生産者リレーエッセイ

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vol.35

伊野 松彦さん提携先(株) 紅葉堂

提携品目 Sマーク素精糖カステラほか

国産原料でつくるカステラは、今でも気難しい赤ちゃんのようなお菓子です。

伊野 松彦さん


 
 

弊社は昭和21年2月、東京都港区にて創業、小さなスペースでしたが長崎カステラの製造を始めました。その後、工場拡大にともなって場所を変え、今から30年程前に埼玉県比企郡に移り現在に至っています。
1987年に生活クラブと知り合って以降、カステラ、どら焼き、饅頭などを生産させていただいていますが、「生産者の材料を使って、また国内産小麦粉を使用して長崎カステラを作ってほしい」という組合員からのご要望をいただいたのは1990年頃でした。当時は国産小麦粉を使用したカステラすら存在していなかったと記憶しています。今でも、国産小麦粉100%を使用してカステラを量産、安定供給しているメーカーは紅葉堂しか知らないと製粉メーカーから聞いています。
ご要望をいただいたものの、カステラに使用する小麦粉といえば外国産の「特宝笠」が良いとされていて、弊社全体はもとより、私も小麦粉を変えてしまってはカステラの基準が崩れてしまうのでは?と消極的でした。しかし、皆様からのご要望やその思いを丁寧に説明していただき、次第に弊社社長や製造社員のなかに「この思いに応えたカステラを作りたい!」という機運が生まれてきたのです。こうした経緯で国産小麦粉を使用したカステラの研究は始まりました。
菓子業界の中でも、カステラ製造は難しいとされています。もっとも、手焼きからライン化したカステラまで製造してきた弊社にとって、国内産小麦粉を使用したカステラの開発は難しくないだろうと考えていました。ところが、いざ研究が始まると、国産小麦粉でカステラを製造することの難しさを“いやというほど”知らされることになります。安定どころか、ふんわりと焼成することすらままならならず、ミキシングや焼成の方法を色々と変えて試作することの繰り返しでした。
この難しさは品質特性に由来しています。日本で流通している小麦粉の割合は外国産が8に対して国産は2。外国産小麦粉は、生産量が多いため小麦粉の物性にブレが少なく安定した高品質なものが多く、2次加工など製造のしやすさが大きなメリットです。それに比べて国内産小麦粉は収穫量が少なく、畑の場所が一つ違えば小麦粉の質も違ってくるほど、品質に大きなブレがあるために常に不安定な状態の小麦粉を相手に製造を行なわなければならなかったのです。グルテンや灰分など、外国産と国産の物性が違うこともあってか、何度試作を行なったか思い出せないほど失敗の繰り返しでした。そうしたなか、国産小麦粉で製造するためのポイントを少しずつ見つけたことで、ようやくカステラと呼べるものが出来るようになりました。
国産小麦粉100%のカステラを製造してから15年以上経ちますが、今でもカステラの浮きが悪い、生地が締まるなどに苦しめられることがあります。その度に新しい発見があり解決方法を見つけることが出来るのですが、国産小麦粉で製造するカステラは「本当に気難しいお菓子なんだ」と痛感しています。反面、気難しいお菓子だからこそ、カステラに対する思いはとても強いものがあります。

卵、素精糖、国産小麦粉に、味わいを深めるもち米飴とハチミツ。材料はいたってシンプル国産小麦粉100%のカステラ製造は、確固たる地位を確立したカステラ製造会社が数多く存在する中で、他社との差別化をしていくためには国産小麦粉を使用し、原料の品質や安全性の追求とトレーサビリティにもこだわったカステラを完成させることが弊社にとって生命線になると考えてのスタートでした。このため、それを安定供給するという難しい問題を乗り越えることが出来て本当に良かったですし、この機会を与えて下さった組合員の皆様には本当に感謝しています。
海外から多くの食材が入ってくるようになりました。お菓子も例外ではありません。新しい文化を知るうえで、また、色々な国のお菓子を食べ学ぶことは大切なことだと考えています。しかし、それによって日本の伝統的なお菓子市場が縮小してしまうことはとても残念なことです。また最近、味が濃いものや油分の多いもの、香料などの添加物が色々と入った食べ物を子どもの頃から頻繁に摂取することで、味覚障害や肥満体質になる方が増加しているといいます。和菓子は日本人の体質に合っていて、小豆などヘルシーな原料を使用したお菓子が多く、食育にも向いている食べ物だと考えています。
あるマラソン選手が、試合前の朝食で必ずカステラを食べると言っていました。栄養バランスが良くエネルギーに変わりやすい、また胃への負担も少ないなど優秀な要素が多いカステラを次の世代の子どもにも食べてもらいたいと願っています。そして日本の大切な文化を継承し、今後も、生活クラブ提携生産者の一員として日本人の大切な味覚を守っていきたい。そのためにも、新しい消費材を色々と提案したいと考えています。引き続き紅葉堂のお菓子を宜しくお願いいたします。

【次回生産者】

温州みかんなどの生産者、大西園グループの樫葉幸生さんです。お楽しみに。

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