉野町湯塩の王隠堂宅

 「健康・環境・安全・安心」をテーマに、農業者と消費者がともに納得できる生産と消費の構造を目指した農業生産運動を展開している、五條市の農業生産法人「農悠舎 王隠堂農園」。新規就農者の受け入れや遊休農地の再生などの課題にも果敢に挑戦してきている。また、生活クラブ生活協同組合とのかかわりも深く、数々の事業を通して循環型社会を推進しつつ、次世代へと引き継ごうとしている。座談会では農と食に関係する5人から話をうかがい、「ほんまもんの食生活とは」「ほんまもんの豊かな人生とは」について考えた。(司会は奈良新聞社論説委員・寺前伊平)

農業で地域再生

 

王隠堂誠海さん

----生活クラブ事業連合生活協同組合連合会(以下、生活クラブ)との関わりを踏まえ、農業生産法人・王隠堂農園(以下、王隠堂農園)の30年間の事業・活動の歩みについて聞かせください。王隠堂さん、加藤さんの順でお願いします。
 王隠堂 農業生産法人・農悠舎(以下、農悠舎)が地域の人たちと一緒に農業で地域再生をしようとつくられた。それは生活クラブと王隠堂農園の出合いが原点にあった。
  王隠堂農園と生活クラブとの出合いは1976年。最初に産地直送として出会った泉北生協(現エスコープ大阪)が、生活クラプとつながりがあり、安全な生産物の取り組みも含め、提携関係を結ぶようになった。
 生活クラブ職員がこの家に泊まって話し合い、地域でまとまってやろうと今西さんと岡本さんの父親と一緒に取り組みを始めた。
 畑で作った梅とシソを自分の家の軒先で加工し、できた梅干を1キログラムのビン詰めで出荷した。
 この賀名生の地は関西有数の梅産地で、南朝以来の「林州」「白加賀」といった古来種をペースに、生活クラブの「Sマーク」ブランドの梅干しとなっている。
 提携して良かったのは、和歌山県産「南高梅」などへのブランド志向の市場の中、生産者との関係を築き、地域性のある農産物を作り続けられたことだ。地域の活性化、共同化を図る原動力となった。
 農薬や除草剤を削減し、有機的な栽培にまでレベルを上げて、地域生産が可能となった。国営パイロット事業による柿の一大生産地づくりにも参加し、両立もできた。
 王隠堂農園では国産でシソも作り、古くからの梅干しを再生している。もう一度原点に戻り、地域の在り方で事業を進めていきたい。

主要品目に注目

加藤 好一さん

 加藤 生活クラブは65年に東京で生まれた。その3年後に生協のかたちになり、昨年生協となって40周年の記念すべき年を迎えた。
 中国産コープ手作りギョーザ事件があったが、現在の生活クラブにはコープ商品は一つもない。すべてプライベートブランドとして組合員が生産者と共に作り上げた消費材(生活クラブでは商品とは言わない)を取り扱っている。
 王隠堂さんと提携を始めたころは、まだコープ商品を扱っていた。どういう生協になるべきか試行錯誤の時期で、おおむね組織の方向が固まったのは80年ごろ。提携を始めた70年代は実に重要な時期だった。ほかの生協とは違うスタンスをとることができたことに感謝している。
 私たちは牛乳、卵、米、豚肉、牛肉、鶏肉の主要品目にこだわっている。日本の自給食糧生産を考える上で重要な位置にあり、消費者の立場でも大切な食糧だからだ。主要品目にこだわってこそ、まともな共同購入になる。
 しかし組合員も高齢化してくるといつまでも多量の肉を食べなくなるだろう。だから主たる共同購入の方向は農産物になっていくだろうと考えている。志ある産地と持続的生産をしていくことが大切だ。
 王隠堂さんには、全国88の生産者が自主的に組織した「生活クラブ青果の会」の会長をしていただいている。食糧を考える際、青果物は非常に大事だ。生活クラブの青果物をより充実させていくための様々な活動をしていただいており、今後に期待している。
 生活クラブ生協の組合員は約31万6千人。売上約870億円だが、そのうち約100億円が米を除いた青果物だ。それをいかに厚みをもたせるか。次に向け、王隠堂さんとさらにスクラムを組んでいきたい。

顔の見える関係

 

