これに賭ける!

梅と柿の里、西吉野で新たな挑戦

梅・柿・梅干し/王隠堂農園(奈良県)

2018年6月号

王隠堂おういんどう農園は、奈良県五條市西吉野の中山間地で栽培する梅を加工する、「梅ぼし」の提携生産者。過疎がすすむ農山村で、新規就農者や高校生の農業実習を受け入れながら、将来へ向けて国内の農業の基盤づくりを進めている。梅干しを使ったフリーズドライ製品にも取り組み始めた。

梅がゆ試作中

フリーズドライ製品を製造販売する「ポタジエ」の取締役を務める王隠堂正悟哉さん

手のひらに乗る大きさの固形物にお湯を注ぐと、お米のつぶつぶが残ったやさしい味の一椀ができる。王隠堂農園の梅干しと、工場がある和歌山県紀の川市周辺で生産されるコメで作るフリーズドライの梅がゆだ。現在、3月に引き渡されたばかりの工場で製品化を目指して試行錯誤の真最中だ。

王隠堂農園グループの中で、フリーズドライ食品の製造販売に当たる「ポタジエ」の取締役の王隠堂正悟哉まさやさんは、15年前よリカッ卜野菜の加工を手がけている。カット野菜は畑で収穫した野菜を3日後には製品にして出荷するという短い期間で生産する。しかし以前に比べ気候変動が激しくなり、極端な不作と豊作が続き、原料となる農産物の安定した生産が難しくなってきた。

「不作を理由に製品の納入を止めることは許されず、農家に大きな負担をかけてきました。他の方法を考えていた時、フリーズドライ製法を紹介されました。この技術を取り入れると、生産した作物を製品にして長期間保管できますし、冷凍した原料も使えます」

現在、梅がゆのほかに西日本ファーマーズユニオン九州が製造する冷凍野菜や同中国のやさか共同農場が作るみそを原料に使った製品を考えている。「加工食品であっても、顔の見える範囲の生産者が生産する、家庭で作るのと同じようなわかりやすい原料を使いたい」と言う。

フリーズドライの梅がゆ(試作中)(左)、真空凍結乾燥装置。マイナス45度で凍結した食品を真空状態に置き、氷を直接水蒸気にして乾燥させる(右)

一般には製品の小売価格に支配され、原料価格の面で生産者と折り合いがつかないという加工業者も多い中、正悟哉さんは、原料生産者と流通形態などコストを下げる工夫を話し合いながら、消費者も納得する価格の製品を作りたいと思っている。「フリーズドライは農産物の生産とその生産者を守り生かすための技術であると考えます」。地域で共同する農業基盤を作り上げ、その生産物を加工してきた王隠堂農園の存在が、ポタジエ設立の大きな原動力となった。

王隠堂農園の梅干し作り

王隠堂誠海さんが生まれ育つた家。生活クラブが提携する時、担当者はここに通つた。現在は改装して旬の野菜レストラン「農悠舎王隠堂」となり、梅干し作りや柿の葉寿司作りの体験を行う地域の交流の場ともなっている

王隠堂農園と生活クラブ連合会との提携は40年ほど前の1977年にさかのぼる。当時は、形がよく多収穫できるように化学肥料や農薬を使う梅の生産が一般的だった。奈良県西吉野村で梅と柿を生産していた正悟哉さんの父、王隠堂誠海さんも同じように農薬を使っていたが、家族の体調が悪くなったり、生き物が少なくなっていく川や畑を見て疑間を感じ、農薬を減らしていった。

農協を抜けて消費者と直接取引をするための販路を求めて出会ったのが生活クラブ。生梅ではなく梅干しに加工して提供し始めた。ところが次第に需要が増え、 一農家だけではまかなえなくなる。

そのため近隣の農家へも除草剤や化学肥料を使わずに梅をつくることをすすめていった。農薬を減らす栽培方法は評価されず疑問視される時代に、「農協と対立関係にある中で、ずっと迷いながらの誘いかけでした」と、現在、農業生産法人(有)王隠堂農園の代表取締役を務める誠海さんはふりかえる。

