飼料の「自給率向上」への挑戦!
生活クラブの豚肉の生産者である平田牧場と生活クラブ連合会、さらにJA庄内みどりと遊佐町がパイオニアとなりその価値を全国に広めてきた飼料用米。輸入に依存している飼料の自給率向上の仕組みとして注目されていますが、鶏肉生産者の(株)秋川牧園(山口県)は2月、飼料用米を10%混ぜたエサの給餌試験をスタートさせました。(2009年2月26日掲載)
期待される国産鶏種「はりま」に試験給餌
給餌試験を始めたのは秋川牧園の提携農場の一つ「豊福農場」。5号鶏舎で飼育されている「はりま」8400羽に飼料用米を混ぜたエサを与えます。飼料用米を与えずに育てる対象区は4号鶏舎。二つを比較することで、飼料用米給餌による影響を検証します。具体的には、飼育成績や肉質への影響などです。飼料用米を供給するのは山口県の農業生産法人(有)船方総合農場。減反対策の一環として飼料用米生産に取組み、これまで農場で飼育している牛の飼料に利用していたといいます。年間の生産量は約20t。このうち3.5tを今回の試験で使います。また、こめは粉砕せずにモミのまま給餌します。
平田牧場の飼料用米は、輸入トウモロコシの代替としてエサに混ぜています。一方、「はりま」の試験ではマイロ(和名・コーリャン)の替わりとして飼料設計されています。その理由を秋川牧園の岡部さんはこう説明します。
「従来のエサの配合割合はトウモロコシが約48%、次いで大豆粕が約21%、そしてマイロが20%などです。トウモロコシに置き換えると肉質が白っぽくなることがわかっていたため、マイロの半分の10%を飼料用米に替えることにしました」
輸入飼料穀物というとトウモロコシに関心が向きがちですが、マイロもまた、輸入に依存しています。日本の配合飼料生産量は年間2400万tに達します。その原料となる約62%はトウモロコシ、マイロなどの輸入飼料穀物。さらには大豆粕やふすまなども輸入されており、実質的には76%近くが海外からの供給に頼っています。つまり、「何に替えるかではなく、何に替えても」飼料自給率の向上につながるという構造になっているのです。
飼料用米入りのエサで育てられた鶏肉は3月上旬に出荷され、連合消費委員会で試食と食味確認を行います。また、試験結果は4月の「はりま振興協議会」で具体的に検証され、肉質分析結果などとともに5月の連合消費委員会に報告されます。連合会開発部の八巻賢二・畜産担当は、今回の試験にこう期待を寄せます。
「試験は、肉用鶏としての国内自給モデルに向けた飼料用米取組みの拡大を目標にしたものの第一歩。今後については見通せない部分もありますが、こめ育ちの鶏肉が広がる契機になる結果が出ることを期待しています」
国内資源活用で自給力向上
飼料穀物の海外依存という日本の食の脆さが一気に噴出したのは2006年下期でした。世界的な穀物不足やアメリカにおけるバイオエタノール需要の高まりから、トウモロコシや大豆の国際価格が高騰。飼料原料の多くを海外に頼っていた国内の畜産農家からは「このままでは継続的な生産ができなくなる」という悲鳴があがったほどです。最近、価格は落ち着きを見せているものの、輸入に頼らざるを得ない構造に変化はありません。その一方で国内農業は高齢化と耕作放棄地の激増という「双子の問題」を抱えています。主食のお米も然り。減反につぐ減反で「つくりたくてもつくれず」、水田は荒れるに任せるしかない状態です。
こうした中で始まった試みが、飼料用米の取組みです。先鞭をつけたのは前述の生活クラブの働きかけに応じたJA庄内みどり遊佐支店と平田牧場(1996年から)でした。その広がりはいまや全国規模。もちろん、生活クラブの提携生産者も積極的に取組んでいます。山形県の庄内地方では、遊佐町で飼料用米の作付けが拡大、また酒田市でも新規拡充が実現しています。また、宮城県のJA加美よつばと 栃木県開拓農協がこの取組みに参加することで作付けが増え、これらの結果、平田牧場の登録農場の16万頭への飼料用米給餌(5%)が実現したのです。また、栃木開拓農協で作付けされた飼料用米は肉牛(ほうきね牛や開拓牛)への給餌も始まっています。
採卵鶏でも継続、新規の取組みが進んでいます。千葉県の 旭愛農生産組合では自家飼料用米の活用を継続、長野県の会田共同養鶏組合では、地域で生産された飼料用米の給餌試験が進められています。埼玉県では、鹿川グリーンファームが昨年末、地元のJAほくさいとの契約栽培による給餌をスタートさせました。
これらに加えて、冒頭で紹介した秋川牧園の試験です。前出の八巻さんは、その意義をこう強調します。
「飼料原料の海外依存という不安定な環境への対策、そして国内の地域内農業の循環体系作りを目指す飼料用米をはじめとする自給飼料の取組みは、国内資源の活用を通じた自給力の強化につながるのです」
「種」の自給で「はりま」200万羽生産体制へ
飼料自給の向上とともに生活クラブが取組んできたのが「種」の自給です。国の統計に「種」の自給率は含まれていません。ところが家畜、なかでも採卵鶏や肉用鶏の育種・改良も海外依存という体質にあり、たとえば日本で食べられている鶏肉の雛の実に98%が海外のブロイラー企業で育種・改良され輸入されているのです。主としてイギリスの企業が中心となって輸出しているチャンキー種、アメリカの企業によるコップ種が市場を席巻していますが、産まれ育った環境やどんなエサを食べているのかもわからないのが現状です。また、何らかの事情で種鶏などの輸入がストップすれば、日本から鶏肉が消える危険性をはらんでいるのです。
「種まで含めた国内自給力の向上を」と考えた生活クラブが、本格的に国産鶏種開発に取組み始めたのは、今から遡ること10年以上前の1996年。その後、数々の種鶏のなかから現在の「はりま」を選定。1996年から育種実験を始め、2001年から食卓にのぼるようになりました。名称は、兵庫県の旧播磨地方の(独)家畜改良センター兵庫牧場で育てられていることから付けられました。「はりま」の両親に当たる種鶏、祖父母にあたる原種、さらに曾祖父母の原原種を3代先まで日本育ちであることはもちろん、飼育法や安全性まで確かめることができます。
スタート当初、肥育施設は群馬農協チキンフーズに限られ、利用も40万羽と必ずしも大きなものではありませんでした。その後、冒頭の秋川牧園、また昨年からは 鹿川グリーンファームでも肥育が始まり、2008年度の生産計画は合計で1,756,900羽と2007年対比で約120%の伸びを示しています。また、2009年度には目標にしていた200万羽の展望が拓けることが確実になっています。
生活クラブは、採卵鶏についても「種」の自給力を高めてきています。それが「もみじ」「さくら」といった国産種鶏です。昨年7月、飼料価格高騰に危機感を抱いた生産者らが開いた「国産鶏を守る緊急集会」の記者会見で、生活クラブ連合会の福岡専務はこう訴えました。
「海外に依存していると、種鶏の輸入がストップすることを心配しなければなりません。その構造はタンパク源が安定していないことを意味しています。だからこそ、国産種鶏を持続的、安定的に供給する仕組みづくりが必要なのです」
この指摘は、「はりま」にも当てはまることは言うまでもありません。