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厳寒の海から届く、ごはんの友だち みえぎょれん販売(株) ■提携先  ■提携品目 

文/宮下 睦   撮影/御堂義乗  生活と自治2017年5月号掲載

黒くつやのある海苔(のり)は、磯の香がごはんのおいしさを引き立て、すしやおにぎりはもちろん日常の食卓にも欠かせない。
海苔漁師たちとこれを支えるみえぎょれん販売は、持続的な海苔生産をめざし、さまざまな試みを続ける。

 
 

過酷な収穫現場

「命がけでとってくるんですよ」
沖合での作業を終え、船から戻った鳥羽磯部漁業協同組合の海苔漁師たちはそう口にする。
三重県鳥羽市の沖合に浮かぶ答志島は良質な海苔の産地だが、波は荒く、鈴鹿おろしの風は冷たい。海苔は水温23度以下でないと芽が伸びないため、収穫作業は11月下旬から翌年4月中旬まで。厳寒の海に小船を出して海苔網の下にもぐり、全身ずぶぬれになって海苔の芽を摘む作業は過酷だ。

摘んだ原藻は持ち帰り加工する。海苔漁師は通常、一軒ごとに加工施設を備え、自宅で和紙のように原藻をすき四角い海苔に仕上げる。以前は同漁協答志地区でも個々に加工作業を行っていた。
「短期集中、突貫工事みたいなものでした」と「答志海苔養殖業者会」の会長、山下敏也さんは当時をそう振り返る。時期が短いうえに海が荒れれば船を出せず収穫できる日は限られる。好機を逃さず全力で摘み夜は加工作業をして、また翌朝でかけるという毎日。九州など全国の海苔漁師も寝ずに作業していると思うと負けられないとの思いが強かった。

漁師が出荷した海苔を入札で仕入れ販売する、みえぎょれん販売営業部次長の前田昌範さんは言う。
「冬に漁師さんのところにいくと、目の下にクマをつくってひげは伸び放題、聞けば、徹夜3日目とのこと。そんな状態で沖に船をだすわけです。けがや事故につながらないかと心配でした」
その姿を見て子どもたちは海苔漁師になろうと思ってくれるのか、一番の心配ごとだった。

共同の力で新たな一歩

この状況を打開しようと、2014年、答志地区の9軒の海苔漁師たちは、共同加工場を建設し共同運営という新たな生産体制に踏み切った。総額5億円。国や県、市からの助成金はあったが、不足の2億円は自分たちで出し合った。漁師たちは海で原藻を摘み加工場に搬入、1枚あたりの加工賃を支払い、専門オペレーターに委託するしくみだ。

水産庁が数年前から提案していた事案だが、なかなか手を挙げるところがなかった。この話を答志地区の漁師たちに持ちかけた鳥羽磯部漁協・購販事業課長の倉田昭さんは、次のように話す。
「新しい挑戦です。後継者がいなければ誰もその気になりませんがこの地区にはいた。彼らのためにみんなが本気でやろうと思ったし、漁協の私らも海苔漁師の減少を食い止めたいと全力で支えました」

結果、「いろいろなことが劇的に変わったよ。良いほうに」と山下さんは言う。卒業式シーズンは海苔収穫の最盛期だ。長男、次男のときには一度も出席できなかったが、末娘の卒業式には初めて出席できた。
「始めるときはいちかばちか。大変たったけれど、おかげで作業は安定し、今はゆっくり子どもと食事ができる。少しくらい収入が減ってもそれが一番だよ」
自分一人ではできなかったことだ。これまで個々に行なっていた作業も手が空けば互いに助け合うようになった。機械も最新になり海苔網の管理に力を注ぐ余裕もできた。品質は格段に向上したという。
「同じ時期の海苔やったら味は負けない」と山下さんは胸を張る。今は答志地区だけの試みだが成功事例として認められ、来年からは隣の菅島でも導入される予定だ。

みえぎょれん販売の前田さんはこの試みを支えたものの一つに、生活クラブとの提携があると言う。
「40年続く提携の実績があり、先を見通せるからこそ、後継者も育ち設備投資にも踏み切れたんだと思います」
 

1.海苔網の下に船をもぐらせ、船についているカッターで海苔の芽を摘む

2.海苔網についた海苔の原藻。海苔の養殖は、種(胞子)をカキ殼に植え付け、水槽の中で育ててから海苔網に付着させ、 海中で成長させる

3.海苔摘み船。小型だが作業は沖合なので荒海では危険が伴う
 

4.共同加工場で原藻をすき海苔に仕上げる。10列ある最新式の設備なので効率もいい

5.すきあがった海苔。異物除去も徹底しロス率も減った。安心安全の度合いも高まったと山下敏也さんはいう

等級と用途のマッチング

みえぎょれん販売と生活クラブとの提携の開始は1978年にさかのぼる。工場や家庭からの排水で海洋汚染が深刻だった当時、答志島の桃取地区では海を守ろうとせっけんの普及に力を入れていた。
「職員さんが産地を訪れたとき、『合成洗剤追放』の看板が目に入ったんですね。品質もいいし、ぜひこの浜と直接提携したいとなったようです」と前田さん。とはいえ、海苔は農産物の契約栽培のように産地指定できるものではない。収穫時期や海の状況、加工具合でその質は多岐にわたるため、専任の検査官が色、つや、厚さ、味などの基準で20~60もの等級に格付けして入札にかけ、多くの業者が価格を提示して落札、質に応じて各用途に振り分けるのが通常だ。

