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さあ、香り高い魅惑の旅へ【日東珈琲・長谷川勝彦さん】

奇跡のコーヒー

三澤 孝道(みさわ たかみち)さん

コーヒーの生産国は赤道を中心に南緯25度から北緯25度の、いわゆる「コーヒーベルト」と呼ばれる熱帯地方に分布している。栽培地は輸出港から遠く離れていることも多く、港はともかくそこまで足を運ぶ輸入業者はまれだ。
しかし港に集められたコーヒー豆は、単にグレードごとに一緒くたにされ、誰がどんな思いでつくったものなのかまでは分からない。それに気づかせてくれたのは、ブラジルのある生産者だった。

彼、ジョン・ネットさんに初めて会ったのは15年ほど前のことだ。

「常識はずれの面白い育て方をしている男がいる」

知り合いの肥料屋さんにこう聞いて、さっそくサンパウロ州の農園に案内してもらった私は驚いた。そこに広がっていたのは、コーヒー畑というよりもむしろ「森」だったからだ。

普通、コーヒー農家が重視するのは生産効率と単位当たりの収量である。例えば木を一直線に植えたり、高く伸びすぎないように剪定(せんてい)することで収穫の作業効率を上げる。実が多くつくように肥料を与えたり、除草や病虫害を防ぐために農薬を使うのも当たり前だ。

「いや、それはコーヒーにとっては不自然な環境だよ。人間の都合に合わせるより、野生のコーヒーと同じような状態にしてやるのが一番大事なことなのさ」
コーヒーの抽出液は最初ほど濃くて味がよく、時間とともに薄くて雑昧が混じったものになる(左が最初の抽出液。右へいくほど時間が経過している)


こう話すジョンの農園は、数メートルの高さにまで伸びたコーヒーの木が自然の森のような環境をつくり、地面は落ち葉でふかふかしている。自らが「自然農法」と呼ぶ彼のやり方では、農薬や化学肥料はもちろん、一般的な有機栽培で使う堆肥(たいひ)などの有機肥料すら施さない。

「コーヒーは人間に飲まれるために実るのではなく、子孫を残すのに必要な分だけ実をつける。その量を増やしたり、大きくするために肥料を与えるのも、やっぱり不自然だと思うんだ」

ほかに例を見ない彼の農法、いや「哲学」に面食らったが、そのコーヒーを飲んでさらに驚いた。

「うまい! これはすごい。奇跡のコーヒーだ」
今ではわが社の看板となっている<森のコーヒー>とは、このようにして出会った。


笑顔あふれるコーヒー

コーヒーの粉に熱湯を注ぎ、その上澄みで昧と香りをみる「カッピング」

さて、次の行き先は南太平洋に浮かぶ熱帯の楽園、パプアニューギニアだ。この島国の中央に位置するニューギニア島の高原地帯は、コーヒーの栽培適地。そのためヨーロッパ人はコーヒープランテーションをつくり、輸出業も独占してきた。

そのなかで、パプアニューギニア人として初めて輸出ライセンスを取り、栽培から輸出まですべてを現地の人々で行う「コンゴ・コーヒー社(以下、コンゴ社)」を興したのが、元高校教師のジェリー・カプカさんだ。まだ創業10年あまりだが、同社のスペシャルコーヒー〈エリンバリ〉はコーヒー通をもうならせる。

ところで、1997年から2000年に国連が実施した「グルメコーヒープロジェクト」をご存じだろうか。コーヒー生産国は経済的に貧しいことが多いため、良質で高く売れるコーヒーづくりを指導することが有効な支援策となるかどうかを確かめるために展開されたプロジェクトである。パプアニューギニアも対象国だったが、コンゴ社自体は支援先として選ばれていなかった。しかし、運よく指導のために訪れていた専門家にコーヒーを試飲してもらうことができた。残念ながら評価は惨憺(さんたん)たるものだったが、「こうすればもっと良くなる」というアドバイスがもらえた。それを実践した結果、コンゴ社のコーヒーは長足の進歩を遂げたのだ。

 その専門家は実は私の知人だった。ある日、彼から「なかなかいいから試してみて」とサンプルを渡された。飲んでみると濃厚で力強い味わいにチョコレートのような香味もある。気に入って直接産地を訪ねることにした。  

