産地とつながる森林を、ともに守りたい 「生活クラブ森林フォーラム」を初開催
森林と産地を守るためにできることって何だろう?
―生活クラブが「森林フォーラム」を初開催、新たなローカルSDGsをさぐる
―生活クラブが「森林フォーラム」を初開催、新たなローカルSDGsをさぐる
森林や木材にかかわる各地の行政、生産者、関係業者、組合員が集まりました
森林と私たちのつながりを、もっと考える
食材宅配を行なう生活クラブ生協が森林フォーラムを開くと聞いて、少し意外に思う人もいるかもしれません。
生活クラブは食べ物や日用品などを通じ、全国各地の生産者とつながっています。実は、扱うものの中には、国産材を使った生活用品や住宅事業など木にかかわるものもあるのです。
しかし、その木材を生み出す森林は、日本全体でみても利活用が十分とは言えません。森林にはCO2を吸収する働きがあるとされ、木材資源を有効活用しながら森林を管理することは、生活クラブが目標としている脱炭素化をめざすうえでも大切です。
提携する産地の中でも、紀伊半島と長野県は特に森林が多いエリア。そこで生産者同士がつながり立ち上げた「地域協議会※」と連携し、生活クラブは2024年3月15日に東京都新宿区で「生活クラブ森林フォーラム」(林野庁後援)を初開催しました。
今、日本の森林でどんなことが起きていて、自分たちには何ができるのでしょう。会場には生活クラブ組合員と関係者104名、オンラインで137名が集まり、総勢241名が参加。組合員は持続可能な産地のヒントを探るために、提携する生産者や森林資源を活用する行政、団体などから話を聞きました。
※地域協議会とは、生活クラブの複数生産者がいる地域で、生産者間で資源循環等の連携を強めるために発足。現在は長野、紀伊半島、栃木、庄内に4つの協議会があります。
生活クラブは食べ物や日用品などを通じ、全国各地の生産者とつながっています。実は、扱うものの中には、国産材を使った生活用品や住宅事業など木にかかわるものもあるのです。
しかし、その木材を生み出す森林は、日本全体でみても利活用が十分とは言えません。森林にはCO2を吸収する働きがあるとされ、木材資源を有効活用しながら森林を管理することは、生活クラブが目標としている脱炭素化をめざすうえでも大切です。
提携する産地の中でも、紀伊半島と長野県は特に森林が多いエリア。そこで生産者同士がつながり立ち上げた「地域協議会※」と連携し、生活クラブは2024年3月15日に東京都新宿区で「生活クラブ森林フォーラム」(林野庁後援)を初開催しました。
今、日本の森林でどんなことが起きていて、自分たちには何ができるのでしょう。会場には生活クラブ組合員と関係者104名、オンラインで137名が集まり、総勢241名が参加。組合員は持続可能な産地のヒントを探るために、提携する生産者や森林資源を活用する行政、団体などから話を聞きました。
※地域協議会とは、生活クラブの複数生産者がいる地域で、生産者間で資源循環等の連携を強めるために発足。現在は長野、紀伊半島、栃木、庄内に4つの協議会があります。
大切な地域の資源として森を知る機会に
生活クラブ連合会 村上 彰一会長
林野庁林政部長 谷村 栄二氏
フォーラムに先立ち、生活クラブ連合会の村上彰一会長は「日本の森林が抱える課題について、私たちはまだよく知りません。自分たちに何ができるか学習を深めていきたい」と話しました。
林野庁林政部長の谷村栄二氏は「木を伐って利用し、植えて育てるという森林を維持する循環の中に、組合員のみなさんにも「使う」という形で関わっていただきたい。それが山の維持や森林を次世代に受け継ぐことにつながります」と期待を込めました。
林野庁林政部長の谷村栄二氏は「木を伐って利用し、植えて育てるという森林を維持する循環の中に、組合員のみなさんにも「使う」という形で関わっていただきたい。それが山の維持や森林を次世代に受け継ぐことにつながります」と期待を込めました。
日本の森林は今どうなっている?奈良からのレポート
奈良県水循環・森林・景観環境部 奈良の木ブランド課
需要基盤強化係 係長 植松 誠之氏
豊永林業株式会社 代表取締役 増春 雅孝氏
まず、県面積の2/3を森林が占める奈良県から2人が登壇しました。奈良県水循環・森林・景観環境部 奈良の木ブランド課 需要基盤強化係 係長の植松誠之氏。
