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命は食べ物でできている【相馬 一廣さん】

農薬“全盛”の時代に

「右は遺伝子組み換え作物をつくらないことを宣言する手製の看板。「タネの多様性を大事にしなきゃ。だから組み換えには絶対反対です」

 私が農業を始めた40年前と今とでは、随分いろいろなことが変わりました。当時は農業するならドーンと大きく米をつくるのが一番。そういう価値観でしたし、無農薬栽培など相手にもされませんでした。農薬を“正しく”使い、商品価値の高い農産物を効率的につくることが良いと考えられていたんです。
 私の農家としてのスタートは、代々引き継がれてきた田んぼからでした。当時は自分のお米がどこに行って、誰が食べるのかということはあまり考えませんでしたし、農薬も農業改良普及所から言われるままに使っていました。中にはまいたとたんにメダカやドジョウが「プカッ」と浮くようなものもあって、「このお米を子どもたちに食べさせて大丈夫かのう」と不安になったのを覚えています。
 そんな折、東京の生活クラブという生協の人たちが、無農薬のジャガイモを20トンつくる人を探していると聞いたんです。就農6年目、28歳でした。当時、月山山ろくの未開地を農地にする国営開拓事業があり、入植希望者は無料で農地を借りられたので、「やってみるかの」と、もうひとりの仲間とともに挑戦したのが(有)月山パイロットファームの始まりです。
 最初は大変。なにしろ2トントラックにたい肥を満載して「畑」に入ってもわだちがつかないほど土は硬く、トラクターで1時間も耕せば刃が半分も折れてしまうほど石だらけ。また、農業改良普及所に相談に行けば、「無農薬なんてやめた方がいい」と言われるだけで、アドバイスももらえない。不安を抱えつつ種芋を植えました。
 だから畑に整然とした緑の筋が見えたときの感動は、今も忘れません。「ほー、芽が出るんだのう」と言ったきり、言葉を失いました。
 できた芋の味は良かったですよ。でもその年は表面にかさぶた状の病斑(はん)が出る「そうか病」にやられましたし、ピンポン球みたいに小さな芋も多かった。本来、規格外品となるこれらを、生活クラブの人たちは全部買って食べてくれたんです。本当にありかたかった。でも、「きっと来年はないだろうな」と覚悟もしました。
ところが、年が明けた2月ごろ、「今年はどれくらいつくれますか」という連絡が入ったんです。結果はともかく、取り組んだこと、その行動を認めてもらえたことに感激し、「よし、本気出すぞ」と決意を新たにしました。


重要なのは多様性

「赤かぶ漬け」の原料となる温海(あつみ)かぶ

 現在、月山パイロットファームの農場では、代表を継いだ息子を中心に、輪作体系で20品目ほどの農産物を育てています。輪作は連作障害を防いでくれますし、化学肥料や農薬などの外部資材に頼らない農業を実現するためにも重要です。ポイントはローテーションのなかにマメ科とイネ科の植物を入れること。マメ科植物は空気中の窒素を固定して土を肥やし、イネ料は根を深く張って畑を耕してくれるからです。
 20種の作物のあらましを「自家採種」しています。これは育てたもののなかから翌年使うタネをとっておく方法です。もしかすると、「タネを取ってそれをまくのは当然じゃないか」と思うかもしれませんが、今の農業では、収量が多く、形や大きさが均一で味も良い性質になるように交配したタネを、毎年買うことが一般的です。
 自家採種では、栽培する農家がどんなタネを選ぶかによって、土地や環境、その人の栽培方法や好みにあった特徴を持つ品種が固定されていきます。近年注目されている「在来野菜」はその延長にあります。
 この辺り(山形県・市内地方)に 「だだちゃ豆」「温海(あつみ)かぶ」「民田(みんでん)なす」など、いろいろな在来野菜が残っているのは、農家が自家採種を続けてきたからなのです。でも楽な仕事ではありません。一般にタネは新しいほどよく発芽するため、毎年休まずに栽培と採種を繰り返さなければならず、また自家採種のタネは遺伝的多様性に富むことから、収穫がそろわない傾向もあります。だからこそ交配種が市場を席巻したのですが、多様性が失われるのはすごく怖い。私はそう思っています。
 例えば昨年、山形県の新品種米「つや姫」は出来が良く、ササシキはまったくダメでした。すべてがササニシキだったら大変なことになったでしょう。でも、今後もつや姫に適する気象条件が続くとは限らないし、単一の品種になれば病虫害による脅威も増します。連綿とつながれてきた多様性を手放すのは、本当におろかなことだと思います。


