「たすけあい」が出発点─生活クラブの福祉事業
自分や家族がどんな介護サービスを受けられるの? 地域で子育てするとき、誰かが助けてくれるの? 介護の必要な高齢者や子育て支援を必要としているお母さんのために、地域の組合員が手を貸そう─全国に広がった生活クラブグループの「たすけあい」の輪を1冊にまとめた「福祉事業データブック」が、8月下旬に完成し配布されます。
全国に544カ所ある事業所の情報が1冊でわかる
高齢者、障がい者、小さな子ども、子育て中のお母さん…。誰かの手助けを必要としている人は私たちの身の回りに大勢います。地域の仲間同士で助け合いながら暮らしていきたい。そのような必要から1987年、川崎市にデイサービスセンター「生活リハビリクラブ」が誕生して以来、組合員が中心となって介護や子育てなどの「たすけあい」運動が地域の中で広がりました。生活クラブグループ関連の福祉事業所は、今や全国に544カ所を数えます。
運営の主体は生活クラブ、福祉クラブ生協の他、ワーカーズ・コレクティブやNPO法人。利益を追求するのではなく、あくまでも利用者の立場に立った活動を展開しています。
この8月には、北海道から愛知まで全国にある生活クラブグループの福祉事業所の紹介とデータをまとめた「生活クラブ関連団体福祉事業データブック」が出来上がります。8月下旬には、各地の生活クラブ生協やブロック、デポー、そして福祉事業所などに配布され、利用者がいつでも全国の情報を知ることができます。たとえば、「年老いた母が安心して暮らせるグループホームが実家の近くにないか?」「他県に嫁いだ娘が子どもを預けられる保育室はないか?」といった、自分が住む地域でなくとも生活クラブグループの福祉サービスが受けられる事業所を探すことができるようになるのです。
利益を追求しないからこそできること
訪問介護、デイサービス、ショートステイ、グループホームなどの介護事業、保育室の運営など子育ての支援事業、障害者のサポートなど、生活クラブグループではいろいろな福祉サービスを行っていますが、その中でも主流の事業はやはり介護事業です。
2000年に介護保険制度がスタートし、それまで行政や社会福祉法人だけが担っていた介護サービスを、株式会社などの民間企業、NPO法人など、法人格をもっているところならばどこでも請け負うことができるようになりました。利用者が介護を必要とする程度に応じて「要介護度」が示され、そのランクによって排泄、衣服の着脱、食事の介助といったサービスを提供します。
今年の6月、介護サービス業最大手の事業者が不正に介護報酬を請求していたことが明るみになり、大きな波紋を広げました。 「介護保険制度においては、提供するサービス自体は民間企業も生活クラブグループも大きな違いはないのですが、事業の目標が大きく違うのです」と話すのは、生活クラブ神奈川たすけあいネットワーク事業部の片山です。営利企業であれば何よりも利益の追求が至上命題となり、コスト削減や作業の簡略化はついて回りますが、生活協同組合やワーカーズ・コレクティブ、NPO法人などはあくまでも「非営利」、利益は事業の担い手に平等に配分されるしくみです。そもそも生活クラブグループの福祉事業がスタートした時の思いは「いずれ自分が介護を受ける立場になったらどんなサービスを受けたいのか」。今でもそれを最優先に考え、サービスを提供しているのです。
このように、利用者本位のサービスゆえに、介護保険制度ではカバーしきれない生活の細々とした面でのサポートが可能になります。たとえば、病院への送迎では、介護保険で認められているのは病院への送り迎えだけですが、病院内での付き添いを必要としている利用者もいるはずです。また、高齢世帯の居宅支援では、食事も家事も利用者だけが介護保険の対象ですが、同居する配偶者の食事をいっしょにつくる必要があるかもしれません。そんな場合に、「介護保険適用外」であっても、利用者の多様なニーズに応じてきめ細かく、かつ適正な価格でサービスを提供できるのが、生活クラブの介護サービスの特徴なのです。
地域の中での「たすけあい」の輪をつないでいく
生活クラブの福祉事業の事業高は、グループ全体で約90億円、登録利用者数は3万人、そして9,600人もの雇用を創出しているのです。この数字は、日本に数多くある生活協同組合の中でも断トツです。これを支えているのが、組合員のカンパや生活クラブの出資。そして、そこで働く組合員やワーカーズ・コレクティブのメンバーの労働力。ワーカーズ・コレクティブとは、「自分たちが出資して、自分たちが経営し、自分たちで利益を分配する」事業体で、その運営は組合員が主体となって行っています。
特に福祉事業がさかんなのが、生活クラブ神奈川。事業高は48億円と、生活クラブグループ全体の50%以上、神奈川県内の介護保険事業の約7?8%のシェアを占めます。「生活クラブ神奈川は、ワーカーズ・コレクティブを生み出した生協。組合員が中心となって地域に根ざしたたすけあい事業をスタートさせ、生活クラブはあくまでもそのサポートに回っています。まさに参加型福祉の出発点なんです」と、片山は言います。
しかし今、福祉業界はどこも人手不足。生活クラブグループも例外ではなく、利用ニーズはあるのにそれに追いつかないのが現状です。「今から20年ほど前に福祉事業を立ち上げた組合員のリーダー層が今でもがんばっていますが、新しいメンバーが入ってこないと地域福祉は続いていかない」と、生活クラブ連合会共済事業部長の三好は心配します。
同じ消費材を利用し、組合員活動を通して地域の中でネットワークを広げてきた仲間同士だからできる「たすけあい」の輪。その灯を受け継ぐためにも、新たな仲間が今こそ求められています。