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2013年11月15日:毎日新聞

【食卓の裏側で】遺伝子組み換えのいま─広がる「作らない」農地

「ここは遺伝子組み換え作物拒否地域」などと書いてフリーゾーンを宣言する看板の横に立つ老沼さん=東京都町田市で、大迫麻記子撮影 国内では市民団体が中心となって遺伝子組み換え作物への反対運動が展開されている。主な活動の一つが、国内で組み換え作物を植えさせない農地拡大の取り組みだ。

●フリーゾーン運動

 「遺伝子組み換えと言われてもよく分からない。分からないものを、作ることはできない」
 東京都町田市の農業、老沼(おいぬま ゆきひこ)幸彦さん(75)はそう強調した。先祖代々、受け継いできた約2ヘクタールの地で、チンゲンサイやピーマンなど20種類の野菜を作っている。老沼さんは、「自分の農地では、遺伝子組み換え作物は作らない」と決めている。その思いを看仮に掲げて周囲に示す農家の一人だ。意思表示された農地は「フリーゾーン」と呼ばれ、組み換え作物を作らせない場所になる。
 フリーゾーン運動は、欧州が発祥で、日本では滋賀県で2005年にスタートした。フリーゾーンの面積を毎年、調査している市民団体「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」事務局(東京都)によると、今年2月現在の面積は、前年を約3500ヘクタール上回る計8万1865ヘクタールにのぼる。国内の農地面積約453万ヘクタールの2%を占める。同事務局の纐纈(こうけつ)美千世さんは「運動が始まってから、一貫して増え続けている」と説明する。 
 都道府県別では、北海道が約4万5000ヘクタールで最も広く、宮城県が約7600ヘクタール、徳島県が約6900ヘクタールと続く。富山、福井の2県をのぞく45都道府県の農家が参加し、山形や千葉など32都府県では前年より面積が拡大した。同事務局は「フリーゾーンの内容を知れば、賛同してくれる農家が多い。地道に呼びかけたい」とし、全国の農地面積の1割を当面の目標に掲げている。
 減農薬など、厳しい消費者にも納得してもらえる農業を心がけているという老沼さん。フリーゾーンを宣言したきっかけは05年、数十年のつき合いのある生協「生活クラブ東京」から運動について聞いたことだった。同生協は、組み換え食品を使わない方針を掲げている。
 生活クラプ東京政策推進課の冨沢廉課長は「長期間、遺伝子組み換え食品を食べ続けた時の安全性は、まだ証明されていない」と指摘し、今後も農家にフリーゾーンヘの参加を呼びかけることにしている。

●栽培許可に31万円

 一方、地方自治体には、独自の条例などで組み換え作物の栽培を実質的に困難にする仕組みを設けているところもある。
 現在、日本国内では大豆、トウモロコシ、ナタネ、パパイア、バラなど8植物97種類の組み換え作物の栽培がカルタヘナ法で認められている。環境への影響で問題がないと国が確認したものだ。
 しかし、現実にはバラなどの花を除きこれまで商業目的で栽培された例はない。栽培が難しい理由の一つに都道府県がつくった組み換え作物の交雑防止条例や栽培ガイドラインがある。
 農林水産省によると、茨城県、北海道が04年に栽培ガイドラインをつくったのをはじめ、現在、岩手、宮城、新潟、干葉、東京、神奈川、京都、滋賀、兵庫、徳島の12都道府県で条例かガイドラインがある。他に山形県鶴岡市や茨城県つくば市など3市2町でも条例がある。
 これらは栽培自体を禁止しているわけではないものの、栽培時の許可や届け出▽専門家による審査▽花粉が飛ぶことによる交雑防止措置▽周囲の合意─などを義務づけている。大半は04~09年に制定された。
 北海道の条例では栽培許可を得るだけで1件あたり約31万円の手数料がかかる。「交雑などで県内の農産物の品質やイメージが悪化するのを防ぐのが主な狙い」(神奈川県)と多くの自治体は地場産への影響などを懸念している。

  【大迫麻記子、小島正美】
 =つづく

▲カルタヘナ法
生物の多様性を壊さないよう環境での適切な管理や制度整備の枠組みを規定した国際条約「カルタヘナ議定書」に定められた項目を、日本で実施する場合に必要な取り扱いを定めた法律。関係業者は組み換え作物の輸入、栽培、販売などの際、関係大臣の承認を得る必要があり、交雑防止措置の実施も求められている。