生活クラブの挑戦ー手づくりの「地域福祉」を目指して

貧困問題解決への第一歩。 生協と労働福祉団体の連携でフードバンクを設立

2018年6月号

2014年度における食品ロスは約620万トン。まだ食べられるのに捨てられているものがある一方で、毎日の食事に窮する人もいる。こういった社会情勢を受けて、生活協同組合や労働組合など、神奈川県内の12団体が一般社団法人「フードバンクかながわ」を設立。食のセーフティーネットづくりを目指す。

横浜市金沢区の生協の店舗跡地に、「フードバンクかながわ」の事務所がある。約50坪の施設内には精米機や倉庫も完備され、多くの食品の受け入れが可能だ。4トントラックが入れる駐車場もある。

「フードバンクは収益事業ではないので、運営資金のやりくりが大変です。事務所を安く借りられてよかった」と藤田誠事務局長は話す。本来は食べられるのにさまざまな理由で処分されてきた食品を、食べ物を必要とする施設や個人に無償で届けるのが、フードバンクの活動だ。同団体の年間の事業予算は約2千万円。助成金もあるが、4分の3は12団体からの会費だ。

フードバンクかながわの設立準備には以下12団体が関わった。かながわ勤労者ボランテイアネットワーク、神奈川県生活協同組合連合会、神奈県農業協同組合中央会、神奈県労働者福祉協議会、公益財団法人かながわ生き活き市民基金、公益財団法人横浜YMCA、生活協同組合パルシステム神奈川ゆめコープ、生活協同組合ユーコープ、生活クラブ生活協同組合、全労済神奈川推進本部、中央労働金庫神奈川県本部、特定非営利活動法人参加型システム研究所。

フードバンクかながわの藤田誠事務局長

「こんなに多くの組織が連携し、フードバンクをつくるのは全国でも少ない」と藤田さん。そのきっかけは、2015年9月に始まった「非営利・協同による社会的連帯経済の促進に向けたマイクロクレジット研究会」という学習会だった。

マイクロクレジットとは、生活困窮者を対象とした経済的支援策の一つで、他からは融資を受けられない人のための少額の貸付だ。研究会の立ち上げを呼びかけたのは、公益財団法人「かながわ生き活き市民基金」。生活クラブ神奈川の関連団体で、組合員による月100円の寄付金を原資に、市民活動などに助成を行っている。専務理事の大石高久さんは、「過去5年間で、約4千万円を、累計110を超える団体に助成しました。その多くは、子どもや障害者、高齢者の支援をする市民団体です。その他、社会課題をテーマにフオーラムを開催し、市民団体をつなぐことにも力を注いでいます」と話す。

市民活動を後押ししてきた生き活き市民基金の呼びかけに、先の12団体を含む県内の多くの団体が応じ、格差社会や貧困問題、生活困窮者の自立支援にむけて市民主導型で何ができるか、研究会が始まった。だが、研究を進める中で、生活困窮者向けの市民金融の実現は、短期的にはハードルが高いこともわかってきた。いったんこれを断念し、代わりに提案されたのが、非営利団体の協同による食のセーフティーネットづくりだ。こうして16年11月、研究会を母体にフードバンクかながわの検討会が立ち上がり、本格的なフードバンク設立に向けて舵が切られた。

中間支援組織として課題に向き合う

フードバンクかながわの事務所の外観(右)、フードバンクかながわの事務所内。本格稼動後は棚などに食品が保管される(中央)、企業から寄付された米は、支援先に届ける前に再精米する(左)

フードバンクかながわは、企業や個人から寄付を受けた食品を、神奈川県内で食に関する支援活動を行っている社会福祉協議会、自治体、子ども食堂、地域のフードバンク活動団体に渡す。寄贈を受けた各団体は、ひとり親家庭や困窮家庭に無料で提供する。あくまでも、フードバンクかながわは中間支援に徹し、直接個人への提供はしない。食品の受け渡しは、金沢区にあるフードバンクかながわの倉庫に各団体が取りにくるのが基本。次は着払いでの宅配便。最後に、中継拠点での受け取りだ。生活クラブとユーコープ、パルシステムが運営する物流センター15カ所でも食品の受け取りが可能で、生活協同組合が今まで築いてきた物流インフラを活用している。食品の届け先の一つでもある市役所の支援相談窓口には、「仕事が見つからない」「収入が少なく家計が厳しい」「住む場所がない」など、生活に困っている人たちが訪れることもある。鎌倉市役所では、緊急性の高い支援相談があるのに備えて、食品をストックしているという。藤田さんによると、「今まではストック品を買っていたようですが、これからはわたしたちの寄贈品でまかなうことができ、買わなくてもよくなり、他にお金をまわせます」と話す。

「同じ横浜市にある地元のメーカーとして、地域に貢献したい」と話すのは、米穀類の販売メーカー、株式会社「ミツハシライス」広報課の山辺恵一郎さん。スーパーなどの小売先に米を卸す過程で、どうしても廃棄せざるを得ない場合がある。

山辺さんは、「取引先によって異なりますが、『精米日から3日、もしくは5日以内に卸す』という取り決めがあります。流通関係で間に合わないと、品質に問題がなくても食品ロスになってしまいます。日本の農家が一生懸命作ってくださったお米を無駄にしたくない」と続ける。毎月、国産米約600キロをフードバンクかながわへ寄付する見込みだ。

助け合いの輪を広げて

「フードバンクかながわ」の事務所前で。フードバンクかながわの藤田誠事務局長(左)、土山雄司事務局次長(右)、神奈川県生活協同組合連合会の丸山善弘元専務理事(中央)

「貧困は社会問題で、自己責任とは言い切れません。『自分も誰かに助けられるかもしれない』そんな精神で、生活協同組合は一人一人が力を出し合い、困っている人を助ける活動をしています。この活動が起点となり、市民の助け合いが進み、おすそ分けの拠点が、地域に増えれば」とフードバンク設立準備段階から関わる神奈県生活協同組合連合会元専務理事の九山善弘さんは未来を語る。

また、フードバンクかながわの事務局次長、土山雄司さんは、東日本大震災直後の福島県新地町での支援活動を思い起こす。 一人暮らしの高齢者が暮らす仮設住宅で、仮設自治会作りの支援のため、生活クラブ組合員が中心となって「青空市」という物品販売を行った。土山さんは、「閉じこもりがちだった人が外に出るようになり、人との関係性ができました。貧困に陥ると、人との関わりが絶たれ、どういう暮らしをしているのか外から見えなくなる。自分からは助けてと言えない人も多い。そういう人にアプローチし、必要としていることを知るには、外に出てきてもらうきっかけづくりも大切」と話す。

今年の1月から20日間、試験的に県内の6店舗で家庭からの寄贈を募ったところ、約300キロの食品が集まった。企業の寄贈からスタートして夏以降は個人の寄贈も受け入れる予定だ。

撮影/鈴木貫太郎  文/本紙編集室

『生活と自治』2018年6月号の記事を転載しました。

【2018年6月15日掲載】