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遺伝子組み換え生物は生物多様性を脅かす!

遺伝子組み換え生物は生物多様性を脅かす!

 2010年10月に名古屋で、「生物多様性条約締約国会議/カルタヘナ議定書締約国会合」が開かれます。生物多様性条約は、地球の環境を包括的に保護する「地球の上の生命の条約」と言われ、その中で、遺伝子組み換え生物は特に問題があるとして特別に規制を求め、カルタへナ議定書がつくられました。2010年の名古屋会議では遺伝子汚染を防ぎ、生物多様性を守るために、この条約と議定書を実りのあるものにすることが求められています。そこで1年前にあたる10月24日、愛知大学で「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク(MOP5市民ネット)」が主催して記念集会が開かれ、280人が参加しました。(2009年11月4日掲載) 

多くのNGOから批判された日本政府の姿勢

 「生物多様性条約」は1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)で「気候変動枠組み条約」とともに署名・成立しました。翌93年に発効し、94年からほぼ2年ごとに締約国会議が開かれています。締約国の会議の略称が「COP」です。 この条約では、生物多様性に悪影響を及ぼすおそれのある遺伝子組み換え生物の取り扱いについても検討することが決められました。これを受けて、コロンビアのカルタへナで開かれた特別会議でその内容が討議された後、2003年に遺伝子組み換え作物などの輸出入時における国際協定「バイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書」が発効しました。議定書の締約国の会合の略称が「MOP」です。
  来年10月に名古屋で開かれる会議が「COP10」と「MOP5」。この会議では、生物多様性の保全や持続可能な利用、生物多様性への影響が懸念される遺伝子組み換え生物の取り扱いについて話しあわれ、国際ルールが決められることになっています。
  集会の冒頭で、「MOP5市民ネット」共同代表の天笠啓祐さんは、08年にボンで開かれた締約国会合(MOP4)で日本政府は、遺伝子組み換え作物などがもたらす被害への輸出国の責任と修復のためのルールづくり案に対して、条約未加盟のアメリカなどの声を代弁する立場で反対したことから「議定書の合意を妨げた」と多くのNGOなどから批判されたことを紹介し、参加者にこう訴えました。
  「名古屋では、責任と修復のルールづくりの他、遺伝資源から生じる利益を先進国が独占している現状を改め、その配分の国際ルールをつくる、など三つの焦点がありますが、議長国となる日本政府の動き次第で失敗する可能性もあります。世界の市民の力を集めて、生物多様性を守るための国際合意を築いていかなければなりません」

「生物多様性を守るのは市民の力」

基調講演を行うクリスティーネ・フォン・ウァイツゼッカーさん

 集会では、ドイツの環境保護活動家で、ヨーロッパの環境NGО「エコローパ」に所属し、生物多様性条約やカルタヘナ議定書の策定にNGОの一員として携わり、その議論や決定に影響を与えた生物学者のクリスティーネ・フォン・ウァイツゼッカーさんが「生物多様性を守るのは市民の力」と題して基調講演を行いました。
  クリスティーネさんはまず、カルタヘナ議定書締約国会議は市民に開かれた会議であり、見識を広げるためにも、また国際的な協力体制を築くためにも「市民による集会は社会的に意義のあること」とエールを送りました。
続いて、カルタヘナ議定書の歴史は、「科学技術と規制の関係について、過去の誤りとは何だったのか、それはなぜ起きたのかということと、新しい科学技術にそれをどう生かすかという問いに対する試みだった」として、その目的をこう説明しました。
  「欧州環境庁が2002年に公表した環境問題報告には、科学技術について規制が遅れた過去の事例が紹介されています。そのなかにはアスベストのように、100年前に健康被害が分かっていたにもかかわらず、規制されたのは100年後だったケースや、日本で発生した水俣病についても取り上げられています。人々の被害を防止するためにはどういうリスク評価が必要だったのか、科学技術に対して国によるどんな規制が必要だったのか、さらに、グローバル化によってどんな国際協定が必要なのか。これらについて過去の失敗から学び取り、遺伝子組み換え技術という新しい科学技術に当てはめていこうとするものです」

