農産物の生産者と「ファーマーズ・フォーラム」を開催 持続可能な農業をめざし研究・学習を進めています
生活クラブ生協連合会は、農産物の提携生産者らとともに「ファーマーズ・アクション会議」を設置し、持続可能(サステイナブル)な農業へ向けての議論を重ねています。この取り組みのひとつとして、11月11日に「ファーマーズ・フォーラム」を東京都内で開催しました。生産者や組合員など約80名が集まり、生産者と消費者の双方に求められる課題について理解を深めることができました。
(2015年12月4日掲載)
人口の2%以下の人が国産の食を支えているのが現状
フォーラムの冒頭で、生活クラブ生協連合会の加藤好一会長は「TPPが大筋合意し、果物や野菜の関税が即時、または段階的に撤廃されることが明らかになってきました。農業の将来を国に任せるわけにはいきません。生産者と消費者が結びつきを強めていかなければならないと考えます」と挨拶しました。
続いて「生活クラブ農産物提携産地連絡協議会(生活クラブ青果の会)」代表の王隠堂(おういんどう)誠海さんが次のように挨拶しました。「今日は北海道から九州までの生産者が集まりました。各産地では高齢化が進み、若い生産者が少ないなかで苦労されていると思いますが、ぜひ本音で語り合える勉強会にしたいと思います」
フォーラムのメインは、食にかかわる地域社会・生活文化や、農業・食料問題などの論考で知られる民俗研究家・結城登美雄さんの講演です。「地域で支え合う食と農 ―食の未来を危うくしないために―」と題して、まず「食と農が切り離されていることが問題」だと指摘。作る人のことを考えずに、食べ物のことばかりを話題にすることが「食」を危機的状況に追い込んでいる、と話しました。
1970年には1,082万人いた農家や漁業者が、2014年には256万人に減っているデータを示し、「日本の人口の2%以下の人が食を作っているのが現状です。もはや東京など都市の食を、地方は支えられなくなったと言うことができるでしょう」と警鐘を鳴らしました。
食の再構築は、つくる人と食べる人の結びつきから
結城さんは食の作り手と食べ手を結びつけて活動している事例として、宮城県大崎市の山間地域で10年前から行なわれている「鳴子の米プロジェクト」を紹介しました。このプロジェクトは次のようなものです。
(1)コシヒカリなどのブランド米でなく適地適作の品種(東北181号)を栽培
(2)消費者への販売価格を事前に設定。1俵(60kg)あたり24,000円
(3)生産者価格を設定。1俵あたり18,000円を5年間保証(現行13,000円)
(4)1俵あたりの差額6,000円は保管料や事務経費のほか若者の農業支援に使う
通常、農作物は流通市場で価格が決まるため、生産者が販売価格を決めることはできません。それに対し「鳴子の米プロジェクト」では、あらかじめ生産者自らが販売価格を決めることに意義があるということです。
「24,000円という価格は、若者が米を作ることで暮らしていける額として設定しました」と結城さん。鳴子地域の小中学校でも「米プロジェクト」の活動を授業で教えることで、食をつくる人に思いを寄せられる子どもたちが育っているということです。
結城さんは、食の生産者と消費者の相互理解と支えあいこそが重要だと説きます。さらに「食」には3つの視点があることを述べました。一つは「生きるための食」、一つは「儀礼(感謝)の食」、もう一つは「楽しみの食」です。何よりも「生きるための食」、つまり食べることは、生命と健康を維持する根源的な行為であること、このことを生産者も消費者も理解することが重要だということです。
最後に「つくる人と食べる人が、お互いの願いや期待、困りごとを述べ合うことから始まるのだと思います。お互いの力や気持ちを合わせれば、実現できることがきっとあるはずです。ささやかなことからでも、生産者と消費者が関係性を強めていくことが求められています」と結ばれました。
国内の食料生産をめぐる環境は、逆風にさらされています。自由貿易を推進するTPPが発効し現実のものになると、低コストで大量生産される輸入食料が国内市場を席巻するおそれがあります。国内の食料生産者は、生活していくだけに必要な収入が確保されなければ、生産そのものから撤退せざるを得なくなることも予想されます。
将来にわたって持続可能な食料生産(サステイナブルな農業)をつくるには、消費者自身が生産者のことを知り、生産者も消費者との結びつきを強めることの大事さをあらためて確認するフォーラムでした。