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2012年05月16日:朝日新聞週刊アエラ 

農水省通知に混乱と怒り─国の基準押しつけないで


食品の放射性セシウムの新基準が施行されたが、すでにより厳しい基準での取り組みも始まっている。その中で出された農水省通知に、困惑と怒りが生まれている。

 ゴールデンウィークに入る週の月曜日。農林水産省食料産業局の電話は、朝から夕方まで鳴りっぱなしだった。
 発端はその直前の週末、4月20日夜に、同局が小売業や食品メーカー、外食産業など270の業界団体に出した食品の放射性物質検査にまつわる通知。4月から、厚生労働省が新基準を施行したのを受けて、国より厳しい基準で自主検査を実施している事業者に対し、国の基準に基づくよう求めたものだ。

「ベクレル競争」に歯止め

 新基準では、一般食品の放射性セシウムは1キロあたり100ベクレル(暫定規制値では同500ベクレル)、牛乳と乳児用食品は50ベクレル、飲料水10ベクレルとした。これまで独自の検査体制を敷いていた事業者の中には、新基準の適用を見越してより精密な検査機器を導入し、「20ベクレル以下のみ販売」「牛乳・米は10ベクレル以下に」などという動きもあった。国側にはこうした「ベクレル競争」に歯止めをかける狙いがあった。
 通知では、「過剰な規制と消費段階での混乱を避けるため」と強調。だが、原発事故以来、「暫定」規制値のまま据え置いただけでなく、新基準施行後すぐに「勝手なものさしで測るな」と「指導」されたことに、反発は続出した。
 「消費者が国の基準を信用できないから、自主基準を作らざるを得なくなった」(生活クラブ生協連合会、槌田博・品質管理部長)
 「国に押しつけられる筋合いのことなのか。基準値の問題以前に、規制値を超える農作物が市場に流通してしまうなど、自治体の検査体制も万全ではなかった。指導の前にやるべきことがあるのではないか」(大地を守る会、戎谷徹也・事業戦略部放射能対策特命担当)

フィクション化した基準

 そもそも通知の背景とされる、生産者からの批判はあったのか。担当した農水省食料産業局(食品小売サービス課)に問い合わせると、「省内の別の局には批判が来ているかもしれないが、把握していない。小売り担当の私たちは、新基準でぐんと安全になったことを周知させたかった」と縦割りらしい答えだった。
 「どんどん低い基準が出ると、政府の基準は見かけ上高いと思われる」(同局)というが、この通知で逆に消費者は混乱した。
 「独自基準がダメなら、化学肥料や農薬の使用を制限する有機JAS規格は? 減農薬の食品が棚に並んでも、他の商品への不安や不信感が増したとは思えない。放射性物質だけ縛りがあるなら、気をつけたいと考える人は、遠方の農作物を買うなど自衛を続けなければならないのでしょうか」(埼玉県草加市の主婦)
 通知から3日後、鹿野道彦農水相は「強制力はない」と釈明した。
 肝心の生産者側は「風評」との狭間に悩む。コメなどの生産者団体「ジェイラップ」(福島県須賀川市)代表の伊藤俊彦さんは、通知が「農家を守っているようには思えない」と否定的だ。同団体は、昨年6月、世界的にも厳しいウクライナ基準(主食のパンで20ベクレル)以下でなければ販売しないと決めた。田の除染やセシウムの吸収を抑える農法の試行錯誤で、昨年の収穫分でも、炊飯した白米ではキロあたり平均1ベクレル以下に抑えられた。
 「国の基準はフィクション化した。健康・命に直結する消費者は、測って実態を知らせるノンフィクション』に反応する。私にも孫がいて、1ベクレルでも低いものを家族へというのが悲願。福島のコメの信頼回復のためにも、汚染されない稲作の技術確立とその分析結果を広める手段として、独自基準を続けていく」
 せっかくの新基準が「架空」と言われぬためにも、通知以前の努力が、国に求められている。

編集部 古川雅子

朝日新聞週間アエラ 2012年5月14日号より