メディア紹介
2012年01月26日:朝日新聞
食と放射能(6) 「見える化」歓迎と悩み
東京電力福島第一原発の事故以降、流通する食品について、より詳しい情報を求める消費者の声が高まっている。
千葉県銚子市の銚子漁港の魚市場では原発事故の後、水揚げされた魚を入札にかけるとき、どこで取ったのかを緯度・経度で示すようになった。「放射能に敏感になっている消費者の安心のためにも、漁獲場所は明示すべきだ」。入札に参加した一人は、魚市場の取り組みを歓迎した。
もっとも、落札した後に消費者に伝えるかどうかは小売店の考え方しだいだ。地元漁協の関係者は「福島に近い海域だと表示を避けたいという声もあるからね」と打ち明ける。
水産物は、取った海域ではなく、水揚げをした港を 「産地」として表示できる。例えば北海道で取ったサンマを宮城・気仙沼港に揚げれば「宮城県産」だ。ただ、水産庁は「放射能汚染の広がりで、どこで取れた魚なのかに対する消費者の関心は高い」 (担当者)として、昨年10月、取った海域を「産地」として示すよう関係業界に通知した。
通知に強制力はないものの、大手スーパーのイオンやイトーヨーカ堂が海域表示をスタート。今年に入ってからも西友、いなげやなどが対応を始めており、海域情報提供の流れは加速している。
□ □
福島県いわき市は昨年10月から、農作物に関するデータを集めて公開する「いわき農作物見える化プロジェクト」を始めた。
水や農地、農作物の放射性物質を検査した結果を細かくサイトで紹介。「安全安心という言葉を繰り返していても消費者には受け入れられない。判断するための材料を隠さず正確に分かりやすく公開しなくては」というのが企画の意図だ。
だが、「見える化」に努めても、消費にはつながらない状況も起きている。
同県喜多方市の「ひぐらし農園」の浅見彰宏さんは昨秋、福島市の市民測定所で新米を調べた。結果は1キログラムあたり数ベクレル。一般的には「不検出」とされる低い値だったが、 「測定器の誤差はあるにせよ、『不検出』はゼロではない。はっきり示した方がいい」と考え、その値を証明書ごとインターネット上に公開し、販売を始めた。
しかし、固定客以外の反応はよくない。「福島産というだけで消費者が受け入れてくれない」
浅見さんを始め、福島県の有機農家、消費者、研究者らでつくる「福島県有機農業ネットワーク」は昨年末、福島米への支援を求める緊急の声明を出した。
「福島県の米は農協の倉庫、業者の倉庫、そして農家の納屋で行き場をなくして年を越す状況にあります」。販路を求めている県内の有機栽培米は少なくとも数十トンにのぼるという。
□ □
「全品目検査」に取り組んでいる生活クラブ生協連合会の槌田博・品質管理部長の悩みのたねは、全国的に食品の検査が進まないなかで、放射性物質が検出された商品を正直に発表すると、逆にそこだけが注目されてしまい、ほんの一部なのに「あそこで売っている商品は危ない」と誤解が生まれてしまう構造だ。
槌田さんは、提供される情報を受け止める消費者に、放射性物質の基準や検査についての知識を持ち、その意味を理解する力(リテラシー)を高めてもらう取り組みも必要だと感じているという。
「食事のカロリー計算をするように、いずれは表示された食品のベクレルで放射性物質を自分で管理できる『ベクレルリテラシー』を身につけることが大切だ」と話す。 =おわり
【この連載は浅井文和、井上恵一朗、大村美香、沢伸也、月舘彩子、見市紀世子、茂木克信が拓当しました 】


