粗放養殖のエコシュリンプ 組合員が参加して現地(インドネシア)を点検
手軽に利用されるようになったエビ。量販店やファストフード店で見かける多くのエビは、どこで誰がどんな風に獲ったものかほとんど知ることができないまま、私たちは口に入れているのが現状です。生活クラブは(1)環境保全型のエビ事業であること(2)生産者、加工業者、消費者各々との間で協同関係をつくること(3)食品として安全性を追求すること―など取引5原則に基づいて「誰がどこでどうつくったかがわかる」価値を大切にしたブラックタイガー(2005年からエコシュリンプに統一)に取組んできました。エコシュリンプの産地であるインドネシア・ジャワ島東部の2地区とスラウェシ島の南部に、7月中旬、連合消費委員2人を含むメンバーが現地を訪ね、生産から集荷、加工場までを視察・点検しました。(2010年9月15日掲載)
ジャワ島・独自の監査活動を実施
エコシュリンプの産地はジャワ島東部のシドアルジョ、グレシック地区と、スラウェシ島南部の3地区です。地区によって取組みの経緯や生産環境は若干、異なりますが、「稚エビを池に放流後、無給餌ならびに化学合成薬品無投与の条件を満たしている粗放養殖エビであり、買い入れ前に上記条件が確認されているエビ」であることは3地区共通の定義になっています。
ジャワ島のシドアルジョ地区はエコシュリンプの産地として歴史があり、提携生産者の(株)オルター・トレード・ジャパン(ATJ)が現地事務所を開設した2000年以降は、生産者の組織化や池の登録、事前監査など、エコシュリンプ事業のモデル産地となっています。ただ、近年は都市化が原因と見られる生産性の低下がみられることから、ATJの現地法人であるオルター・トレード・インドネシア(ATINA)は生産者からの要請を受け、今年度から生産性向上に向けた実験生産を始めています。
同じくジャワ島のグレシック地区は原料不足の補完を目的として03年から集荷が始まりました。大手集荷業者を仲介することでサイズ別購入が可能な地域です。
ジャワ島の2地区はブンガワン・ソロ河などのデルタ地帯に位置する伝統的な粗放養殖の産地です。収穫後、池の作業場に集められたエビは、専用のクールボックスに氷水とともに詰められ、プラスチックのタグで封印されてATINAの集荷場に運ばれます。池上げされたものとは異なるエビや、異物混入を防止するためATINA社の監査員もエビの水揚げに立ち会います。この監査活動は、誰がどの池でどのような方法で養殖したエビであるかを明らかにするためATINA社が導入した独自の活動です。「専任の監査員によって池の所在地や構造、池主と管理人、収穫量、稚エビ購入先、飼料や抗生物質の使用の有無などが丹念に聞き取られ、池の記録が作られていました。先行産地のシドアルジョでは池主が登録制になっているほか、グレシックでは事前監査がシステム化されています。担当する監査員から記録に基づき丁寧な説明を受けることができ、エコシュリンプへの信頼感を高める仕組みであることを確認しました」(生活クラブ連合会開発部水産課の西澤忠晴課員)
優れた衛生・品質管理体制の加工場
一方、スラウェシ島南部は、70年代のエビ養殖ブームを経てブラックタイガーの養殖が盛んに行われるようになった地域で、05年から取組みを始めました。今回の点検では、粗放養殖地域であることは確認できていますが、ジャワ島に比べて小規模な生産者が多く、一旦、地域の集積場に集められて流通をしているため、ジャワ島の2地区のように監査活動が充分に行われていないことから、ATINAにその強化を要請しました。この点について、連合消費委員で視察メンバーの中山和見さん(栃木)はこう報告しています。 「ATINAの監査委員が池の一つひとつのデータを収集する監査作業を進めていますが、すべての池の監査を完了するにはもう少しかかると思います。ただ、監査員は養殖についても研修などを積極的に行っていますし、監査を通じてつながることで産地提携を進めるATINAの方針を理解してもらうようになることを期待したいです」
