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親から子へ、子から孫へ 有機農業は「勇気」から生まれる ながさき南部生産組合 ■提携先  ■提携品目 

文/山田 衛  撮影/田嶋雅已  生活と自治2017年3月号掲載

1996年から生活クラブ生協と提携する「ながさき南部生産組合」は、長崎県島原半島の南島原市にある。同組合では会員農家が有機栽培したタマネギ、ジャガイモ、トマトや温州ミカンなど年間30種類の青果物を出荷している。

 
 

会員農家の半数近くに後継者

長崎県の島原半島にある「ながさき南部生産組合」(本部・南島原市)は98人の正会員と22人の協力会員の計120人の農家からなる。

会員農家の平均年齢は54歳で、正会員の半数近くが親子二代で農業を営む。日本農業の中心的な担い手が65歳を超え、後継者不足が深刻な問題とされるなか、実に頼もしい存在だ。

同組合では組織運営を担う理事の世代交代も進め、昨年からは中村大介さん(40)が代表代行を務めている。中村さんは農業高校を卒業後、父親の清忠さんと1.6へクタールの農地でトマトのハウス栽培に力を注いできた。いまは8歳の長男を筆頭に3人の子どもの父親となった中村さんに息子に農業を継がせたいかと尋ねると「それは僕がどんな背中を見せられるかどうかでしょう。しんどいけれど奥が深くて楽しいのが農業であり、頑張って続けていけば十分家族で暮らしていけるという姿を見せられれば、その気になってくれるはずです」とほほ笑んだ。

中村さん白身も父親から農業を継げと言われた記憶はない。自分が取りたてて抵抗なく農業の世界に入れたのは、父が丹精込めて育てた作物の味に魅了されたからだ。

「子どもの頃から父の育てたトマトは本当にうまいと感じていましたし、同様の評価を周囲からも得ていました。それが自分の誇りでしたし、消費者に納得してもらえる作物を頑張って育てれば、自分も父のように家族を守って生きていけると、いつしか自然に考えるようになりました」

除草剤や土壌消毒剤を使わず、農薬と化学肥料の使用を慣行(一般)農法の半分以下に抑えるのが、同組合の定める自主基準だ。残留農薬検査を定期的に実施し、栽培情報などの開示を徹底しながら、会員が生産した作物に関する公開監査制度も導入している。
これらの条件を着実に克服しながら、中村さんの父・清忠さんは質の高いトマトを育て、同組合のだれより早くミニトマト「アイコ」の品種導入にも取り組んだ。栽培経験のない新品種の導入には多くの困難が付いて回るが、その安定生産を見事に成し遂げてもいる。

「おいしくて、不安なくだれもが口にできる」と消費者に愛される父のトマト。それが長年積み重ねた試行錯誤の実践から生まれたと思い至ったのは、自分の力だけを頼りにトマト栽培に取り組むようになってからだという。「肥料の投入時期や投入量をはじめ、水の管理も一朝一夕にはいきません。

父の向き合った課題の大きさを痛感しています。そんなとき頼りになるのがトマトの生産者仲間。互いにアドバイスし合い、皆で他産地を訪ね歩いたりしながら栽培技術を高めていけるのがありがたく、何よりうれしいです」

*写真:自分が農業をしている姿が息子の目にどう映るかに「わが家の農業の未来がかかっている」と中村大介さん(撮影・魚本勝之)

「異常気象」に高まる不安

組合理事として中村さんの代表代行業務をサポートしながら、父・康明さんと2.5ヘクタールの農地でタマネギ栽培に精を出すのは荒木敏明さん(41)だ。

今年で農業歴18年を迎えた荒木さんに、そろそろベテランの域に入ったのではないかと聞いてみると、とんでもないといわんばかりに右手を顔の前で大きく左右に振り、「四季ごとに異なる作物を年間通して栽培するという意味では18回の経験しかない未熟者です」と言い切る。

長男の自分が農業を継ぐのも自明のことだと思っていた荒木さんに、父の康明さんは「農家が嫌なら出て行ってもいい。医者になりたいのであれば医学部に行けばいい。後は田畑が荒れるだけだ」と析に触れて話したという。

