昨年に続いて再処理工場周辺の環境調査を実施
核燃料をサイクルさせるために使用済みの放射性廃棄物を再処理する六ヶ所核燃料再処理施設。再処理工場では本格稼動に向けた試験運転が始まっています。トラブルが多発したことで現在は中断していますが、生活クラブ連合会などが呼びかけ団体になっている「『六ヶ所再処理工場』に反対し放射能汚染を阻止する全国ネットワーク」(以下、阻止ネット)は2月25日、六ヶ所再処理施設周辺で放射能汚染の実態を把握するための環境調査を実施しました。翌26日には「日本原子力学会2009年秋の大会」で工場周辺における環境調査の結果を報告した、(財)環境科学技術研究所を訪れ、調査結果の詳細なデータを入手しました。(2010年3月8日掲載)
沼水と海水、海藻を採取
今回の環境調査は昨年2月に行われた第1回目に続くものです。採取場所は「昨年のデータと比較するためにほぼ同じポイントで時期も同じにする必要がある」(生活クラブ連合会品質管理部副部長の槌田博さん)ために、再処理施設の東に位置する尾駮沼(おぶちぬま)と、再処理水を太平洋に排出するために設置された排出口の南域にある海岸の3ヵ所。沼水と海水、海藻を採取し、試料は現地から専門の検査機関に発送されました。
調査に参加したのは前出の槌田さんをはじめ、生活クラブから青森理事長の戸川雅子さんと専務理事の河野顕さん、そして関西の生活協同組合連合会きらり役員室室長の寺嶋英介さんの4人。沼水と海水の採取は容易でしたが、困難だったのは海藻の採取でした。昨年と同じ場所の岩礁で試みたものの、海水温の影響か、海藻が成長していなかったために採取場所を求めて時間を費やさざるを得なかったからです。それでも予定していた1kgの量を確保し、環境調査の初期目的を達成しました。
昨年は環境調査に大きなウェイトが置かれましたが、今年は(財)環境科学技術研究所への調査訪問が加わりました。その目的について槌田さんはこう説明します。
「去年の日本原子力学会で環境科学技術研究所が、尾駮沼のヨウ素濃度が上がっているという発表をしました。その情報が再処理に反対する運動グループに広がってきています。検出されたレベルは極微量ですが、3~4年前はほとんどゼロレベルでしたから見逃せません。その実態を把握するための詳細なデータを入手し、情報発信に役立てたいと思います」
海底堆積物中のヨウ素129の数値が08年に急上昇
(財)環境科学技術研究所は1990年、国が青森県の強い要請に応じて設立した研究財団で、青森県内の空間放射能(線)の分布や放射性物質の環境循環機構を明らかにすることなどを目的にしています。
同研究所が2009年秋の日本原子力学会で報告したのは、「アクティブ試験中の六ヶ所村大型再処理施設周辺における水圏環境中のヨウ素129濃度」というもので、再処理施設から大気に放出されたヨウ素129が、尾駮沼水中濃度へ与える影響について検討したものです。このなかで、反対運動グループの間で広まっている情報は、尾駮沼河口における海底堆積物中のヨウ素129の数値が2008年に急上昇したことで、その値は07年の約2倍、06年と比較すると約12倍になったという内容です。
(財)環境科学技術研究所は詳細なデータの提供を快諾し、質疑にも応じてくれました。そのなかで担当者は、検出されたヨウ素129は「再処理施設から大気中に放出された放射能が原因と考えられる」とする一方、「2008年は2006年に較べて12倍になったことは否定しません。しかし、放射線量の数値は些少であり問題ない」との立場を崩しませんでした。
環境調査に参加した阻止ネットのメンバーは、今回の環境調査を踏まえ「アクティブ試験は本格稼動の10%程度の能力。本格稼動になれば数値はさらに上がる」ことに懸念を示すとともに、本格稼動中止が放射能汚染を防ぐ最短、最善の道であることを強調しています。
なお、阻止ネットは今後も環境調査を続けていき、食品の生産者と消費者とともに調査結果を共有していく予定です。