そして生活クラブと提携する豊永林業株式会社(奈良県吉野郡)代表取締役の増春雅孝氏です。
植松氏によると、2021年度の日本のCO2吸収量は約4,760万CO2トン。このうち9割は森林が吸収しているとされ、森林は環境保全に大きな役割を果たしています。
しかし今、その森林の機能を維持することが難しくなっています。
たとえば、森林が自然の力によって更新されていく天然林では、地球過熱化の影響で虫による木の伝染病「ナラ枯れ」などがすすんでいます。人工林もまた手入れが行き届いておらず、荒廃してきています。一方で、人工林は木材生産を目的に苗木を植えてつくられた森林で、下刈り、間伐などを行ないながら40年以上かけて造成します。間伐は木々の密度を調整し、森林内に残った木の生長を促進するために欠かせませんが、植松氏は「奈良県では間伐された木材のうち7割もの木が搬出されていません」と話します。
増春氏は「間伐されず日が差さない森林は地面に草木が生えず、地肌がむきだしになり、豪雨になれば山崩れのリスクもあります」と危惧しました。
人工林の整備がすすまない!背景にある国産材の値下がり
どうして人工林が放置されてしまうのでしょうか。理由のひとつは、輸入材の増加により、国産材の価格が安くなっていることです。
奈良県のスギの丸太価格※はピーク時(1980年)の1/3に下落。ヒノキの丸太価格も1/4にまで下がってしまいました。
※直径14~22㎝、長さ4mの1本あたりの価格
木材は伐採、搬出や運送などにコストがかかる中、植松氏は「数十年かけて育ててきた費用をまかなえるだけの価値が人工林にあるかどうかがポイントで、黒字にならないと人工林の整備がすすまないのが現実です」と指摘します。
増春氏も「育林や搬出などのコストに見合わず、放置林が増えているのが大きな課題。また、林業の後退による担い手不足も深刻です」と口をそろえました。
「植えて育てる」だけでなく、森を次世代へつなぐために
このような逆境の中で、長年にわたり先人が守ってきた木をどのように手入れし、森林を守っていけばいいのか。
豊永林業(株)ではその対策のひとつとして、森林での間伐・搬出にもっとも重要な役割を果たす「作業道の整備」をすすめています。
吉野では伐った木の出材はヘリコプターを使っていましたが、コストが高いという問題がありました。伐った木を自分たちで山から運び出すために、1990年代初頭から山林内にトラックが通れる道=作業道を敷設。山に作業道が入ることで機械化をすすめ、斜面での作業から作業道上での作業とすることで安全性も向上させました。なるべく自然に負荷をかけない工法で作業道を80㎞敷設し、手入れにかかる負担を軽減してきました。
また、国産材について広く知ってもらう目的で、自社で企画・運営するブランド「rin+(りんプラス)」や、紀伊半島地域協議会に参加する中で農林そして地域とのコラボレーションをする(食品×木工品)「紀伊スタイル」を立ち上げ、生活クラブの「夢都里路(ゆとりろ)くらぶ※」の林業体験ツアーでは、組合員に実際に現地の様子を見てもらい、森林の今を伝えています。
※組合員が提携産地の林業や農業、漁業など第一次産業の作業に参画する活動
そして生活クラブと提携する豊永林業株式会社(奈良県吉野郡)代表取締役の増春雅孝氏です。
植松氏によると、2021年度の日本のCO2吸収量は約4,760万CO2トン。このうち9割は森林が吸収しているとされ、森林は環境保全に大きな役割を果たしています。
しかし今、その森林の機能を維持することが難しくなっています。
たとえば、森林が自然の力によって更新されていく天然林では、地球過熱化の影響で虫による木の伝染病「ナラ枯れ」などがすすんでいます。人工林もまた手入れが行き届いておらず、荒廃してきています。一方で、人工林は木材生産を目的に苗木を植えてつくられた森林で、下刈り、間伐などを行ないながら40年以上かけて造成します。間伐は木々の密度を調整し、森林内に残った木の生長を促進するために欠かせませんが、植松氏は「奈良県では間伐された木材のうち7割もの木が搬出されていません」と話します。
増春氏は「間伐されず日が差さない森林は地面に草木が生えず、地肌がむきだしになり、豪雨になれば山崩れのリスクもあります」と危惧しました。
