シンポジウム「未来につなごう いのちを育む食と農」を開催
2010年10月11日~29日の19日間、愛知県名古屋市で2つの国際会議、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)/カルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)」が開催されます。これに向け「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク(MOP5市民ネット)」と全国の自然保護団体を横でつなぐ「生物多様性市民ネットワーク(CBD市民ネット)MOP5作業部会」が、開幕100日前にあたる7月3日、「未来につなごう いのちを育む食と農」と題したシンポジウムを開催しました。当日は3部構成で、1部は南フランスでオーガニックブームを巻き起こしたドキュメンタリー映画「未来の食卓」の上映、2部は「生物多様性と遺伝子組み換えについて考える」をテーマにしたシンポジウム、3部は「COP10/MOP5に対する市民からのメッセージ、MOP5への市民提言案」が発表されました。参加者は全国から遺伝子組み換え問題に関心の深い団体、生協、市民を中心に約500人。集会の最後に、MOP5への市民提言案が読み上げられました。(2010年7月27日掲載)
会議の成功はNGO・市民に託されている!
「生物多様性条約」は1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)で署名・成立しました。94年からほぼ2年ごとに締約国会議が開かれています。この会議の名称が「COP」です。この条約では、生物多様性に悪影響を及ぼす恐れのある遺伝子組換え(GM)生物の取り扱いについても検討することが決められました。これを受けて、コロンビアのカルタヘナで開かれた特別会議でその内容が討議され、2003年の組換え作物などの輸出入時における国際協定「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が発効、この締約国会議の呼称が「MOP」です。今年10月に開かれる「COP10/MOP5」では、生物多様性の保全や持続可能な利用、生物多様性への影響が懸念されている組換え作物の取り扱いについて話し合い、国際ルールを決めることになっています。
第2部のシンポジウムの冒頭、CBD市民ネット共同代表の高山進さんは、10月に開かれる国際会議の課題を次のように指摘しました。
「COP10/MOP5の会議に正式に参加するのは政府関係者ですが、過去の会議では政府関係者以外のセクターが大きな役割を果たしてきています。今回もそのような組織ができるか不安でしたが、CBD市民ネットに96団体(MOP5市民ネットを含む)、86名の個人が加入、多種多様な目的を持った市民団体が結集し存在感のある市民連携組織ができつつあります。 今年5月10日、2002年に作られた生物多様性に関する21の目標について報告書が発表されましたが、地球規模で達成されたものは何一つありません。文明社会の転換期に来ているのだといえますが、10月の会議はポスト2010年目標をいかにつくるかが課題です」
「責任と修復」が最大の争点
シンポジウムでは(1)「農業の現場から見た生物多様性」(2)「GMなたね自生の現状」(3)「遺伝子組換え生物の問題点」(4)「カルタヘナ議定書〈責任と修復〉問題」(5)「COP10・MOP5における市民の役割・COP10で何が議論される」のテーマで報告がありました。
MOP5市民ネット共同代表の天笠啓祐さんは、この日の集会のポイントを3点挙げ、参加者に協力を呼びかけました。「まず生物多様性とは何だろうと体にしみ込ませてほしいこと、2つ目に生物多様性条約は生物の保全のみならず、持続可能であり、かつ公平な利益配分という経済性の部分が国際条約においては関わっていることを理解して他の人に伝えてほしいこと、3つ目に遺伝子組み換え等命を操作したものに対する規制の現状を知り、前回のドイツ・ボンのCOP9/MOP4において合意が妨げられてしまった最大の争点『責任と修復』をいかに補足できるかが、私たちNGOにとって大切な役割であるということです」
テーマ別報告の(1)で、2005年に日本で初めてGMOフリーゾーン宣言をした生産者グループの一人、滋賀県高島市で有機農業を営む石津文雄さんは、有機農業を続けることで、絶滅したかに思われた生物がたくさん見られるようになった実例を報告しました。