和田宗隆さん

----「産地プラットフォーム」の創設の必要性は。
和田 われわれ産地が生活クラブとのつながりで得たものは大きかった。農法にこだわって梅を作ると生産リスクも高まるが、グレードの悪いものは 梅肉エキスや梅ドリンクにするなど、 消費材としての価値あるものに仕上げ た。畑の中でできたものはすべて完結
する。これが一番大きかった。
 この30年間で生産者も増え、生産面積も拡大した。だが10年、20年後の提携の存続はそれだけでいいのだろうか。
 この間、産地から活字による情報の提供は増えたが消費地からの来訪の機会は少なくなっていた。農業の現場も地球温暖化などで急激に変化している。
 互いに顔の見える関係を続けてゆくためにも畑を中心に交流し、将来の課題も共有化し地域を理解して農産物を利用してもらう、そのような誰もが集える「場」として農悠舎を作った。

産地の自立模索

----農悠舎のプロジェクトの柱は。
王隠堂 90年を超えたころ、3分の1構想が生まれた。「生活クラブで3分の1を売るから、残りは自分たちで売りなはれ」。つまり「産地の自立を目指しなさい」と強く言われた。
  王隠堂農園設立から20年後の95年前後、生産者で今後の運営を考え、産地 直送を一つの区切りとして新たな地域づくりに着手した。それが熊野にある 共同農場だ。生産部隊はほとんどが新規就農者。現在は平均年齢35歳ぐらいの農業をしたいという者が集まり、運営している。
 そうした背景の中、家族農業集団型で一つにまとまったグループが、新たな地域づくりをするためには何が必要か。一つは新規就農者や研修生を受け入れる機能。もう一つはお年寄りも含めて地域で交流、体験、食育ができる仕組みだ。
 そこで産地として受け入れる形態、社会的に認知される形態を県に申し込 んだ。地域の人以外も地域に参加できる形をということで農悠舎ができた。
 それまでの個人農家では産地で交流する機会を設けていなかった。農悠舎ではこの土地のものを共有するために食育や調理実習もやる。こうした活動を繰り返して産地を理解してもらうことが、自立につながると考えている。
和田 最終的には地域がなければ農業は成立しない。われわれ農業と異業種との関係性をとりながら、地域が今より衰退しないようにやっていければ良いと思う。
王隠堂 地域で家族農業は大変重要だ。家族農業の人たちがたくさん住み、ともに競争し合いながら地域を守るこ とが一番望ましい。しかし、それも高齢化で変わりつつある。
 わたしはここ1~2年、家族農業者で農業を辞めていく人たちの農地を共同で借りて、新規就農者や研修生を入れて半家族共同農業をモデル的につくろうと提案している。
 家族農業集団は素晴らしいが、それだけでは地域はもたない。農地を共同でまとめ、都市の生活者と田舎をつなぐことが農悠舎と思っている。

自分たちで生産

 ----生活クラブの原点は「自ら考え、自ら行動する」。具体的な取り組みについては。
加藤 生活クラブは協同組合なので、組合員が主人公というのが基本原則だ。しかし、ややもすると生協の組合員はお客さんになりがちだ。それで いいはずはない、というところに生活クラブはこだわりたい。
 経済評論家の内橋克人さんの言葉「自覚的消費者」がある。これはものの値段は安いにこしたことはないが、なぜそのように安いのかを問えることだ。
 安心・安全は結果であり、生協の使命は自覚的消費者を増やすことだと思う。中国製コープ手作りギョーザ問題では40個入り398円だった。1個10円もしないことに、疑問を感じる人を一人でも増やすことが大事だ。
 生活クラブ組合員の国産へのこだわりの一例を挙げると、国産加工用トマトを原料にした愛知県のトマトケチャ ップは毎月8万個売れていたが、原料の不作でアメリカ産有機トマトを調達せざるをえなくなると、注文はわずか3千個に激減。組合員の国産へのこだわりはそうとうに強いものがあるなと感じた。
 生活クラブが生協となって10年目、 牧場と牛乳工場を造った。「組合員が生産者と共に作る」から、「自分たちで作る」までさらに踏み込んだ。そこまでやれるのは「自ら考え、自ら行動する」という組織原理を忠実にやってきた結果だと考えている。

