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受け継がれる有機農業 さんぶ野菜ネットワーク ■提携先  ■提携品目 

文/伊澤小枝子  撮影/魚本勝之  生活と自治2017年9月号掲載

「さんぶ野菜ネットワーク」は、千葉県のほぼ中央に位置する山武市を中心としたほ場で、化学合成農業と化学肥料を使わず微生物や輪作による土づくりをして野菜を育てる生産者グループだ。新規就農者も着々と育っている。
 

はじまりは有機部会

「さんぶ野菜ネットワーク」の始まりは、1988年、29名の農家が集まり、山武郡市農協の睦岡支所園芸部に作った「有機部会」だ。
当時睦岡支所長だった下山久信さんが近隣の成田市三里塚で行われていた有機農業を紹介し、勉強会を始めた。

そのころ、農協では農薬や化学肥料を必要に応じて使う慣行栽培を奨励していた。その組織の中に無農薬、無化学肥料栽培を実践する有機部会が作られたのは、画期的なできごとだった。

当時、メンバーの中で最年少だった28歳で副部会長を引き受けたのが、現在同ネットワーク代表理事を務める富谷亜喜博さん。農家の3代目で、スイカ、トマト、ニンジンなどの慣行栽培を行なっていた。

「消費者が考える農薬の使い方は、野菜に虫がついたり病気が発生しないように散布するというようなイメージだと思いますが、土壌消毒剤といって、地面の中でガスになり虫や菌を死減させる農薬もあります。ガスは空中に放出されると環境汚染につながります。それをあたりまえに使用していたころ、 一番被害を受けていたのは自分たち農家だったのでしょう」。

無農薬栽培は消費者が望んでいたが、農家も農薬は使わない方が健康にいいと思っていた。

しかし有機農業の勉強会では、農薬も使わずに虫を駆除し雑草を取るという大変な作業を考えると、「生業」として成り立つのだろうかと誰もが疑間を抱えた。「でも面白そうなのでやってみようということになりましたよ」と富谷さん。
「無農薬、無化学肥料栽培を始めたころは、そんなに簡単に野菜が育つわけがない、有機栽培の野菜を扱ってくれる供給先などないと言われていました。両親も農家としてやっていけないのではと心配したので、10アールだけ有機栽培ほ場の登録をし、虫がつきにくいサトイモやサツマイモなどを植え付けていました」と笑う。


※写真上:さんぶ野菜ネットワーク代表理事の富谷亜喜博さん
※写真下:堆肥は植木や街路樹を剪定(せんてい)したときにできる木くずを3年ねかせ、そねにもみ殻、豚ふん、米ぬかを加えて作る

 

農法は「あっぱれ育ち」

有機部会では、同じ畑に同じ野菜を何度もつくることによって生育が悪くなったり枯れてしまったりする連作障害を避けるために、輸作を取り入れた。千葉県は気候がよく、首都圏の台所といわれるほど一年中いろいろな野菜が育つ。

栽培する作物の種類を周期的に変え、土壌の栄養バランスをとりながら土づくりをする輪作にはとても適した土地だ。

そうして2005年、有機部会のメンバー146人が参加して、さんぶ野菜ネットワークを立ち上げ、農協から独立した。農法は生活クラブの「アースメイド野菜」の「あっぱれ育ち」と同じ。15年秋から、申し込みカタログに「あっぱれ」「はればれ」「たぐいまれ」育ち野菜のマークがつき、組合員が農法の違いによって野菜を選べるようになると、同ネットワークの野菜の出荷量は大幅に増えた。

さんぶ野菜ネットワーク総務部の山本治代さんは、「春から夏にかけて虫がいっぱいいる時期に、無農薬で虫食いのない葉物を出荷する生産者の努力は大変なものです。ひんぱんに畑を見回り、手で虫を取り除くこともあります」。家庭菜園で野菜を作っているという消費者から「本当に農薬を使っていないんですか」との「問い合わせ」もあると言う。


※写真:さんぶ野菜ネットワーク総務部の山本治代さん。「野菜には生産者の思いや歴史が込められています。食べた時に細胞が揺り動かされるような野菜に出会うことがありますよ」
 

※写真:生活クラブヘ出荷する「あっばれ育ち人参」など

※写真:さんぶ野菜ネットワークの組合員「農業生産法人千葉有機農業合同会社」代表の下山修弘さん(右)、妻の幸恵さん。修弘さんは年間で約12種類の野菜をつくりながら4人の研修生を育てている

新規就農者が30人

日本全国で農業人口の減少と高齢化が問題となっている。同ネットワークでは08年、事務局長の下山久信さんが中心となり「山武市有機農業推進協議会」を設立し、新規就農者を育てる体制を整えた。
研修生の募集を始めてから毎年申し込みがあり、これまで30人が独立して就農した。現在13人が研修中だ。独立後は同ネットワークが野菜の作り方の講習はもちろん生産した野菜の販売も責任をもって引き受け、自立して生活できるように支えている。

「46名の組合員で発足し、それから30名の新規就農者が増えましたが、もともとの組合員も19人減り、現在は57名。有機農業を続けることが難しくなった農業者がそれだけいるということです」と富谷さん。新規の人たちの成長が待たれるという。「畑は1年間放置するとさまざまな草が生え、土が硬くなっていき、元に戻すのに3年から5年がかかります。後継者がいないと長年手入れしてきた畑を荒れさせてしまいますが、新規就農者がいればその人に農地を託すこともできます」と期待する。
今まで培ってきた有機農業の技術や知恵が、新しく農業を始める人たちに着々と受け継がれている。
 