人工林の整備がすすまない!背景にある国産材の値下がり
どうして人工林が放置されてしまうのでしょうか。理由のひとつは、輸入材の増加により、国産材の価格が安くなっていることです。
奈良県のスギの丸太価格※はピーク時(1980年)の1/3に下落。ヒノキの丸太価格も1/4にまで下がってしまいました。
※直径14~22㎝、長さ4mの1本あたりの価格
木材は伐採、搬出や運送などにコストがかかる中、植松氏は「数十年かけて育ててきた費用をまかなえるだけの価値が人工林にあるかどうかがポイントで、黒字にならないと人工林の整備がすすまないのが現実です」と指摘します。
増春氏も「育林や搬出などのコストに見合わず、放置林が増えているのが大きな課題。また、林業の後退による担い手不足も深刻です」と口をそろえました。
「植えて育てる」だけでなく、森を次世代へつなぐために
このような逆境の中で、長年にわたり先人が守ってきた木をどのように手入れし、森林を守っていけばいいのか。
豊永林業(株)ではその対策のひとつとして、森林での間伐・搬出にもっとも重要な役割を果たす「作業道の整備」をすすめています。
吉野では伐った木の出材はヘリコプターを使っていましたが、コストが高いという問題がありました。伐った木を自分たちで山から運び出すために、1990年代初頭から山林内にトラックが通れる道=作業道を敷設。山に作業道が入ることで機械化をすすめ、斜面での作業から作業道上での作業とすることで安全性も向上させました。なるべく自然に負荷をかけない工法で作業道を80㎞敷設し、手入れにかかる負担を軽減してきました。
また、国産材について広く知ってもらう目的で、自社で企画・運営するブランド「rin+(りんプラス)」や、紀伊半島地域協議会に参加する中で農林そして地域とのコラボレーションをする(食品×木工品)「紀伊スタイル」を立ち上げ、生活クラブの「夢都里路(ゆとりろ)くらぶ※」の林業体験ツアーでは、組合員に実際に現地の様子を見てもらい、森林の今を伝えています。
※組合員が提携産地の林業や農業、漁業など第一次産業の作業に参画する活動
産地の森林とどう向き合う?組合員が見つけた大きな課題
生活クラブ森林フォーラムで質問する組合員
登壇者の話を聞き、組合員の一人から「林業にかかわる仕事は、木を伐るという以外にどのようなものがあるのでしょうか?」と質問がありました。
植松氏は、「苗木を育てる人、植える人、草を刈る人、間伐の前の除伐をする人などがいます。木をチェーンソーで伐る人もいれば、倒した木の枝を払って出しやすくする人も。木を搬出するために小型機械を動かす人、道を作る土木作業員、ヘリコプターやトラックで運ぶ人、そして木を市場で売る人もですね。もちろん木材を加工する人もいますし、多くの人がかかわってみなさんの元に届いています」と回答しました。
さらに、「森林にかかわる方々が、私たち都市部に住む生協の組合員に期待することはどんなことでしょうか?」という質問も。
増春氏は「産地の国産材を使ってもらえるのはありがたいこと。ただ、都市部の方々には私たちの地域の現実がまだ伝わっていない気がします。人口が減り、コミュニティも成り立たない地域がある現状を実際に見てもらい、みなさんに何ができるかを考えていただきたいです」と答えました。
森林や木にかかわる登壇者のみなさんの事例報告
後半では、生活クラブと提携する生産者や関連企業、各地の行政や団体など、森林や木材にかかわりがある方々が登壇。それぞれどのような取組みをしているのかを紹介しました。
【生活クラブ提携生産者】酒井産業株式会社(長野県塩尻市)
代表取締役社長 酒井 慶太郎氏
国産材の加工品を通じ「木育」を広める
森林や木材への理解を深めてもらう「木育」をすすめようと、全国100あまりの産地や加工工場と提携。生活クラブでは、国産材を使った生活用品や家具などを扱っています。生活クラブの配送施設である飯能デリバリーセンター内の保育施設に、木製の遊具を設置するなど、木育を広めるさまざまな取組みをしています。
