生産者リレーエッセイ

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vol.32

荒木 和樹さん提携先(株)味輝

提携品目 Sマークパン粉

されどパン・パン粉。日本で一番の酵母培養技術と安全・安心なパン・パン粉づくりを今後も目指します。

荒木 和樹さん


 
 

皆さんご承知のように東日本大震災が起きました。
犠牲者の冥福を祈り、被災された方々に衷心(ちゅうしん)よりお見舞い申し上げます。

 今日、多くの食品添加物が氾濫するなかで、わたしたちは目先の美しさにとらわれずに、より安全性の高いものを求めていくことが、真の健康につながると考えています。(株)味輝は、主食としてのパンを通して現在の食生活の乱れを正し、自然で添加物を使わずに真の健康にかなった食品をつくり、提供することを目的にしています。
 パンやそれを粉砕してつくるパン粉に多くの添加物が使われていることは皆さんご周知のことと思います。実は酵母培養時にも色々なものを使っているようですが、私どものパン粉の特徴は、天然酵母を無添加でつくっていることです。これは、「パンをつくるには酵母づくりから無添加でなければならない」という社是によるものです。
 一方、市販されているパンやパン粉に添加物が使われていることは今も昔も変わりません。代表的なものとしてイーストフードやビタミンC、PH調整剤などがありますが、これらを使うことで原材料費を安く抑えることができ、さらには仕込みから焼きあがりまでの時間が短縮できるのです。誤解を恐れずに言えば、利益と効率を最優先させた製造方法だということになります。
 健康にかなうパン粉をつくるにはまず、より良いパンをつくらなければなりません。(株)味輝でつくるパンの原料は国産小麦粉に自社培養の天然酵母、それに素精糖、塩(シママース)、水といたってシンプルですが、原材料の全てが無添加で遺伝子組換え対策もクリアするなど、市販品では目にする機会はほとんどないと言ってもいいでしょう。生活クラブに供給させていただいているパン粉を支えているのはこの原材料、そしてつくり手の感性といっても過言ではありません。

 パンづくりに必要な原材料は一般的に1に小麦、2に酵母と言われています。しかし、当社はその逆かもしれません。そして、良い酵母をつくるためには1に米糀、2に米という理念を先代から受け継いできました。その酵母は先代から手造りですから、昔も今も「つくり手の感性の塊」のようなものと言えるでしょう。
 酵母は米と米麹からつくる甘酒を食べて育ちますが、私どもでは、先にも書いたように酵素などの添加物や安定剤を使わない無添加の酵母づくりを実践しています。その実際を説明します。
酵母造りは気温の低い10月から3月にかけて行います。その準備は約1か月以上前から始まります。桶を洗い、使用する道具を洗い、清めます。3日かけて桶に水を張り、10時間以上かけて水を用意しています。1回の仕込みで240㎏の米を洗い、蒸して糀と水を混ぜて24個の桶に入れます。その後半日間、高温を保って糀を働かせ、約12時間後に出来上がった甘酒を櫂で約2時間から3時間かけて冷ましていきます。この時、短時間で温度を下げることが酵母造りのポイントになりますが、真冬で3時間、気温の高い時期なら4時間半、温度や湿度を気にしながら櫂でかき回す作業は気の抜けない仕事で、徹夜することもあるほどです。  
 この後、温度と時間だけが頼りの発酵が始まりますが、乳酸発酵→酵母発酵いずれの過程でも乳酸菌や酵母菌を加えていません。
 私自身も、一昔前までお米を蒸して、米麹をかける作業が仕込みだと思っていました。しかし、今ではそれは全体の一部でしかないことを知っています。準備からでき上がるまで3~4週間。道具洗いからはじまり、仕込みがしっかりできるようになるには私自身修行中で、まだまだ習うための時間を必要とするようです。
 この酵母たちに合うパンの製法が長時間かける中種法です。先代の社長と番頭の二人が製法を編み出しました。これに見合う原材料を一つ一つ吟味して使っていくことが職人としての感性が働く場所です。
 一般的に、同じ道具、同じ条件でつくっても、人が変わると違うものができ上がるといわれますが、当社の場合は極端で、製品になるかならないかという差となって現れてきます。番頭がいると見事なパンに焼きあがりますが、いないと売り物にならないパンになってしまうのです。そんな経験をしたのは今から10年前、社長交代を機に製パンを仕切ることになった時でした。「パン造りは容易」と高をくくっていたのですが、日ごとに違うパンの生地状態を見て、恐ろしさと楽しさが日替わりで襲ってきたほどです。この時、パン造りの難しさと奥深さを知ることになりました。
 あまりの難しさに酵母に問題があるのではないかと疑ってみたりもしました。この時期から酵母やその原材料に向き合うようになり、原材料のお米がなんでも良いというわけではないという結論に達しました。最後に行き着いたのはお米が収穫されてどの位の時間が経過しているか、精米してどの位時間が経過しているかというエージングでした。現在、お米は庄内みどり農協から、収穫後1年間寝かせたものを取り寄せています。これを精米した後一定の時間を置いてから原料として用いています。
 お米のエージングを気にするようになってから、小麦も気になりだしました。同じような視点から始まった小麦と小麦粉へのこだわりも、この頃から始まりました。最終的には小麦粉のブレンドに挑戦し、これらに合うエージングを見出しました。

 ところで、生活クラブと出合ったのは1987年、埼玉単協とのパンでの提携でした。91年に国産小麦を原料とした無添加パン粉が生活クラブ連合会との取組みへと発展しました。米と小麦粉へのこだわりは原材料生産者の存在なしには成り立ちません。生活クラブを通して他の生産者と連携できることは大変、有り難いことです。
 一粒一粒のお米や小麦を大切にして酵母ができ、パンができあがる。難しいと思われていた(株)味輝のパン製法も今では幾分、簡単にすることができました。とはいえ、季節、気温、湿度に応じて変化する醗酵のスピードや強さ、焼け方の違いを感じ取り調整する力が求められます。パン粉用に天然酵母・無添加・国産小麦粉のパン専用に焼いて、そのパンを粉砕後、乾燥させてでき上がるのがパン粉です。
 たかがパンやパン粉と思われがちですが、私たちにとってはされどパン・パン粉です。日本で一番の酵母培養技術と安心・安全なパン・パン粉づくりを今後も目指します。


【次回生産者】

あじハンバーグの生産者、三重県漁連の予定です。お楽しみに。

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