地域全体で検討

今西清次さん

----今西さん、岡本さん、現場の立場から生産地や生産者の現状と今後の取り組みは。
今西 柿の状況はここ約15~20年間、国営パイロット事業があり、五條市では13団地が整備された。農家が入植し、畑面積と収穫量が増加。新品種「刀根柿」は、従来の「富有柿」と比べ収穫が旱いため、柿全体の収穫時期が長くなり、生産基盤が安定してきた。
 父は農協中心の出荷から脱却して王隠堂農園と産地直送を始め、作った人と食べる人の顔が見える関係を築いてきた。
 以来20年間、時代的に何もかもが熱い時代から、表面的なドライな社会に変わってきた。人と人とのつながりが薄れている。
 そんな中、情報化社会が進み、うわべだけの情報が流れている。例えば有機栽培でも認可された農薬を使っていても消費者の方からは、「農薬を使っているのか」と問い合わせがくる。本当の情報を伝え、価格の説明もしていかなければならない。
 統一の基準もつくるべきだ。特別栽培は農薬基準が地域で異なり、単純に地域間で比べても農薬使用量は分からない。有機栽培も認証団体で基準が異なっている。
 またこの辺りは柿と梅の畑が混在している。それぞれに登録されない農薬が検出されると流通できないポジティブリストの問題があり、隣接した畑同士がもめる可能性がある。大きな問題になっていないが、今後話し合って品目を変えていく状況になればと思う。
  そうした意味で、王隠堂グループ外の生産者の人たちとも一緒に、地域として農業活動に取り組む必要がある。農家はもう「自分さえ良ければ良い」ではやっていけない。

除草剤がネック

岡本好司さん

 岡本 梅は柿の作れない場所に植えられ、能率が悪く管理も苦労する。放棄したいが隣接地に迷惑が掛かるから、無理無理作っている現状もある。
 地球温暖化が原因なのか開花時期がまばらになり、収穫も年によりバランスが崩れている。そこで安定した生産量を確保するために、気候が良い三重県御浜町に共同農場をつくり、現在軌道に乗っている。
 古来種の「林州」は青果では出荷で きず加工で出すが、一般の人は加工単価が安いために木を切ってしまう。授粉能力の高い品種だが木がなくなることで、地域全体で実が成らなくなっている面もある。
 規模を拡大して一番のネックが除草剤。安心安全、環境の点から使わないようにしていたが、高齢化など労働力の点から見直さざるをえない状況もある。国とメーカーがタイアップして安全性を高めた除草剤を開発してくれれば、つらい思いもせずに農業ができる。
 新規就農者の技術面を養成する場も必要だ。わたしも農業大学校で学んだが、家に戻ると父に一から教わったのが現実だった。行政には真剣に状況を把握し、養成してほしい。

生活クラブ運動

----最近できた「生活クラブ奈良」の今後の展開は。
加藤 生活クラブ奈良は2007年11月に設立された。組合員は2600人に届かないぐらい。経営的自立のめどが立つ5千人を第1ステップとして、奈良市、生駒市を中心にその数字に近づけることが課題となる。
 関西全部合わせても組合員は2万5千人弱。10万人が展望でき、首都圏と違う自立圈を打ちたてて関西における生活クラブ運動が展開できれぱと思う。

減反農業に辟易

----米で育った鶏肉の大規模販売が来春から本格始動するが、今後の国内展開の方向性はどうか。
加藤 日本の食糧自給率を正面から見据えるには、また水田を水田として維持していくため、飼料用米生産は極めて有効な取組みになる。
 飼料自給率向上の観点で6年前から、山形県遊佐町で豚用飼料米生産にチャレンジしている。今年は作付面積約700ヘクタールで4千トンを上回る収穫を見込んでいる。
 大切なのは面の付き合いを重視している点だ。遊佐町で採れる米17万~18万俵のうち、10万俵は組合員が購入している。つまり飼料用米は主食用米の経営安定で成り立っており、そこが今後も勝負となる。
 農家は減反という後ろ向きな農業に辟易(へきえき)している。飼料用米の提携関係と農家の前向きな思いが一体となり、事業を進めている。

新政権への要望

 ----先月の衆院選で政権交代が実現しました。民主党新政権への意見、要望があれば。
王隠堂 民主党の掲げる戸別所得補償は、地域の組織をつくって将来ビジョンを描き、その中で補償を受ける仕組みをつくらないと難しい。地域区別のできた次の世代につながる補償にしてほしい。
加藤 戸別所得補償はやってみないと分からないが、財源だけでなく問題がないわけではない。ただ大いに期待はしたい。
和田 農業の補助金政策は制限が多く実効性があるのか疑問だ。地域に金を落とし、地域で実効性ある使い方を考える仕組みに変えなければならない。
今西 戸別所得補償にしても生活保護のように感じる。本当の意味で今後も継続して農業をしていける政策をしてほしい。
岡本 日本国民は農業から始まった。食べるものが暮らしの根本であり、農家あっての人間だ。政策を根本から変える必要がある。
 ----本日は長時間ありがとうございました。