「遺伝子組み換えナタネ」の試験栽培に対し、「分別管理」の手法などを共有
これまで遺伝子組み換え(GM)作物の栽培を行っていなかった西オーストラリア州が昨年暮れ、GMナタネなどの商業栽培に向けた試験栽培を行うと発表しました。一方、生活クラブは同州で栽培された遺伝子組み換えでない(NON-GM)ナタネを原料に指定して「なたね油」を利用しています。そこで、今回の試験栽培の内容や、GMとNON-GMナタネを分別して管理する方法の確認と、同州政府に適切な「分別管理」を要請するために、3月28日から4月4日にかけて要請団を派遣しました。その内容を要請団に参加した生活クラブ連合会の加藤好一会長に聞きました。(2009年4月22日掲載)
「NON-GMの種子をとり続けられる体制づくりが極めて重要」と指摘
――今回の調査の目的は?
[加藤] 西オーストラリア州政府はGM作物の栽培について、モラトリアム(一定期間の栽培禁止)としてきました。しかし、州の政権が昨秋変わり、12月にGMワタとGMナタネの試験栽培を実施する方針を州政府は表明しました。そのため急きょ、(1)実験の内容をタネをまく前にいち早く調査すること、(2)NON-GMナタネをきちんと分別して輸入するための方策の確認――が主たる目的でした。
――試験栽培は、モラトリアムの解除ととらえたほうがよいのでしょうか。
[加藤] はい。試験栽培といっても研究目的ではなく、商業栽培に向けた実験です。したがって、今回の決定は、本格的な栽培が目的であることは明らかです。もともとオーストラリアでは、連邦政府が従来からGM作物の商業栽培を容認していました。ですが、西オーストラリア州政府は、GM作物に距離をおく姿勢をとり、また、州内の生産者の一部に反対の動きもあったために、同州は栽培を一時禁止していたのです。
――GMナタネの試験栽培はどのような規模で行われるのですか。
[加藤] 生活クラブがJA全農を介してNON-GMナタネを輸入している、現地のCBH(Co‐Operative Bulk Handling)という穀物会社に聞き取りを行ったところ、17農家で829ha規模の実験を行うことが分かりました。また、行政機関である農業試験場3ヵ所(25ha)でもあわせて実験がされる見込みです。合計20ヵ所の場所については、それを示した地図の提供を受けました。
具体的な栽培方法として、GMナタネを植える場所とNON-GMナタネの畑の間に設けるべき緩衝地帯の規定が明らかになりました。それは5m空ければよいという内容で、これでは交雑を防ぐことはできません。
――ナタネは他家受粉する作物ですよね。
[加藤] ええ。自家受粉の大豆や風媒花であるトウモロコシの比ではありません。生活クラブはGMナタネが世界的に開発される前は、カナダのナタネを原料にして「なたね油」を供給してきました。ところが、1997年からカナダでGMナタネの栽培が始まってしまったため、輸入先を西オーストラリア州に変更した経緯があります。
カナダではGMナタネが認可されるや否や、GMの栽培面積が急速に広がりました。それとともに交雑によってNON-GMナタネが汚染されるという被害が拡大していったのです。カナダの苦い経験からして、緩衝地帯の間隔が5mでよいとは認識が甘いと言わざるを得ません。私たちは西オーストラリア州の農業食料省を訪問し、要望書(文末の囲み)を手渡してきました。
一方、CBHは今後も私たちにNON-GMナタネを輸出することに前向きです。そこでNON-GM作物を供給し続けるために一番大切なことは種子汚染から守ることであり、純粋なNON-GMの種子を更新できる体制づくりが極めて重要なことを伝えてきました。このことを現地の関係者にしっかり認識してもらうことが、今回の視察の最大のポイントであったといっても過言ではありません。
GM作物に対する待望論が大きい現地農家
――西オーストラリア州はこれまでGMナタネを一粒もつくってはいなかった。それがGM作物の栽培試験が始まったことで、NON-GMナタネを輸入するためには厳格な分別管理が求められるのですね。
[加藤] 生活クラブは1991年からPHF(収穫後に輸送中の虫害予防の目的などで農薬散布していないもの──検疫、くんじょうは除く)トウモロコシをアメリカから分別して使用することを始めました。
この管理手法はNON‐GM作物の分別にも生かされ、1998年からはNON-GMでかつPHFのトウモロコシを輸入しています。つまり、長年培った分別管理の実績が生活クラブにはあるのです。分別には生産者段階、当事国での流通段階、そして輸出業者の段階など、それぞれに重要なポイントがあり、そのような事柄をCBHとの間で今回確認をしてきました。
5月にはCBHの人々が、分別管理に向けた進捗状況の報告のために来日する予定になっています。また、私たちも必要に応じて西オーストラリアに出向き、分別管理を徹底させていきたいと思っています。
――視察ではほかにどこかへ行かれましたか。
[加藤] 西オーストラリア州ではハチミツの事業者と懇談しました。たとえばNON-GMナタネから採取したハチミツの利用を検討することを通じて、現地の生産者との提携が深まり、NON-GM作物を守る動きにつなげていけたらと考えています。私たちをふくめGM作物を望んでいない消費者、そして生産者は確実にいるわけですから。
また、GM作物に対してモラトリアムを続けている南オーストラリア州のナタネ農家とも交流をしました。しかし、会った農家の意見では、GM作物に対する待望論が大きいことが分かりました。彼らにはGM作物の安全性に対する危惧より、雑草をはぶく手間がかからないことが魅力的に映っているようです。除草剤をかけても枯れないGMナタネは、雑草との戦いから解放されると期待していました。
――2005年に農林水産省が行ったアンケートで日本の消費者の約8割は、GM作物が原材料として使われていることが気になると回答しています。GM作物や食品を食べたくない消費者はどうすればよいのでしょうか。
[加藤] 生活クラブはどんな問題に対しても共同購入を“力”にして、解決に向けた取り組みをしています。それは購買力を集めて、生産者と交渉しながら望むものを獲得するという姿勢です。GM食品を食べたくないと考えるのなら、食べる“力”を結集するために生活クラブへ加入していただけたらと思います。
――ありがとうございました。
- 西オーストラリア州政府・農業食料大臣宛ての要望事項
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- カノーラは、カナダのいくつかの例で見られるように、大変交雑しやすい作物です。例えばオーガニック生産者の生産物がGM交雑して販売が出来なかったことや、カノーラをつくっていない農家の畑にGMカノーラが生育し、その除去費用をモンサント社が払ったなどの例があります。このことを前提に、確実に分別管理した流通システムを講じて下さい。 また、GMカノーラの輸送にあたっては、種子が道路などにこぼれないよう注意が必要ですし、こぼれた種子由来のボランタリーカノーラの駆除についても対応が必要だと考えます。これらは除草剤では枯れないのですから。
- 特に、農家段階での生産管理が必要です。一生産者の中でGMとNON-GMカノーラを同時にかつ同一の機械や施設を使用して生産することは交雑する事が確実ですので、種子がNON-GMでもNON-GMとしては流通させないでください。この点は試験栽培でも同様だと考えます。NON-GMカノーラは、GMカノーラを栽培した事がなく、かつGMカノーラ栽培圃場から充分に距離を確保していることを条件にして流通するよう指導していただきたいと思います。
- NON-GMカノーラの種子開発を強化してください。NON-GMを維持するためには確実な種子の生産と販売が必要だからです。