「検査に頼らず製造工程を見える形へ」─まず、「食品衛生7S」をマニュアル化─
3月21日、都内浅草ビューホテルで提携生産者でつくる生活クラブ親生会「自主管理部会」と生活クラブ連合会自主管理委員会の共催で、「衛生管理マニュアル」合同作成チーム活動報告会を行いました。生産者を中心に全国から約250人が集まり、この課題に対する関心の高さが会場の熱気から伝わってくるようでした。(2008年5月7日掲載)
20歳の女性担当者も取り組みを発表
「私自身この取り組みを通して、いろんな体験をし、たくさんの人たちの考えを学ぶことができました。会社の中で一番歳が下ということもあり、何か一つ指示を出すのも簡単ではありませんでした」。
まぐろ生産者(株)ヤマボシに入社3年目、20歳の松本沙央里さんが発表の中で、このように感想を話すと、会場の雰囲気がぐんと和らぎました。品質管理課の松本さんは、「衛生管理マニュアル」合同作成チームのメンバーとして自社のマニュアル作りを担当。「この取り組み」とは、マニュアル作成にあたり、他の生産者4社とチームをつくり互いに現場を見て助言したり、助言されて学んだことを、自社の他の従業員に伝えながら作ってきた活動のことです。
3月21日の報告会では、同チームに参加する5社の担当者が自社の取り組みを発表しました。松本さんのほか、 (株)マルモ青木味噌醤油醸造場の鈴木晴紀さん、こめや食品(株)の川崎光一郎さん、二葉製菓(株)の星敏夫さん、美勢商事(株)の江畑薫さん。チーム代表者の鈴木さんは、このチーム活動の”お手本”となった(株)マルモ青木味噌醤油醸造場での、ISO22000(*)取得とマニュアル(「手順書」)作成という先進的な取り組みの経緯を紹介しました。
鈴木さんは「手順書の意味」について次のように話しました。「担当者しかわからなかったことを文書化することで、担当者以外の人とも共有化することができるようになりました。・・・文書にすることで抜けていた部分を発見したり、作業者自身が作業の意味を再発見することがありました」。
(*)ISO22000=2005年に発行された食品安全のための国際規格
「衛生管理マニュアル」はなぜ必要?
「衛生管理マニュアル」合同作成チームは、生活クラブ親生会「自主管理部会」加工食品分野の15生産者と、生活クラブ連合会自主管理委員会「加工食品部会」によって、2006年5月に結成されました。今年2008年1月までに全体会議、学習会、上記5社の製造現場見学などを経て、「衛生管理マニュアル作成指針」(以下、「指針」)を完成させました。この「指針」は、生活クラブの提携生産者、特に中小規模の加工食品生産者が自らできる衛生管理システムの組み立て方と、その基になる衛生管理マニュアルの作り方をわかりやすく示しています。ここでの「衛生管理」とは、微生物汚染や異物混入対策などから、食品の安全や規格の維持や証明までの広い範囲を指しています。
今回、生活クラブ親生会と連合会が「指針」をつくることにしたのはなぜでしょう。現在、加工食品メーカーの食品衛生管理はISO22000やHACCP(*)などの国際基準に則って行われるようになっています。しかし、中小の加工食品メーカーではコスト面から導入が遅れているのが現状です。そこで、中小メーカーが自力で実際の現場に合ったマニュアルを作るための使いやすい手引書を用意しようというのがその理由です。
(*)HACCP=1960年代の米国アポロ計画で、宇宙食の安全性を高度に保証するシステムとして考案された製造過程管理の手法。
整理・整頓からISOまでステップアップしていける
生活クラブ連合会品質管理部副部長の槌田博は、報告会の中でこの指針の特徴的な点を次のように説明しました。(1)どの生産者もここまではやるべき最低限の10項目、(2)生産者の力に応じて進む次の10項目、という2段階になっていて、これらはHACCPと対応している。(3)社内に編成する「食品安全チーム」の委員長は経営トップが務める、(4)手順書を製造作業従業員が記載する「自主管理型」になっている、などです。
また、この方針を使って衛生管理のステップアップを図っていく考え方は、生活クラブの「自主管理監査」と同じ。(1)のステップは食品衛生7S(整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌・責任感・清潔)、次に(2)のHACCPを含むやや高度な内容へ、さらにISO22000へと進んで行けるよう設計されます。今回の「指針」はこのうちの(1)のステップをマニュアル化した、という位置づけとなります。
中小食品メーカーの「強み」にしよう
取り組みを発表した5社はいずれも、チーム活動の中で自社の製造現場を他の生産者に全面公開して相互点検を受け入れた生産者ですが、そこまでオープンにしたのは経営者の決断によりました。(株)ヤマボシの服部芳明社長は、「自社で衛生管理のチェック表を作ってやっていましたが、本当にこれでよいのかという疑問がいつもありました」、「経営者の意識が変わらなければ、従業員の意識も変わらない」と、経営者の決断の重要性を強調しました。
桜えびさつま揚げなどの生産者、こめや食品(株)の川崎さんは、職人から職人に製造手順が受け継がれてきた練り物での「手順書」づくりは「現場で実際に行われている作業を元に、それを細かく補修・改善をしていきながら形を作っていきました」と、伝統の良さも認めつつも伝統に足にすくわれたくないと話しました。のどあめなどの生産者、二葉製菓(株)の星さんは、手の洗い方から髪の毛、声かけ、張り紙のことなど細かな社内努力と改善について訥々(とつとつ)と報告。最後に「作る手と食べる手は同じ手だという認識を持ち続けていきたい」と話したのが印象的でした。餃子生産者、美勢商事(株)の江畑さんは、会社のアドバイザーの指導をマニュアル作成にどう生かしたかを紹介。作業内容や失敗例を文言にすることで伝える・教える・理解するといった別効果も生まれることなどと述べました。
これらの発表後、生活クラブ連合会の河野栄次顧問が、「中小の食品会社の強みは何なのか考えてほしい。みなさんのやっている原材料の生命力を生かし価値ある形で食べてもらうことは『武器』となる。検査に頼らず製造工程管理がすべて目に見える形でできる仕組みをつくることが大事だ」と、参加者を励ましました。