それでも荒木さんは農業で生きる決意を固め、東京農業大学に進んだ。「環境保全型の有機農業を地域に広めることに人生をかけ、生産組合の設立に奔走した父や叔父の姿に強い影響を受けて育ったからだと思います。叔父の近藤一海は現在も当組合会長・代表理事として頑張っています」

大学卒業後、組合の仕事を手伝いながら、田畑に出て汗を流してきた荒木さんは「ここ島原の地で、先祖が大地と格闘しながらはぐくんできた田畑を守り続けてきた両親の苦労には頭が下がりますし、ときには胸が熱くもなります。そんな私たちの農業を次世代に伝えていくために、今後も精進を重ねていきたいです」と訴える。

目下の悩みは異常気象の影響だ。この数年、梅雨前線が長崎県上空に停滞し、ゲリラ豪雨と称される突然の大雨に断続的に見舞われる。過去の記録がほとんど参考にならないような気温の変化にさらされ、作物の生育に深刻な影響をもたらしている。常に自然の脅威と向き合わなければならないのが農家の定めだと頭ではわかっていても、割り切れない思いが募って仕方がないという。

「豪雨、長雨、曇天が続くと土壌や作物の表面に糸状菌などの病原菌が繁殖し、病害が発生しやすくなります。私たちは毒性の強い土壌消毒剤を使いませんから、作物が連鎖反応的に被害を受けるリスクを抱えて栽培しています。有機農業は『勇気農業』といわれるゆえんです」

*写真:「これからも医食同源を支える農業に誠心誠意取り組んでいきたい」と荒木敏明さん(撮影・魚本勝之)

直売所と「インショップ」で

作物の収穫が減少すれば、農家の収入が減るのはいうまでもない。同様の事態が3年続けば農家は経済的に困窮し、最悪の場合は廃業を考えざるを得ない状況に陥ってしまう。そんな不測の事態へのセーフティネットとして、同組合は2005年12月に諌早市貝津町に農産物直売所「大地のめぐみ」を開設した。

直売所が取り扱うのは同組合の会員が少量多品種栽培する野菜やくだものが中心で、目減りした農家の所得を補てんするのが目的だ。さらに地元生協や小売店の協力を得て、長崎県内5店舗、福岡県内12店舗で同生産組合の作物を販売する「インショップ」も運営している。

「わが家も昨年はタマネギの出荷がままならず、経済的な痛手を受けました。ですが、組合の直売所やインショップがあったおかげで母の育てたキャベツなどが販売でき、一定の収入につながったのは大きかったです」と荒木さんは目を細める。だが、今春出荷予定のタマネギの作柄が話題になると「まったく予断を許しません。気温も降雨量も芳しくなく、不安な毎日が続いています」と即座に表情を曇らせた。昨年同様、今年もタマネギが不作になれば農家経営に深刻な影響が出てくるのは確実だという。

「それは僕の家に限った話ではありません。やはり組合全体で解決を目指し、病気に強い品種導入や土壌改良に努めていかなければならない課題だと受け止めています。タマネギだけでなく、ここ数年はジャガイモも不作が続いていますが、土壌にリンが多すぎるという畑の性質にも問題があることがわかってきました。僕は大学時代に培った知識を生かした土壌改良の研究を個人的に続け、成果を組合に還元していきたいと思っています」

長崎県諌早市にあるながさき南部生産組合の直売所「大地のめぐみ」。同組合の農家が有機農法で生産したコメや野菜が年間30種類以上並ぶ(撮影・魚本勝之)

タマネギ畑の前には「有機栽培」されていることを示す看板が立つ(撮影・田嶋雅巳)
 

農家の暮らしを守る使命

荒木さんや中村さんをはじめとする会員農家120人が栽培した作物は、組合本部に併設された「有機農産物産直センター」に会員農家自身が搬入するのが原則だ。同センターにはコメをはじめ、四季折々の野菜やくだものなど年間30種類が運ばれてくる。これらの箱詰め出荷と販売、販路拡大を担うのが同組合の事務局だ。通常は職員15人と常勤パート20人で業務にあたり、作物の出荷量が増える時期には季節パート60人を雇用して対処してきた。

ところが、この数年はいくら募集をかけてもパート採用がままならない。「一番の悩みは人手不足。このままでは作物の箱詰めと出荷作業に支障が出る恐れが出てきました」と職員で経理担当の増田雄士さん(47)は嘆息する。「農家も収穫時期には人手の確保に悩まされています。時給を高くして募集すればいいのかもしれませんが、資材費やハウスの燃料代が高値傾向にあるなか、さらなるコスト増につながるような選択はできないのが実情です」