標高1800メートルの高地の村では、地元の名士あるいは村長のような存在として、社員や農家に慕われるカプカ社長を中心に、パプアニューギニアの人々が、良いコーヒーをつくろうと張り切っていた。

その笑顔にも、そしてもちろん彼らのつくるエリンバリにも、すっかり私は惚れ込んでしまった。


ブライドが未来をつくる

麻袋に包まれ、船旅で日本に来る生のコーヒー豆

「小規模農民のつくるコーヒーは、プランテーションのものより品質が劣る」

 こういった見方は世界共通で根強い。確かに一元管理のプランテーションに比べ、小規模農民は栽培や収穫後の処理の良しあしに個人差が出やすいのも事実。だが、世界のコーヒーのほとんどは小規模農民がつくっている。ある意味では彼らこそ主役なのだが、そのコーヒーは全部まとめて輸出業者の手で売られるため、外国のバイヤーからは見えない存在である。

そういう人々が主人公になっている点がコンゴ社の面白さだ。いまや、国の機関などにいた優秀な人材が集まるほどの会社になったが、成長の秘密は「プライスとプライド」にあると私はみる。同社でエリンバリを生産できるのはその価値を理解し、かつ経験と技術を持つ熟練者だけ。もちろん普通の豆よりも高い「プライス(価格)」が支払われる。これがチャリティーや援助からでは決して生まれない「プライド」、そして意欲につながっている。

6代目の社長となった今も、私は毎年バックパックを背負って世界中の産地へ出かける。行かなければ得られない出会いや発見があるからだということを、この紙上の旅に同行してくださったみなさんには、きっと理解していただけるだろう。
 

「魅惑の旅」案内人の横顔

長谷川 勝彦<span>(はせがわ かつひこ)</span>さん<br>
<span>■提携先 日東珈琲株式会社<br>
■提携品目 森のコーヒー、<br>
コーヒー・パピアニューギニア、<br>
コーヒー・ブレンド ほか</span>

今回、私たちをコーヒー産地へ案内してくれたのは、1910年創業の日東珈琲株式会社・社長の長谷川勝彦さんだ。同社は日本で初めてブラジルからコーヒーを輸入した会社で、銀座に開店した「カフェーパウリスタ」は喫茶店の草分け的存在として、森鴎外や芥川龍之介をはじめとする文化人が好んで通った店である。

先駆者として日本のコーヒー文化を牽引してきた同社だが、今もその姿勢に変わりはない。実は、日本で流通するコーヒーの多くは商社経由で輸入されている。買い付けの基準は味ではなく、価格と豆の見栄えが優先される。これに対し長谷川さんは、味や育て方を自分で判断できる直接買い付けを重視している。

「直接買い付けには輸入にかかわる繁雑な業務も発生しますし、さまざまなリスクも伴います。でも従来のシステムでは、個々の農家の思いがこもったコーヒーをそのままの形で日本に運べないと考え、このやり方を選びました」

このような方式は日本のコーヒー業界にも徐々に広がってきているが、扱うコーヒ-の9割以上が産地からの直接買い付けであるという意味でも日東珈琲は、やはり先駆け的存在といえる。

さて、「味]でコーヒーを選ぶためには、当然のことながら味見が必要になる。そのために「カッピング」というテストをする。これは挽(ひ)いたコーヒーの粉に熱湯をかけ、その上澄み液をすすって味を確かめ、その結果を点数で評価する方法だ。判断のポイントは次の8項目である。
(1)液体がクリーンであるか
(2)甘さ
(3)酸味の質
(4)液体の質感、重さ(コク)
(5)風味の特徴
(6)後味
(7)バランス
(8)総合判断=好きか嫌いか

「買い付けに行った産地でカッピングする時は、どんなコーヒーだろうかとワクワクすると同時に緊張します。相手も『どんな評価が下されるのだろうか』と息を詰めているのでしょうが、こちらの趣味や力量が相手に判断される瞬間でもあるからです」(長谷川さん)

このように、味と産地の様子を確かめて買い付けられたコーヒーはそれぞれに個性がある。長谷川さんは言う。
「世界中のいいコーヒーをつくっている人たちといい関係を築き、最適のタイミングで日本のみなさんに届けたい。生産者の表現したい味、プライドが伝わるルートや仕組みをつくり、飲んだ人たちの声を生産者に届ける。そんな、つなぎ役になりたいと思っています」


『生活と自治』2010年7月号の記事を転載しました。

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