「予防原則」が基本

 カルタヘナ議定書は、遺伝子組み換え生物など生命操作生物から、ヒトの健康も含む生物多様性を守るためにつくられました。その内容は、科学的に解明されていなくても深刻な、または取り返しのつかない被害の兆しがある時、政府は対策を講じなければならないとする「予防原則」を基本に、遺伝子組み換え食品などの国際間移動を規制しようというものです。その大きな焦点になっているのが、遺伝子組み換え作物など国境を越える移動から生じる損害についての「責任と救済」についてです。08年にドイツのボンで開かれたMОP4までに、そのルールを確立することが課題でしたが合意に到らず、名古屋に結論が先送りされた格好になっています。こうした現状を踏まえてクリスティーネさんは、こう強調しました。
  「会議では遺伝子組み換え作物の3大輸出国であるアメリカ、カナダ、アルゼンチン、それに開発メーカーが大きなインパクトを与えています。また、日本政府はその代弁者のような立場をとり合意を妨げていることが不思議でなりません。アメリカは『健全な科学の原則』という言葉を持ち出しています。その考え方は、因果関係が科学的に立証され、専門家による統一した評価がなければ政府は何もしないというもので、それ以前に対策を講じれば自由貿易協定違反とするものです。しかし、科学的結論が出るまでには何十年もかかり、その間に被害が拡大し続けることがある。『責任と修復』のルールを決定できるかについては名古屋が最後のチャンス。市民の力を結集してこれをカルタヘナ議定書に盛り込ませ、遺伝子組み換え生物を規制していくものにしなければなりません」

今年も「多重耐性ナタネ」が多く見つかる

GMナタネの監視活動

 集会の後半は、「遺伝子組み換えナタネ自生全国調査」の結果報告がありました。報告に立ったのは生活クラブ連合会、大地を守る会、生協連合会きらり、グリーンコープ共同体、遺伝子組み換え食品を考える中部の会、京都学園大学・なたね調査隊、農民連食品分析センターの代表者。「生活クラブGM食品問題協議会」の山本百合さん(生活クラブ生協・千葉)は、調査は他団体と連携したケースもあったことを伝えるとともに、ナタネの輸送トラックから組み換えナタネの種子が道路などにこぼれ落ちる危険性が高いことから、油脂メーカーに積載量の低減化を申し入れ、実現に結びつけたことを報告しました。また、「組み換えナタネか否かの調査結果はその場の検査ですぐ分かります。小さな団体でも取組める活動であることを伝え続けていきたい」と、遺伝子汚染の実態を把握するための調査活動の重要性をアピールしました。
  2009年調査の総検体数は1268。このうち、遺伝子組み換え体への陽性反応が出たのはモンサント社の除草剤・ラウンドアップ耐性が32検体、同じく除草剤・バスタ耐性(開発メーカーはバイエル・クロップ・サイエンス社)が39検体でした。特徴として指摘されたことは、開発されていないラウンドアップとバスタ2つの耐性を兼ね備えた交雑株の組み換えナタネが多く見つかったことです。
  全国調査報告をまとめたMОP5市民ネットの共同代表の河田昌東さんは、「2種類の除草剤耐性ナタネが日本で同時に自生する結果、新たな事態が生じています。06年に千葉港で最初に発見されましたがその後、鹿島港周辺や四日市周辺で、そして今年も『多重耐性ナタネ』が見つかっています。別の企業が開発した2種類のナタネが同じ場所に自生する結果、お互いの交雑によって出現したのです」と原因を指摘したうえで、こう締めくくりました。
  「モンサント社やバイエル社は自社のGMナタネの特許を主張していますが、海外でのGMナタネの自生については責任を回避しています。特許を主張する以上、自社のGMナタネの自生には責任があると考えます。2010年には名古屋でCOP10/MOP5が開かれますが、私たちは、GMナタネの自生が国内農業の保護と生物多様性保護の観点から無視できない問題と考え、GMナタネメーカーと輸出国の責任を明確にし、これを許可した国に厳しい対策を要求しなければなりません」

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