九州圈はもとより関西や関東の取引先に作物を配送するトラック運賃の上昇も、農家と組合の経営を圧迫する大きな要因にもなってきた。

この問題への対策に同組合では1990年代に着手し、配送コストの削減策を模索しながら、提携先と納品価格の見直し交渉を重ねている。増田さんは言う。

「この間、異常気象などの影響で野菜の小売価格が高騰しているのは事実です。しかし、それで農家手取りが増えているわけではありません。資材費や燃料代さらに配送費の上昇で、むしろ農家手取りは目減り傾向にあります。だから、僕らは配送コストの上昇分を反映した納品価格の設定を提携先にお願いしながら、大型トラック1台分に満たない小口の取引先への配送は宅配便に変更するか、場合によっては納品をお断りするなどの対策も講じています。僕らの仕事は可能なかぎり経費削減に努め、農家手取りを少しでも増やし、会員農家の暮らしに貢献することです。その使命を忘れずに今後も頑張っていきたいと思っています」

*写真:ながさき南部生産組合職員の増田雄士さん。経理担当としてコストカットを進め、少しでも農家所得の向上に貢献するのが「僕らの使命」と言う(撮影・魚本勝之)

ながさき南部生産組合の本部に併設された「有機栽培産直センター」ではスティックブロッコリーとミニトマトの出荷準備作業が進められていた。春の到来を感じさせてくれる「旬」の味覚の新・タマネギだが、異常気象の影響で今年も収穫量の減少が懸念されている(左下写真)(撮影・田嶋雅己)


◆「あっぱれ」、「はればれ」の向こう側

撮影/田嶋雅己 文/本紙・山田 衛

「皮をむくのが面倒だから、ジャガイモを買わないようにしている人が増えてきたと、取引先から言われることが多くなってきました」と話すのは、ながさき南部生産組合で営業を担当する荒木豊久さんだ。

最初はまさかと思っていた荒木さんだが、この数年のジャガイモ出荷量の減少に家事の「時短」が影響しているのは間違いなく、どう対応したらいいものかと真剣に考えるようになったと苦笑する。

同じ悩みを抱えた産地はどうやら少なくないようで、懸命に「皮がむきやすいジャガイモ」をつくり出そうと、品種改良に乗り出した産地まであるという。それがジャガイモ表面の凹凸をなくして極力平たくし、ピーラーでシュッとするだけで、楽に皮がむける「楽ちん品種」を開発するための努力だと聞き、何ともやるせない気持ちになった。

そうした消費者の「お手軽志向」への対応のみならす、各地の農家が苦慮しているのが異常気象をどう乗り切るかという問題だ。

「もはや前年実績はもちろん、経験則がはとんど役に立たない状態です。収量が見込めなければ作付け計画にも支障をきたします。とにかく作物がとれず出荷できないのですから、農家の経営に深刻な影響が出てくるのは当然です」と荒木さん。

長雨や日照不足、日照り続きや乱高下する気温などに起因する病害虫の発生は、国内の農業者共通の悩みだ。

それが化学肥料を使わずに栽培期間中は化学合成農薬を使用しない「有機無農薬栽培」や、異なる成分の薬剤を何回使ったか示す「農薬成分回数」を一般農法の半分以下に抑える「特別栽培」を続ける農家には、より重い課題となってのしかかる。

生活クラブ生協では、昨年からこのような「有機無農薬栽培」で育てた野菜には「あっぱれ」、「特別栽培」で育てた野菜には「はればれ」の呼称を付与し、組合員向けに発行する「食べるカタログ」に明示している。その集荷も異常気象の影響を受け、組合員に届けられない欠品が数多く発生する状況が続いている。

「せっかく注文いただいたのにと申し訳ない気持ちでいっぱいです。今年も作柄がどうなるか読み切れない不安を抱えたままですが、それでも当組合の会員農家は親から引き継いだ有機農業を次の世代につなげようと笑顔でがんばっています。この点だけは忘れないでいてください」と荒木さんは力を込めて話す。

*写真上から:タマネギ部会の生産者、トマト部会の生産者、スティックブロッコリー部会の生産者

 

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