これら3地区の生産者の多くは、エビを密養し人口飼料や病害対策のための抗生物質を与えるような「集約型養殖」ではなく、無給餌、無投薬で酸素補給も汐の干満を利用した伝統的な粗放養殖を続けています。これが取引5原則のひとつ「環境保全型のエビ事業」たる所以です。ただ、スラウェシ島南部の養殖池の多くは、エビ養殖が急拡大した70年代にマングローブ林などを開墾して造成された経緯があります。このため、エコシュリンプの取組みにあたって、マングローブの植林活動の立ち上げなどが課題として上っていました。この活動が08年以降中断していることから、今回の視察では改めてその対応の強化を要請しました。
視察・点検は養殖池だけではなく、加工場(2ヵ所)でも行われ、生産ラインや従業員の服装などが清潔に保たれ衛生的に生産されていることを確認しました。
「ATINAの本社工場に入って驚かされたことは、日本の食品工場と比べ勝るとも劣らない衛生管理・品質管理体制です。QCと呼ばれる独立した品質管理部署が設けられ、温度や時間、品質などの製造記録や原料の管理とともに、従業員の手指消毒やローラー掛けによる毛髪混入対策まで徹底した指導が行われていました」(前出・西澤課員)
同工場における加工の特徴は、保水剤を使わない製造方法です。市販のエビでは、不自然なプリプリ感を出して歩留まりを高めるために使われることの多い保水剤ですが、これを使わず、水揚げから加工凍結までを短時間で処理することで、鮮度と素材の良さを引き出します。
稚エビの安定確保などの課題が
インドネシアのエビ養殖は、ブラックタイガーから生産効率の高い小ぶりのバナエイへの魚種転換が進みました、しかし、病気の発生などで生産効率が悪化、生産量が伸び悩んでいます。政府はブラックタイガーの増産を産地に働きかけていますが、70~80年代にかけて養殖に適した地域の開発が一巡したことから、新たな養殖池の開発は環境破壊につながり、世界的な批判が避けられないために生産増は難しい状況です。エコシュリンプの産地でもバナメイが普及したためにブラックタイガーの稚エビ生産が減少するなど、稚エビの安定確保が課題となっています。このためATINAでは、エコシュリンプの生産安定のために09年から自前のハッチェリー(ふ化場)を運営することに取組んでいます。また、本来は持続可能な方法の粗放養殖ですが、前述したように、シドアルジョ地区などでは単位面積当たりのエビの収穫量は近年減少傾向にあるようです。このため、経験と勘だけに頼らない粗放養殖の生産モデルをつくるための実験池の取組みも2年目を迎えました。
エコシュリンプの取組みを開始して17年が経過し、「環境に配慮した安全で安心して食べられるエビ」を取組む仕組みが整備されてきました。ただ、国民性や宗教を含めた文化の違いなどを越えて生産者と消費者が理解しあい、課題を克服していくには時間を要します。現状では一般的なエビの流通が集荷倉庫―集荷人―池主―池の管理人―労働者という仕組みに貫かれているなかで、誰をもって生産者とするかも産地事情に左右されます。「取引5原則にある“生産者との協同”はアプローチの段階を脱していません。エコシュリンプの取組みが互恵の対象としている“生産者”は地域で自立している池主であり、ATJが民衆交易と表現しているバランゴンバナナの“産地の人々の自立”を目指す事業とは産地の構造が異なることについてはもっと周知が必要です」(生活クラブ連合会開発部・志村保幸水産課長)
また、視察に参加した連合消費委員の太山清美さん(青森)は今後の方向性について、「社会構造のまったく違った国との交易を実践しながら、私たち生活クラブはこれからの20年で新しい提携の在り方を、食べ支えていきながら提案する時期に来ているのではないかと思いました」と報告しています。