"減農薬・減化学肥料の里"を目指す「山形親生会」、地域の中で畜産と農業を結びつけ、"堆肥"資源を循環
生活クラブの生産者がつくった安全なお米を食べて育った豚、その豚が出す糞尿を有機堆肥にして米や野菜をつくる…畜産と農業を結びつけ資源の循環をめざす、生活クラブ山形親生会。3月8日には「堆肥活用勉強会」を開催、環境への影響にも配慮した、効率のよい堆肥の使い方を学びました。
“健康な田んぼ”が戻ってきた
有機肥料を使うようになってから、遊YOU米がますます美味しくなったと評判です。減農薬・減化学肥料にしてから、田んぼも畑も健康になってきました」。こう話すのは、JA庄内みどり遊佐支店の阿部孝さん。化学肥料を使えばお米の量は採れるけれども、土壌は痩せて固くなり、何より肝心の味が落ちると言います。「一昨年、地域の小学生と一緒に土壌の生き物調査を行ったのです。そうしたら田んぼの中に、昔よく見たクモなどの昆虫がたくさん棲んでいたのですよ。健康な田んぼが復活したということでしょう」。阿部さんの声がとても弾んでいました。
この遊YOU米の田んぼに使う堆肥は、同じく庄内地方の生産者・平田牧場の豚が排泄した糞や尿なのです。同社内の堆肥化施設で、糞は発酵させて完熟化し、尿は浄化・曝気して液体肥料にしたもの。臭いも少なく、稲や野菜の根腐れを起こしにくいので収量も増加したと農家の評判は上々です。生きた豚は1年365日排泄をするので、平田農場一つとっても1日にトラック2台分…年間700トンもの堆肥が出荷されます。この有機堆肥を地元の農家に優先的に使ってもらおうと、「平田牧場有機堆肥の会」が4年前に発足、地元の農家を中心に320件の農家が会員となっています。
“耕畜連携”の取組み
「昔は集落の中で牛や豚を飼い、その糞尿を畑にまいていたのです。ところが、農業の近代化の波の中で畜産と農業が分業化し、地域の中での循環が途絶えてしまったのです」と、生活クラブ連合会開発部畜産課長の赤堀和彦は言います。昔ながらの“循環”のシステムを、今の農業の中でもう一度構築していこうというのが、生活クラブの訴える“耕畜連携”です。
これにいち早く取り組んできたのが、「生活クラブの食料基地」ともいえる山形県の生産者グループ・生活クラブ山形親生会(会長・新田嘉七・平田牧場社長)でした。山形親生会は生活クラブ親生会と同じ30年の歴史を持ち、現在加盟しているのは13団体。平田牧場では豚の糞や尿、鈴木食品製造はリンゴやラ・フランスの皮や芯、まるひらフーズはきのこの菌床など、各生産者が持ち寄れるものを平田牧場に集めて堆肥にし、それを会員の畑や田んぼに戻して農産物を生産する。ほかにも月山パイロットファームでは平田牧場のとんかつ店から出る年間2000トンの廃油をバイオディーゼルとしてトラックに使う、杉勇蕨岡酒造場から出た酒粕を平田牧場の豚のみそ漬けに使うといった、独自の資源循環の仕組みを生産者同士の勉強会や組合員との交流を通してつくってきたのです。
「豚の糞尿、野菜や果物の残りかすなど、農産物の生産現場から出る有機物は、実は捨てるところは何もない。全部地域の中で使い切るのがいちばんいいんです」と、平田牧場有機堆肥の会担当・木口孝義さんは話します。山形親生会の会員としてつきあいのある生産者同士が、素性の明らかな堆肥を分かち合う。どのように製造されているのかわからない化学肥料と違い、安心して土壌に入れることができるというメリットがあります。
2004年には「飼料用米プロジェクト」も新たにスタートしました。生活クラブ、遊佐町、JA庄内みどり遊佐支店、平田牧場らが協力し、遊佐町の110haもの水田で飼料用の米を栽培し、その米を与えて「こめ育ち豚」を育てています。もちろん「こめ育ち豚」の尿は液体肥料となり、再び飼料用米が育つ田んぼへと還っていきます。“畜産飼料の自給”と“循環型の農業”の両立を目指す先駆的な取り組みとして今、全国的に注目を集めています。
「堆肥活用勉強会」も開催
このような耕畜連携のシステムをより効果的に運用し、減農薬・減化学肥料をさらに推し進めていきたい……山形親生会ではこの3月8日、千葉県農業総合研究センター土壌環境研究室の金子文宣室長を庄内に招き、「堆肥活用勉強会」を開催しました。講演の中で金子氏は、堆肥によって成分が違うこと、土壌と堆肥の収支を計算する必要性などについて述べ、過剰に堆肥を散布することなく必要十分な量を与える方法を紹介。「金子先生に私たちのつくった堆肥の質を評価いただき、土壌にとって有用なものであることがよくわかりました。今までは必要以上に与えすぎていた堆肥も、これからはより実質的に広範囲で使うことができる」と、勉強会に参加した平田牧場の木口さん。今後、堆肥の成分から施肥量を計算できるシステムを山形親生会でも導入し、有機肥料と一緒に堆肥の知識や使い方のノウハウを伝えていきたい、と言います。「食べてくれる組合員がいるから、私たちも思いきって“減農薬・減化学肥料の里”づくりを進めていくことができる。これからも地域全体で田んぼの環境をよくしていきたい」と、JA庄内みどりの阿部さんは熱く語っていました。
【2007年4月24日掲載】