2023年から、福島県いわき市の里山で漆の植林活動「阿武隈牛(あぶくまうし)の背(せ)ウルシぷろじぇくと」もスタート。福島第一原子力発電所事故以前は原木しいたけの産地だった地域で、漆の木を植えています。現在ほぼ輸入に頼っている漆の国内自給をめざすとともに、地域に新たな生業をつくりだそうとしています。
森林や木材への理解を深めてもらう「木育」をすすめようと、全国100あまりの産地や加工工場と提携。生活クラブでは、国産材を使った生活用品や家具などを扱っています。生活クラブの配送施設である飯能デリバリーセンター内の保育施設に、木製の遊具を設置するなど、木育を広めるさまざまな取組みをしています。
2023年から、福島県いわき市の里山で漆の植林活動「阿武隈牛(あぶくまうし)の背(せ)ウルシぷろじぇくと」もスタート。福島第一原子力発電所事故以前は原木しいたけの産地だった地域で、漆の木を植えています。現在ほぼ輸入に頼っている漆の国内自給をめざすとともに、地域に新たな生業をつくりだそうとしています。
オルタスクエア株式会社(神奈川県横浜市)
常務取締役・管理建築士 坂内 博氏
無垢材ならではの特長を生かした家づくり
当社は生活クラブ神奈川の住まい部門の子会社です。健康で地球にも未来にもやさしい住環境の実現をめざし、国産材で、特に木をそのまま切りだす無垢材を使った家づくりのお手伝いをしています。神奈川の組合員を中心に、住宅の設計・管理から不動産業、リフォームの相談まで応じています。
家づくりでは、空気中の湿気を自然に吸ったり放出したりする無垢材の調湿機能を生かし、家の柱や梁をなるべく外に見える形で設計する提案をしています。
また、木材の産地や生産者のもとを組合員が訪れてお互いの顔が見える関係を築き、森林や国産材の価値を実感してもらう取組みもしています。
当社は生活クラブ神奈川の住まい部門の子会社です。健康で地球にも未来にもやさしい住環境の実現をめざし、国産材で、特に木をそのまま切りだす無垢材を使った家づくりのお手伝いをしています。神奈川の組合員を中心に、住宅の設計・管理から不動産業、リフォームの相談まで応じています。
家づくりでは、空気中の湿気を自然に吸ったり放出したりする無垢材の調湿機能を生かし、家の柱や梁をなるべく外に見える形で設計する提案をしています。
また、木材の産地や生産者のもとを組合員が訪れてお互いの顔が見える関係を築き、森林や国産材の価値を実感してもらう取組みもしています。
岡山県 西粟倉(にしあわくら)村役場 地方創生推進室
参事 上山 隆浩氏
中山間地の西粟倉村は森林資源を活用した地域づくりの先進地です。2008年から村全体で森林を資源として見直し、個人が管理できない山林を村でいったん管理集約し整備。地元の民間企業とともに林業の6次産業化をすすめました。木材の加工・開発や流通などの事業も行ない、地域の付加価値を高めた結果、林業関連の雇用が増えてローカルベンチャーも生まれています。
一般社団法人ゴジョる(東京都世田谷区)
代表理事 菊池 隼氏
東日本大震災からの復興をめざし、岩手県釜石市と東京の有志で立ち上げた団体です。福祉と環境の課題解決に向け、人口減が続く釜石市で高齢者や就労支援者とともに薪を生産しています。薪は森林整備がすすまず、手つかずになっていた放置残材を活用しています。
さとやまエネルギー株式会社(長野県松本市)
代表 前田 仁氏
過疎化がすすむ長野県松本市安曇地区で、生活クラブとともに小水力発電所の建設をすすめています。地域資源を活かし一般家庭約1,000世帯超の電力をまかなう予定です。事業をきっかけに地域の人々と森林整備の協議会を立ち上げ、放置林の間伐もすすめようとしています。
森林の未来のために、次は自分たちが行動する番
森林や木にかかわるさまざまな人たちの話を通じ、組合員が理解を深めた本フォーラム。生活クラブ長野の理事長を務める千村康代さんが次のように結びました。
生活クラブ長野理事長 千村 康代さん
「私たちが食べる提携産地のお米などがおいしいのは、森が育むきれいな水があってこそ。そう考えると、産地の森林の課題は私たちにとっても重要なものではないでしょうか。組合員のみなさんもぜひ一緒に森林を見に行き、現状を確かめましょう。これが新たな活動の機会となることを願っています」
生活クラブでは、今後も組合員と生産者が課題を共有しあう機会をつくり、活動につなげていきます。
【2024年4月19日掲載】