産地指定など前代未聞の要請だったが、桃取の漁師たちは比較的若手が多くこれを柔軟に受け止め、検討してくれた。結果、みえぎょれん販売が入札に参加し、生活クラブ用に桃取地区の海苔を確保するという形で提携が始まった。産地限定で年間供給量を確保するため、当時の担当者は相当緊張したようだと前田さんは言う。利用量の増加に伴い、現在は桃取に加え、同じ島内の答志地区、隣の菅島の海苔が「伊勢のり」「焼伊勢のり」として提供されるようになった。

みえぎょれん販売が産地との間に入ることは思わぬ成果にもつながった。60もの等級は、生産者にとっては良い海苔をつくるための励みとなる基準だが、必ずしもそれが今の消費者ニーズに対応しているとは限らない。高級すし店用であれば穴が一つでもあれば問題外だが、家庭用ならそこまで厳格でなくてもいい。「等級の意味を理解しつつ、使う人のニーズも把握し、その折り合いを見極めて落札するのが私の什事です」と前田さん。生活クラブの組合員と交流を重ねその思いがわかっているだけに、何を妥協し何は譲れないか、その判断には自信があるという。ほかの問屋任せではこうはいかない。
「直接使う人の顔がみえなければどうしても予算ありきになりがち。この価格で本当においしい海苔を提供するのは難しいでしょうね」
生産者、消費者双方と接する人が入札に参加することではじめて成り立つ価格と質だという。

写真:みえぎょれん販売・営業部次長の前田昌範さん

温暖化を乗り越えて

海苔をめぐる生産環境は地球温暖化の影響もあり、近年厳しさを増している。秋は長く春は早くなり、質の良い海苔が収穫できる時期は格段に狭まった。かつて年間約100億枚あった目本の海苔生産量は減少を続け、今シーズン70億枚台まで落ち込んだ。しかし前田さんは「気候変動は仕方ないとあきらめているわけにはいきません」という。

三重県漁業協同組合連合会では、刻々と変化する海の状況を調べ、収穫すべき時期を逃さないよう、漁師たちに的確に情報発信する努力を続ける一方、新品種開発などの研究もすすめる。
前田さんもこれらの動きと連動し、あらゆる工夫をしていきたいと前向きだ。
「海苔にごはん、定番で飽きない食生活です。品質の良いものを将来にわたって食べ続けてほしい」とその思いを語る。
 

写真:鳥羽磯部漁業協同組合・購販事業課長の倉田昭さん。海苔の格付けを行う検査官でもあり常に公正中立で海苔の質を見極める目が要求される


◆食卓にいつも海苔~香りと味を楽しんで


品質を維持しつつ利用しやすく

生活クラブで扱う海苔(のり)の等級は「伊勢のり」「焼伊勢のり」と「焼のり」、大きく二つに分かれる。「味付のり」は焼のりと同じ材料だ。焼のりが開発されたのは1980年代後半。バブル崩壊後の価格破壊の時代に、品質はある程度維持しつつもよりリーズナブルな海苔ができないかとの発想から生まれた。「共同購入の利点を生かし、コストを徹底的に見直すことで市販品に負けないものにしようと工夫しました」とみえぎょれん販売・営業部次長の前田昌和さん。家庭では難しい、もっともおいしい焼き加減も追及したという。
「家庭で海苔を焼く文化は徐々に少なくなってきましたが、伊勢のりの品質は誇るべきもの。やはり多くの人に食べてもらいたいと次に焼伊勢のりも開発しました」
好みはもちろん、用途や場面に応じて活用してほしいと前田さんは言う。冷蔵庫にいれておけば1年間は品質を保てる。適当な大きさに切ってつねに食卓においておく、というのが前田さんのおすすめだ。
「ごはん以外にも刺し身やおひたし、チーズなど。食卓のいろいろなものをちょっと巻いて食べると、おいしいのはもちろん、カルシウムやミネラルの補充にもなります」

右上写真:焼のりの製造ライン。穴などの点検もていねいに行う

冷凍工程がおいしさの秘密?

鳥羽周辺では昔から、収穫した海苔を個々の家で冷凍保管し加工するという方法が一般的だった。波が荒く、船を出せないときに陸で加工作業できるよう保管しておくためだ。設備投資や手間のかかる工程だが、近年になって実はこのひと手間が海苔の品質をあげているとわかってきた。冷凍する過程で細胞がダメージを受けると柔らかく口当たりがよくなる。原藻を真水で洗う際にも一度冷凍したものは潮が抜けやすい。加工の際も割れにくくつやもよくなるというのだ。今後は「冷凍熟成海苔」としてアピールしていくことも検討中だという。

色は「うまみ」のバロメーター
 
温暖化の影響は、生産量の減少だけでなく海苔の質にも影響している。水温が上がると植物プランクトンが増え、海の栄養を奪ってしまうため、海苔に栄養が行き届かず色が薄くなってしまうのだ。
「色の濃さは、タンパク質やうまみ成分の量と比例します。一般的に濃いほどおいしく風味もいい」と前田さん。近年は海苔の不作が続いており、かなり薄い色の海苔も市場に出回るようになってきた。
「かつて1枚3~5円くらいで落札された海苔に倍近い値がつくときもあります。味もそっけもなくうまみはほとんどないのですが、味付け加工したりラーメンのトッピング用などになるようです。これらが出回ると消費者に海苔本来のおいしさが伝わらず、海苔離れが起こらないか心配です」と顔を曇らせる。量だけでなく、海苔独自の風味やうまみを維持していくためにも、さらなる工夫を模索している。

右上写真:左が規格外品だが、近年はこうした海苔も出回る傾向にあるという

 

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