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生協の食材宅配【生活クラブ】
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みかんの味も香りもそのままに【温州みかんジュース、ゆずマーマレード他】


 
日本果実工業は、山口県山口市、萩市、周防大島にある三つの工場を持ち、国産の農産物を原料に、ジュース、ジャム、缶詰などの加工品を販売する。萩工場で作られる温州みかんジュースは、皮をむいて搾汁したものを濃縮せずに保管する。農家が1年をかけて生産するみかんの味をそのまま、ストレートジュースとして製品にして消費者に届けている。

搾汁は皮をむいてから

「温州みかんジュースは外皮を取り除いて搾るストレート果汁100%のジュースです。ふだん皆さんが食べるミカンと同じ味がします。とにかく飲んでみてください」。日本果実工業(以下、日果工)の営業部次長、佐貫理朗(まさあき)さんは、各地の生活クラブが開催する生産者交流会で組合員にそう語りかける。

山口県の日本海側、城下町として知られる萩市にある萩工場は、ミカンが搾汁される季節になると、さわやかなかんきつの香りに包まれる。
早朝、トラックで搬入されたミカンは工場内に運ばれると、まず洗浄される。その後蒸気をあて外皮をやわらかくし、はく皮機にかけて皮をむく。残った皮は人の手でむき、傷んでいる房なども取り除く。常時20人ぐらいがこの作業に当たっている。

外皮を除いたミカンはミキサーにかけられ、2種類の目の大きさの裏ごし機で果汁とペースト状のパルプに分けられる。果汁は酵素が働かないように最低限の熱処理をし、遠心分離機にかけ残った粒子を取り除き、サラサラとしたジュースに仕上げる。取り除かれた外皮は牧場へ運ばれ、牛の飼料や堆肥の原料として利用される。裏ごし後に残ったペーストは、ソース製造会社でソースの原材料に使われる。

「ミカンの搾汁の方法は、このように皮をむいてから搾る『はく皮搾汁』と、皮がついたまま処理する『インライン搾汁』の2種類があります」と、萩工場の工場長、末武崇広(たかひろ)さん。「インライン搾汁は、ミカンの底に穴をあけて上から圧力をかけて押しつぶし、果汁を抜き取ります。この方法では、果汁に外皮の成分が混じってしまうのです」。外皮に含まれるオイルはミカンらしい香りがするが、雑味が残り、ストレートジュースにすると、はく皮搾汁のものとは味わいに差が出る。
ジュースには、温州みかんジュースのように、搾った果汁をそのまま製品化する「ストレート」と、濃縮して冷凍保存し、製品化する時に水で元の濃度に戻す「濃縮還元」がある。濃縮還元では、果汁に90度以上の熱をかけて水分をとばし、6分の1まで濃縮する工程がある。この処理によって香りの成分がなくなってしまう。濃縮還元では、インライン搾汁で果汁に残ったオイルもとばされ、それほど気にならなくなる。一般のジュースは、インライン搾汁をした果汁を濃縮還元し製造するものがほとんどだ。香りを補うため、香料が使われることがある。

萩工場で、はく皮搾汁によるストレートジュースが製品化されたのは1972年。当時、日果工は周防大島にある久賀工場でミカンの缶詰も製造していた。「原料は手作業で外皮を除いたミカンです。同じようにジュース用のミカンを機械ではく皮できないかと考えたそうです。その発想をすごいと思いました」と末武さん。食べるミカンと同じ味のジュースを作りたい、という想(おも)いがあるからこそ考え出されたはく皮搾汁だと言う。
 
日本果実工業萩工場の工場長、末武崇広さん。「飲料を飲む、というよりはミカンを味わうといった感覚のジュースを作っています」
1.温州みかんジュースの原料ミカンのはく皮は、機械と人の手で行う
2.蒸気によって皮がやわらかくなったミカンは、穴のあいた回転ローラーに入り、はく皮機に運ばれる
3.機械で皮をむかれたミカン
4.残った皮は人の手でむく

5.かつては、日果工でも使用していたインライン搾汁機械。ミカンを1個ずつカップにのせ、圧力をかけて搾汁する
6.皮をむいたミカンをミキサーにかけ、二度のろ過後に残ったパルプ。ソースの材料に使われる
7.ろ過後、残ったザラザラとした粒子を遠心分離機で除いたジュース。300トンタンクに送られ保管される

搾ったまま貯蔵

搾汁と精製の工程を終えた果汁は、殺菌、冷却後、工場の敷地内にある300トンタンクに送られ保管される。

タンクは直径が5.7メートル、高さは13メートルの大きさだ。11基のタンクが設置される建屋全体が1度から2度に温度管理され、タンク内は果汁の酸化を防ぐための窒素ガスが充填(じゅうてん)され無菌状態が保たれている。「この果汁無菌貯蔵タンクが設置されたのは90年です。ストレート果汁を無菌状態で保管する技術は、当時、最先端のものでした」と末武さん。「ミカンを収穫シーズンに搾り、果汁をタンク内で液体のまま保管し次のシーズンまで供給するのは、この規模では、今でも日果工の萩工場だけですよ」
 
