“唯一無二”の「伊達巻」 生活クラブとの31年の歴史が詰まっています
提携先 こめや食品株式会社(静岡県) 川崎 光一郎さん
当時対応したのは、私の父である社長(当時は専務)の川崎光一でした。今でも父からは、当時の伊達巻開発の苦労話をよく聞きます。開発にあたり生活クラブからの条件が「保存料・合成着色料無添加」「リン酸塩を使用しないすり身を使用する」「包装形態の簡素化」の3つであり、この3つが当時の練り製品業界には革新的なことだったのです。
保存料・合成着色料を排除することはそんなに大変ではなかったといいます。それは生活クラブの持つ考えや物流の方法を確認した上で、「問題ない」とすぐに思ったそうです。包装形態の簡素化も同じです。伊達巻のような正月用品は、“見た目”が最重要であり、縁起を担ぐようなデザインが当たり前であり、生活クラブのような考え方をするところはなかったのです。「見栄えよりも中身!!」、これが一番です。ところで、スーパーで並んでいる伊達巻がなぜ「すだれ」を巻いているかご存知ですか? すだれを巻くだけで高級感があって見栄えが良くなる・・・だけではないのです。すだれを巻くことで、伊達巻が積み上げられたときの変形防止策でもあるんです。もちろん、すだれがあってもなくても味に影響はありません。
生活クラブの熱意に打たれ、生活クラブの伊達巻作りを進めていた中で、今でもよく聞く苦労話が「すり身を変えたこと」です。「重合リン酸塩を使用していないすり身を使うこと」は、ただそのすり身を使えばいいという話ではありません。それまでの一般的な冷凍すり身は、重合リン酸塩を使うことで冷凍すり身の冷凍変性を防いでいました。その重合リン酸塩を使わず、塩や砂糖で冷凍変性を防ぐすり身を「無リンすり身」といいます。(現在は無リンすり身が一般的に流通していますが、当時は塩だけを添加した「加塩すり身」が唯一の無リンすり身でした)
練り製品を製造する過程で、一番重要な作業の一つに『魚肉すり身を塩摺りする』工程が存在します。塩摺りを行うことで、魚肉中のアクトミオシンという変性蛋白が再形成し、あの独特な食感を作り、味を中に閉じ込める土台を作ります。当社の伊達巻はこの塩摺り行程が“肝”であり、職人が一番、気を遣うところでもあります。新たに使うこととなった「無リンすり身(加塩すり身)」は、はじめから中身に塩が存在しているため、それまでの摺り方ではうまくいかなかったと言います。ゼロからのスタートであり、こめや食品の新たな挑戦でもありました。何度も何度も試作し、それこそ摺る時間を1分1秒単位まで計り、焼き釜の火加減や温度調整を繰り返し、試行錯誤の末、完成品が出来たのは供給開始ギリギリの頃だったそうです。開発当時、「無リンすり身」を使って伊達巻を作ることの出来るメーカーは当社だけでした。こうして1979年の暮れ、正月用にすだれを巻いていないセロファン包装の伊達巻の供給が始まったのです。
生活クラブの伊達巻は日本で“唯一無二”の伊達巻です。それは中身だけではなく、31年という生活クラブとこめや食品の提携の過程で、伊達巻は組合員の声によって育てられ、本当の伊達巻になったと考えるからです。生活クラブの伊達巻は組合員の熱意が創った伊達巻なのです。現在は、伊達巻以外にも、「桜えびさつま揚」、「グチ蒲鉾」、「グチ入ちくわ」、「素干し桜えび」など様々な消費材を供給させていただいていますが、こめや食品と生活クラブの歴史は伊達巻が始まりであり、伊達巻にはその歴史の全てが詰まっている、と言っても言い過ぎではないと思います。
生活クラブと歩んできた31年という歴史は、組合員と共に学びあってきた歴史でもあります。魚肉練り製品の可能性を、消費材という観点から色々と学ばせてもらっています。今でも交流会で組合員から新しい発見をさせていただくことがあります。「添加物の塊」ではない本当の魚肉練り製品の姿を、これからも組合員と共に探していきたいと思います。
最後になりますが、昨今、若い世代の“練り物離れ”が徐々に進んでいます。伝統食品である練り物を風化させないためにも消費材をもっと知り、ずっと食べ続けてください。その一人一人の行動が練り物の存在意義を保ち、可能性を広げるきっかけになります。当社もより良い消費材を追求していきます。組合員の皆さんにも、結集力を今以上に高めてくれることを願っています。
【2010年4月27日掲載】