遊佐町でパプリカの収穫体験
農業従事者に高齢化、後継者不足が深刻化しています。基幹的に農業に携わっている224万人のうち、65歳以上の人口は実に約60%にのぼり、命の源の食料ばかりではなく、食の安全性も他人任せにできない状況に陥っています。そこで生活クラブ連合会は加工用トマトの収穫援農「計画的労働参加」などの経験を踏まえ、2007年から、<誰かが守ってくれるのを待っていても未来は拓けない>として、「生産への労働参画プロジェクト」をスタートさせ、2008年度から具体的な取組みを進めています。 今年9月には第3回目の「生産参画生産者説明会」が開かれ、組合員やその家族をはじめとして45人が参加。このうち山形県遊佐町でのパプリカの収穫体験に申し込んだ8人が10月上旬から中旬にかけ、2回に分かれて作業に汗を流しました。(2008年10月30日掲載)
「パプリカは傷ついてもいいけど、指は切らないように!」
「遊YОU米」の故郷、山形県の遊佐町はパプリカの提携産地でもあります。6年前に約10人で栽培をスタートさせ、現在は68人が生産に携わっています。今回、参加を受け入れた生産者は、遊佐生活クラブ提携産地協議会の会長でもある大谷吉彦さん。コメ作りの他、30棟のハウスでパプリカ、アスパラ、メロンなどを栽培しています。
収穫作業の説明はもっぱら妻の富美子さんが担いました。その第一声が「指は切らないように」というもの。それを聞くのは20代後半から60歳代までの第2陣の4人。参加の動機は様々です。「パプリカが大好きなことと、遊佐のおコメを食べているので1度は見てみたかった」、「農業に興味があるけど仕事があり平日は難しい。今回は10月11日から13日の3連休が利用できたので」、「外国で植林のボランティアを、と考えていたが、国内でも手伝える場だから」。なかには、昨年、加工用トマトの収穫援農に参加しただけではなく、2年制の農業専門学校に通い、「本格的に農業をやりたいので経験を積みたい」という女性も。もっとも遊佐は全員が初めて。ハウスに向かう前に立ち寄った、コメのカントリーエレベーターから見上げる鳥海山の威容に圧倒された様子でした。
パプリカ収穫の多忙期は7月から8月にかけて。「ハウスの中は35℃でものすごく暑い」(大谷さん)とはいうものの、10月中旬でもそれなりの暑さ。参加者からは「結構暑い」という声も聞かれました。作業は、パプリカを軸ごとナイフで切り離すだけですが、機械化は困難で立ちっ放しの仕事です。大谷さん夫婦による作業の説明を参加者は熱心に聞いていました。が、実際に始めると「言うは易し、行うは難し」の喩え通り、「なかなかうまく切り離せない」、「アッ、パプリカに傷がついてしまった」と悪戦苦闘していました。ところが、時間の経過とともに一様に慣れた手つきに。収穫作業は順調に進みましたが、パプリカで一杯になったカゴを運ぶ段になると「結構、重いもんだね」という声も漏れていました。
「生産への労働参画」でパプリカの収穫体験は、今回が初。大谷さんは「2回とも日程は3日間と短いために、作業を覚えてもらったかなと思う頃にはお別れしなければなりません。今後は、手伝っていただくというより、年に何回か来てもらって一緒に働いてもらうという視点からの日程調整も必要になってくるかもしれません」と話しています。
質問が相次いだ、生産者説明会
パプリカ生産者の大谷さんも参加したのが、9月13日に生活クラブ連合会で開かれた「生産参画生産者説明会」でした。参加した生産者団体はJA庄内みどり遊佐支店と西日本ファーマーズユニオンの2団体。遊佐支店が募集したのはパプリカと、庄内柿収穫の2コース。パプリカは、遊佐の特産として拡大する生産をさらに進めるために試験的に実施。庄内柿は生産者の高齢化で栽培面積の減少が進むなか、もっとも手のかかる収穫時が選ばれました。いずれの日程も週末の3日間と短期間の募集でした。
一方の西日本ファーマーズユニオンは、「国内自給率向上のための運動」の一環としての農業研修生の募集で期間は中・長期が基本でした。ちなみに同ユニオンは、梅干、柿などの提携生産者の王隠堂さんを代表に九州、中国、四国の意思ある生産者が集まって2006年に設立された生産者連合で「事業」と「国内自給率向上のための運動」を組織の両輪として進めている組織です。
説明会は2班に分かれて行われましたが、両団体の説明で異口同音に出されたのは、農業現場の高齢化と人手不足でした。「全国の農業者の全国平均は約65歳。10年後には75歳になってしまいます。しかも自給率は40%を切っている。ですから生産者を育てなければなりません。労働参画もそのひとつです」(西日本ファーマーズユニオン)。同ユニオンには、これまで2回実施された生産者説明会で6人が研修生として参加。なかには1年以上の長期研修生もいます。
今回の説明会でも、実際に参加することを前提にした具体的な質問が相次ぎました。「服装はどうすればいい」、「収穫の道具は」、「休憩時間は」など。また、「遊佐の日程は週末だけだが、平日は募集しないのですか」といった、今後の検討課題になる質問も出ました。その一方で、「素人が行って足手まといにならないか」と心配する声も。これに対して具体的な事例を出し、「これまで来ていただいた6人は全員が素人でした。気楽に参加して下さい」(西日本ファーマーズユニオン)と、より多くの参加を促す説明がありました。 説明会の結果、遊佐には合わせて20人が、西日本ファーマーズユニオンには1人が参加、2人が研修に向けた調整をしています。事務局を担う生活クラブ連合会の「夢都里路クラブ」運営委員会の担当者はこう話します。「説明会の参加者は会を重ねるごとに増えています。食、そして自給への関心がそれだけ高いことを表しているのだと思います」