ジュースを液体のまま無菌で貯蔵する300トンタンク。高さが13メートル、直径は5.7メートルだ

減るミカンの生産

右より、日本果実工業萩工場の製造課長、白石敦士さん、同工場長の末武崇広さん、日本果実工業の営業部次長、佐貫理朗さん

本物のジュースを飲んでもらいたいという日果工と、添加物を使わず原材料の由来を確かめられる加工食品や飲料を開発していた生活クラブが出会ったのは74年。当時は、ジュースといっても果汁が10%しか入っていないものや、着色料、香料、人工甘味料を添加したものが販売されていた。消費者が判断できるよう、果汁飲料について適正に定義し、表示するJAS規格が制定された頃だった。70年には、果汁100%が「天然果汁ジュース」、50%以上のものが「果汁飲料」、10%以上のものが「果汁入り清涼飲料」と定義されている。さらに71年には、果汁100%のもの以外は「ジュース」という表示ができなくなった。

出会いから2年後の76年、生活クラブとの話し合いが進み、温州みかんジュースの取り組みが始まる。当初は国産ミカンの生産量は367万トンあり、生食では消費しきれないほどだった。しかし現在はその5分の1の74万トン前後で推移している。91年のオレンジの輸入自由化、翌年のオレンジ果汁の輸入自由化により海外から安価な原料が大量に輸入されるようになると、国内のミカンの生産農家は減り、さらに高齢化、後継者不足がすすみ、生産量はどんどん減っていった。日果工でも、温州みかんジュースの原料は開発当初、山口県産100%だったが、現在は鹿児島県から神奈川県まで、多い年は16府県のミカン産地の取引先から仕入れている。

また、年によっては加工用のミカンが手に入らなくなることがある。2017年のミカンの生産量は74万トン。甘味がのって味が良いため、通常は青果用にはならない大きさのミカンも青果用へ出荷され、取引価格が安い加工用へは回らない状況だった。翌年も同じような傾向が続くと予想され、日果工は900ミリリットルの温州みかんジュースの供給を休止し、485ミリリットルのみにした。

19年、20年は原料ミカンを確保でき、搾汁は十分だった。さらにコロナ禍により一般の利用が落ち込み、果汁はタンクに十分にストックされた。21年より900ミリリットルの供給を再開している。

しかしミカンの生産農家が減少している状況に変わりはない。「温州みかんジュースには、農家が丹精込めて作ったミカンを、食べる時と同じ味で飲めるジュースに仕上げたいという、私たちの想いが込められています。それを消費者へ届けることは、農家を応援することにつながります」と佐貫さん。「外皮をむいて搾る果汁を、濃縮せずストレートのままで保管し製品にする温州みかんジュースは、唯一無二のものと誇りをもって作っています」と胸を張る。

撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子

夏ミカンの町で

萩の町は、年末から5月にかけて夏ミカンの実の黄色い色に彩られる。関ヶ原の戦い後、毛利氏が萩城を築き町づくりをすすめつくられた城下町だ。江戸時代の長州藩の政治、経済、文化の中心地として栄え、その頃の武家屋敷や町人が暮らした町並みの名残を、今も目にすることができる。

萩で夏ミカンが植えられるようになったのは江戸時代の天保の頃。萩市の隣の長門市の青海(おおみ)島で、流れ着いた種を植えたところ、すっぱい実のなる木が育った。それが萩に伝わり、城下町の家々でも育てられた。

夏ミカンの栽培が広がったのは明治維新後のことだ。士族の給禄奉還により、生活に困窮した武士のため、萩では夏ミカンの栽培が奨励された。武士は自宅の広い敷地に実のなる木を植え収入を得るようになる。夏ミカンは大切に育てられ、今でも季節になると、武家屋敷の塀の外へ黄色い実をのぞかせる。

日本果実工業(日果工)の萩工場は、1937年、萩市を中心とした地域で生産される農水産物の加工処理を目的に設置された。51年、日本で最初に夏ミカンの果汁およびジュースの製造を開始し、54年には初めて濃縮装置を導入した歴史ある加工場だ。山口県経済連(現・JA山口県)では、萩工場を含む三つの農産物の加工場で加工品を製造していた。これを総合的に広く販売する目的で、60年に設立されたのが、日本果実工業だ。

現在、山口工場では、歌茶や無糖珈琲、りんごスカッシュなどの飲料、周防大島にある久賀工場ではみかん缶、甘夏缶などの缶詰類、萩工場では、温州みかんジュースの他に、いちごジャム、マーマレード、ゼリーなどを製造している。

2022年より取り組みが始まった「ゆずマーマレード」は、ゆずはちみつなど、ゆずを原料とする製品を作るときに、果汁を搾ったあとに残る外皮を使う。日果工の佐貫理朗さんは、「とろみを出すためのゲル化剤などは使わず、萩工場で温州みかんジュースを搾った際に出てくるパルプに含まれるペクチンを利用します」と、加工によって派生的に出てくるものも無駄なく利用する方法を考えていると言う。

イチゴの粒がそのまま残るプレザーブスタイルの「いちごジャム」は、温州みかんジュースと同じぐらい長く取り組まれてきた人気の消費材だ。原料のイチゴは「アメリカ種」という、程よい柔らかさの品種で、昔ながらのいちごジャム製造にとても適している。しかし、収穫調整に多くの時間を必要とすることから栽培する農家が少なくなり手に入れるのが難しくなった。長い間いちごジャムを炊き上げてきた萩工場製造課の課長、白石敦士さんは、「以前は月の半分ぐらいはいちごジャムの製造にかかわっていましたが、今は年に1回製造するかしないかです」。現在はアメリカ種に代わる品種を探し、国産原料を確保、新しいいちごジャムを作り始めているそうだ。

季節の味と香りを閉じ込めた加工品が、萩の町で作られている。
 

撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
『生活と自治』2024年4月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2024年4月20日掲載】
 

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