何に価値を見出すか

青菜(せいさい)の畑。「作物が負けない程度なら雑草が生えていても、まあ大丈夫」

 最新の分子生物学の研究によると、人の体の細胞は、28日くらいですべて新しく入れ替わるそうです。その細胞は、食べたり飲んだりしたものでできている。食べ物をつくる農業は、命そのものをつくっているといえます。つまり農業が永続可能でなければ、命は続かないのです。じゃあどんな農業が 永続可能かといえば、その地その地に適した多品目の作物を組み合わせ、農薬や化学肥料、化石燃料にできるだけ頼らない農業でしょう。その点で有機農業は理にかなっている気がします。
 有機というと作物の安全性やおいしさから語られることが多いですが、それよりも永続的に生産していける農法として、これからすごく重要になっていくと私は考えています。
 これまで人々の選択は「安い」とか「楽」に流れてきました。水が高いところから低いところに流れるように、ある意味これは自然なことです。でも、流れるままに任せていていいのか─。これを真剣に考えなくてはならない時代に来ていると思うのです。そのとき、一時の経済発展に価値を置くのか、それとも違う何かに置くのか。そんなことを考えながら、私は今日も畑に向かっています。

永続可能な農業を目指すなら、燃料も自前で

左が原油。精製・ろ過すると右のような淡い色に

 今の農業はエネルギー、具体的には石油や重油などを大量に使っている。それは、農薬や化学肥料を使わない農業も同じこと。例えば、(有)月山パイロットファームでは年間500~600トンのたい肥を使っているが、これを運ぶのはダンプカーである。耕作や収穫にはトラクターやコンバインが必要だし、点在する畑を移動するためにはワゴン車も欠かせない。
  今回の語り手である相馬一廣さんは「日本は産油国ではないから、『油』がストップしたら農業はピンチになってしまう。だから、『自給できる油』として、使用済み食用油からつくるバイオディーゼル燃料(BDF)を導入しました」と話す。 
  5月から11月半ばまでの暖かい期間、農場で使うトラクターなどの半分くらいをBDFで動かす。“原油”は、生活クラブの提携先でもある(株)平田牧場の直営店から出るとんかつの揚げ油。走る車からは、ほのかにとんかつのにおいが漂う。

精製装置はすべて身の回りの材料でくったお手製

油は近くの3店舗から年間4000リットルほどを譲ってもらっているが、もちろん、そのままでは燃料にならない。BDFにするためには精製とろ過が必要となる。試行錯誤を経て相馬さんが編み出した工程を簡単に示すと次のようになる。
(1)缶に入ったとんかつ油を何ヵ月間か置いておき、かすやその他の固形物を沈殿させる。
(2)その上澄み油に、メタノールと水酸化力リウムの溶液を混ぜる。
(3)ネルでこして、ごみやラード分を取り除く。
(4)最後に非常に細かい紙フィルターでこして完成。  
  ポイントはとにもかくにも丁寧にこすこと。そうしないとエンジンのフィルターが詰まり、故障の原因となるからだ。 
 実はこの“精製プランド”は、身の回りにある道具を活用して相馬さんが手づくりした。できあいの装置は値段が高すぎることもあるが、なにより「工夫してものをつくり出すのが楽しくてしょうがない」からだという。自宅倉庫には、古くなった車のエンジンや解体したビニールハウスの鉄骨など、さまざまな「お宝」が山と積まれ、出番を待っている。  
  代表をバトンタッチした現在、少しずつ時間をつくって、次なるエネルギー源の創出を研究する。それが一番の楽しみであり、夢だと語る相馬さんの瞳は、少年のように輝いている。

『生活と自治』2011年1月号の記事を転載しました。

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