※写真左:落花生の花、右:ミニ冬瓜

【寄稿】農業で独り立ち

さんぶ野菜ネットワーク 宮崎太郎

どうしても農業をやりたい、と思ったわけではなかった。他の仕事でも生活はできる。ただ、農業は面白そうだという漠然とした印象は、実際に畑に足を踏み入れてからしばらくして「農業は絶対に面白い」に変わっていった。

東京で会社勤めをしていたとき、埼玉県小川町の有機農家、金子美登さんを知り、農業経験がない人でも金子さんの畑で仕事を体験できる講座があることを知った。事務局に電話をかけ、その場で参加申し込みをしてこの道に入った。

農業が面白そうだと思ったのは、それが天候を含む自然環境の中で行われること、すべての判断が自分にあること、生きていくために不可欠な食べ物を作れる仕事だったから。

それがないと生きていけないもの、そういうものを仕事にしたいと思っていた。

現在就農1年目。さんぶ野菜ネットワークの一員だ。就農したばかりだけれど日々やることは尽きない。 1日がものすごく短い。明日はニンジンのトンネルを開けよう、夏野菜のタネをまこう、農機具のメンテナンスが必要だと仕事の流れを組み立てていく。時間が短く感じられるのは、仕事の組み立ても実行も自分で行うので基本的に精神的な「待ち」の状態がないからだろう。

農業は絶対に面白い。仕事を覚えていくにつれその思いを強くしていた矢先の去年、叔父がトラクターで事故死した。農家生まれで高校生のころからトラクターに乗り、ラグビー選手のような体をした「カッコイイ男」だったが、即死だった。機械を使って仕事をする農業は死に至る危険と隣り合わせだということを痛感した。畑の中も少し大げさだけど実際に生と死の現場だ。タネから芽が出る。雑草を刈る。野菜を収穫する。とても静かで激しくて、尊い。


※写真:「ただただ美味いものを作りたい」撮影/魚本勝之


◆譲れない「農」への志がある

撮影/魚本勝之 文/本誌・伊澤小枝子

さんぶ野菜ネットワーク事務局長の下山久信さんは、日本の農業は非常に危機的な状況にあると警告する。「日本全国どこへ行っても放棄された田畑と、持ち主がわからなくなり手入れがされていない山林が目につきます。数年後には日本の農業人口が100万人を割ると予想され、将来、国民の食料を作る人がいなくなり、『山河荒れ、国減びる』ことになりそうです」

このような状況に陥った原因の一つは、基幹的農業従事者の急激な減少だ。
2015年には175万4,000人だったが16年には158万6,000人に減ってしまった。そのうち75歳以上が約30%に当たる47万人。5年後には80歳以上になるほとんどの人が農業から退くと予測され、日本の基幹的農業従事者は近い将来間違いなく100万人を下回るだろうといわれている。また、1961年に608万ヘクタールあった農地面積は、2015年にはその4分の1が減り452万ヘクタールになった。
農地を相続しても農業に就かない場合、高額な相続税が発生するため、他の目的に使用してしまう例がほとんどだ。耕作放棄地も42万ヘクタールある。

農家は、今まで農道を整備し、 川をさらい、山の際の手入れをしながらコミュニティーを作り地域を守ってきた。
下山さんは「村に田畑を耕す人がいなくなったらコミュニティーも崩れ、鳥獣被害も拡大してますます荒れていくでしよう。現に、私が耕作する畑がある富里市や隣の山武市、八街市、芝山町でもイノシシによる被害が増えています。農地の大規模化と企業参入をすすめ、田畑も自然も荒廃させてしまった国の政策をだれも批判しません」。まず現状を知ってほしいという。
農業従事者が減り農地面積が減り、当然農産物の作付けも減った。06年に50万ヘクタールあった野菜の作付面積は10年間で3万ヘクタール減った。これは1年間に東京ドーム600個分ずつ減ったことになる。果樹畑も毎年ほぼ2,800ヘクタール減っている。
「国内の需要に対応する農産物の生産ができなくなっています。安い外国産が輸入され、国産品は輸出が奨励されていますが国民の食も賄えなくなるのに輸出どころではありませんよ」と下山さん。スーパーで、なんでもそろっている目の前の野菜を見て買うだけではわからない現実だ。

さらに18年3月末日に種子法が廃止される。これまで各都道府県は、主要農産物の稲、麦、大豆はそれぞれの地域にあった種子計画を作り、農家に安定供給してきた。国は責任を持って予算を割り当ててきたが、種子法の廃止によりその根拠は失われる。この法律の存在が「民間企業の参入を阻害している」とし、十分な審議も農業関係者への説明もなく廃止されることになった。「種子はもちろん、今まで国や各都道府県が試験研究をして蓄積してきた知見を民間に提供するとはとんでもない。種子会社をもうけさせるために農業をしているわけではありません。農業とは本来、国民が食べる食料を生産するためにあります。そこに農業の大義があります」と下山さん。

農業人口が減り、耕作地が減り、先人たちが育んできた公共財産としての種子が民間企業に委ねられようとしている。「国民のために食料を作り、そこから生み出される文化や景観を守っていくこと、それが『農』への志であり百姓としての誇りです。今、農家が農業を営む大義が問われています」
一方消費者は、どんな食べ物を食ベ何を未来に残したいのかが問われている。

※写真右上:さんぶ野菜ネットワーク事務局長の下山久信さん
※写真右下:下山さんの落花生畑。1畝160メートル。雑草取りはすべて人の手で

 

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