後に王隠堂農園に参加して梅干しを生産するようになった岡本好司さんは、当時誠海さんの隣の畑で農協の指導のもとに農薬を使い柿も栽培していた。「王隠堂さんは草刈りもせず、農薬も使わず、摘果もしない。自分は苦労して作った大きくてきれいな柿しか売れないと思っていました。小さいものから大きなものまで、できた柿を全部一つの箱に詰めて出荷するのを見て驚きましたよ」

「梅ぼし」の出荷量は順調に増えていったが、個々の農家がそれぞれに収穫、加工をしていたために品質にばらつきが出る問題が発生した。生産規模が拡大するにつれて労働時間もどんどん増えていった。また、岡本さんと同じように柿も生産する人が多く、その選別、箱詰め、出荷作業なども個々の農家が行っていたので、柿の渋抜き作業をしているうちに日付が変わってしまうこともあった。

「バンドラファーム」グループ代表取締役の和田宗隆さん

そこで2006年、王隠堂農園は、地域の他の生協や安全な農産物を生産する産直生産者グループと、選果、加工、物流を共同して行い事務局機能を持たせた地域共同センター「バンドラファーム」を設立し、生産物の全量を共同出荷するしくみを作った。「こだわりを持った梅生産者のために加工場は何ができるか、また、生産者と消費者が共に価値を認める加工品とは何かを常に追求してきました」と代表取締役の和田宗隆さん。目線の先には、常に持続可能な「農業のかたち」への探究があった。

梅と柿の産地を守る

西吉野の柿畑から五條市を望む

王隠堂農園の梅畑は、五條市の南、西吉野の山々の斜面に広がる。周囲の六つの町村は日本の中でも最も人口減少率が高い地域に含まれる過疎地だ。農業人口が減り高齢化がすすみ、急斜面で作業する人も少なくなった。中山間地にある梅や柿の畑は、シカやイノシシなどの獣害にもあうため15年後には最大25%減退すると予測されている。

4月初め、五條市にある共同農場を訪れた。大阪府出身でカメラマンの阿部和正さんと、飲食関係の仕事をしていた野瀬昌輝さんが、加工用トマトの畝を作っていた。二人とも新規就農者。「キャベツ、キュウリ、ホウレン草、漢方薬の原料となる大和トウキなど1年中を通して野菜類を栽培し、作っていないのはジャガイモとタマネギぐらいですよ」。阿部さんと野瀬さんは、平坦部のコメを作っていた耕作放棄地などに柿や梅を栽培できないかと、木を植える試験をする許可を行政に求めている。「将来も主産物の柿と梅を作り続けることができるように、地域全体で農業にきちんと取り組まなくてはなりません」と誠海さん。

また、王隠堂農園は4月より、西吉野にある定時制高校の農業実習と就労を受け入れた。「五條市立 奈良県立五條高等学校賀名生あのう分校」が、今年度より農業実習と就労を教育課程に取り入れ、生徒を全国募集した。「果樹、野菜の栽培技術を指導してもらおうと、2年前から地域の農家に声をかけ協議会を作りました」と五條市教育委員会の福西弘さん。賀名生分校の教頭を務める稲葉功さんは「30名募集し、26名が入学しました。4年間を通してここで学び、この土地の生活や人柄などを肌で感じてもらい、定住を考えるようになってくれればいいというのが私たちの願いです」と、王隠堂農園に大きな期待を寄せる。

「五條市立 奈良県立五條高等学校賀名生分校」教頭、稲葉功さん(左)、五條市教育委員会の福西弘さん(右)、大阪府出身の新規就農者の2人。阿部和正さんと野瀬昌輝さん(中央)