MOP5市民ネット共同代表であり、GMナタネ輸入港である四日市港を中心とした地域で2004年から毎年GMナタネ自生調査と抜き取り活動に取り組んでいる「遺伝子組み換え食品を考える中部の会」の河田昌東さんは(2)で、伊勢湾を囲んで遺伝子汚染が広範囲になっていること、GM自生ナタネが多年草化、世代交代し、国内のブロッコリー等との交配や、野草のイヌガラシ等との交配が進んだ「GM雑草」が出現している実態を報告しました。
天笠啓祐さんは(3)で、世界のGMO作付けの現状とGMOが生物や食品の安全性を脅かしている現状について、耐性害虫や耐性雑草の拡大、除草剤散布による周囲の自然破壊と昆虫の寿命等への影響、さらには熱帯雨林の家畜の繁殖率低下、死亡などの影響を指摘。さらに動物実験で、免疫システムや生殖、出産への影響などが指摘されていることを紹介しつつ、「食品としての安全性が脅かされる」と警告を発しました。
MOP5市民ネット運営委員であり日本消費者連盟/GM国際ウォッチに所属する真下俊樹さんは、もし何かあった時の「責任と修復」についてトヨタ自動車のリコール問題を例に製造物責任法(PL法)と比較し、「GMO版国際PL法」が必要なことを強調し、「PL法並みの予防原則に基づいたリスク管理、汚染者負担の原則、広い賠償範囲の適用、無過失責任や財政保障などを議定書に盛り込んだカルタヘナ議定書の責任と修復補足議定書が決まるかどうかが今回の会議の争点になる」と話しました。
CBD市民ネット運営委員の原野好正さんは、今回のCOP10で結論を出さなければならない項目として次の3つを挙げました。
- ポスト2010年目標を決めること
- ABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分)の国際体制を決めること
- カルタヘナ議定書「責任と修復」の結論を出すこと
そのうえで「私たち市民にできることは、監視すること、提言すること、アピール、イベント参加など様々」と話し、現在、「プラネット・ダイバシティー・プレイベント」や「いまじんウォーク」等が企画されていることを紹介しました。
GMOは止められる!
パネラーの報告の後、会場の参加者からいくつかの質問が出されました。この中には「アメリカの立場を教えてください」という質問があり、「アメリカは当然規制をしてほしくないが、国際交渉の発言権がないためパラグアイ、コロンビアといった国に代弁させている。これらの国はアメリカから援助を受けているため、発言内容が変わってきている」との回答がありました。
最後に「GMOは止められるのでしょうか」との質問に、各パネラーは次のように答えました。石津文雄さんは「止められると思います。口コミで隣りの人に発信していきたい」、天笠啓祐さんは「ここの参加者の人たちみんながやらないと止まらない、いろいろな人に伝えてほしい」、河田昌東さんは「食べる人が食べない。作る人が作らない。売る人が売らない。ひとりひとりがやめることによって止められる」、真下俊樹さんは「消費者が動かないと変わらない。GMOの危険やリスクが価格に反映されていないのは不当。知ることがまず大事。ひとりひとりが伝道師となってこのことを知らせていくことが大切です」と訴えかけました。
集会の3部では、CBD市民ネットの各作業部会から4団体、グリーンコープや大地を守る会などなど7団体がCOP10/MOP5に寄せるメッセージを発表しました。
生活クラブを代表して、昨年生活クラブ愛知でMOP5実行委員会を立ち上げ活動してきた組合員、山崎真由美さんが次のように発表しました。
「生活クラブでは、GM作物が日本に入ってきた翌年の1997年『遺伝子組み換え技術によって生産された作物・食品及び加工品を取り扱わないことを原則とする』宣言をし、この問題に取り組んできました。今年8月、私たち愛知の組合員も、生活クラブ愛知のコメ、音羽米の生産者と共にGMOフリーゾーン宣言をします。一人では何もできないのではなく、みんなが力を合わせることによってこれらを実現できることに気づき、活動しています」
集会では、国際的な危機管理体制の確立とともに、予防原則に基づいたカルタヘナ国内法(正式名称:「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」)の改正を求めるとともに、同法の改正などに向けた具体的な市民提言案が発表されました。