消費者とともに

4月初めころの梅の実

2006年、王隠堂誠海さんらが呼びかけ人となり「21世紀、自給を高める農業を創造しよう!」と、九州、四国、中国、近畿地方の意志ある生産者団体が生活クラブとともに、日本の農業を活性化するため「西日本ファーマーズユニオン」を結成した。そこで話し合われているのは生産者の高齢化や後継者不足などと、それぞれの産地で抱えている問題。その他に、国内自給を目指す生活クラブとどう向き合っていくかということだ。

「消費者も参加できる共同農場や耕作放棄地の活用、人材育成は可能かなど、 一緒にできることはいろいろ考えられます。共に、原料生産地とていねいに関係を作っていくことが大切です」

西吉野では6月に入ると青梅がふくらみ、待ったなしの収穫が始まる。

撮影/田嶋雅已  イラスト/堀込和佳 文/本紙 伊澤小枝子

◆先人が残した宝物

林州の花

2月末から3月初旬にかけて、標高350メートルほどの西吉野の山々の斜面は満開の梅の花でおおわれる。その中でも淡いピンク色の八重の花が咲く「林州」は、生活クラブの「梅ぼし」の原料としても使われている品種で甘い香りを放つ。

梅の品種は南高、白加賀、鶯宿などあるが、林州は西吉野地域で江戸時代以前から栽培されている奈良県の在来種だ。「皮が薄いので雨が降った後晴れて日に当たると身が割れてしまいます。扱いが難しくて他では雑梅扱いですが、梅干しにするとやわらかくておいしいですよ」と梅と柿を栽培して27年になる今西清次さん。除草剤や化学肥料は使わず有機肥料で梅を育てている。

同じように35年以上、父親と梅を栽培してきた岡本好司さんは、「梅はこれからアブラムシがつきます。でも農薬は使いませんよ。テントウムシなどの天敵がいますから。 一般の防除をしている畑より被害はありますが、負けずに一生懸命管理をしています」と涼しい顔。岡本さんが育てる梅も林州が大半だ。「肉厚で大きい実のなる南高に植え替える人が多いですが、地元の林州を大事にしていきたいです」

梅の収穫は6月初旬ころから始まり7月半ばまで続く。二人とも見上げるような急斜面に脚立を立てて作業をする。すべて手摘みだ。収穫後、生産者ごとに加工センターに運ばれた梅は選果、洗浄され、取引先の仕様に応じて漬け込みタンクで塩漬けされる。生活クラブの「梅ぼし」は、王隠堂農園の特別栽培の梅を使い、提携生産者の「青い海」の真塩を梅の重量の15%で漬ける。

五條市にある地域共同センターで「梅ぼし」を加工するみなさん

7月下旬から天日干しをし、その後赤しそと一緒に1カ月から2カ月間漬け込んで製品にする。天日干しは3日から10日間行うが、1日に1、2回天地返しをする。

こうすると赤梅酢の色が果肉の中までよくなじむ。赤しそは和歌山県で特別栽培されているものを使う。

このように梅の栽培から加工まで一貫して作られる梅干しはほとんどない。加工メーカーが農協や農家から梅を買い、製造販売するのが一般的だ。また、減塩梅干しや、塩漬けの塩を抜き調味液で漬けなおした調味梅干しも販売されている。低塩のため冷蔵しなければならず、保存料が添加されていることもある。塩抜きの際にクエン酸も抜けてしまう。

子どもの頃、風邪をひいたり体調を崩した時にすすめられたのが梅干しをのせたおかゆだった。梅に含まれる豊富なクエン酸は、カルシウムが腸から吸収されるのを助ける。殺菌効果があり、梅干し自体が長期保存が可能で、食中毒を防ぐためにお弁当やおにぎりに一粒入れておくと安心だ。

梅と塩と赤しそのシンプルな材料で、家庭で作るのと同じように作られる「梅ぼし」は今や貴重な存在だ。

撮影/田嶋雅已  イラスト/堀込和佳  文/本紙 伊澤小枝子

 

『生活と自治』2018年6月号の記事を転載しました。

【2018年6月15日掲載】