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生協の食材宅配【生活クラブ】
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目的はただひとつ【真柳 正嗣さん】

積年の悩みに光明が

真柳正嗣<span>(まやなぎ まさつぐ)</span>さん<br /><span>■提携先 小清水町農業協同組合<br />■提携品目 片栗(かたくり)粉<br />
(直接提携先は全国農協食品(株))、ニンジン、ブロッコリー、グリ-ンアスパラ ほか</span>

「よく聞かれるんです、なぜ農協をあげて循環型農業に取り組むのかって。答えは簡単。やらざるを得ないから。これからも私たちが農業を続けていくには、今やらないと間に合わないからです」
小清水町農業協同組合(JAこしみず)農畜産部長の真柳正嗣さんは、開口一番こう笑った。北海道東部、オホーツク海に面した小清水町は畑作と酪農が盛んな農業の町である。

350軒ほどの農家が所属するJAこしみずでは、農業で発生するさまざまな“不要物”を資源として地域内で循環させている。例えばてん菜糖の原料となるビートや、馬鈴薯(しょ)デンプン(かたくり粉)の原料イモのしぼりかすは牛の餌にし、牛が出すふん尿は畑に戻して土づくりに生かすといった具合だ。

そんな小清水の晩秋は、馬鈴薯デンプンの生産で活気づく。掘りたてのイモを満載したトラックが次々と農協のデンプン工場にやってきて、原料貯蔵プールにゴロゴロとあけていく。それを地下水でていねいに洗い、すりつぶし、水溶液からデンプンを分離する。工場は24時間体制で、1日に1500トンのイモから最大で350トンのかたくり粉をつくっている。
実はこのときに“やっかいもの”が発生する。食物繊維を主体とするポテトパルプとタンパク質を含む廃液だ。JAこしみずでは長い間、これらの処分に苦慮してきた。

ポテトパルプを捨てるには処理費がいるし、畑に入れても分解されにくく肥料効果も期待できない。一方、廃液は有機肥料になるが、平たく言うとくさい。畑にまけば悪臭問題となるのは必至で、さらにこれをまくと酸性度の関係で、イモの表面に病斑の出る「そうか病」が発生しやすくなる。仕方なく廃液は巨費を投じ、浄化して河川に流してきた。
「でも間もなく、この問題が解決できそうなんですよ」
真柳さんは顔をほころばせる。

悪臭転じて福となす

もちろん、一筋縄ではいかなかった。ある水処理の専門メーカーからは、高温で乾燥させてタンバク質だけを取り出す工場の建設を提案された。だが、それには膨大なコストとエネルギーがいる。もっといい方法がないものかと試行錯誤を重ね、やっと道が開ける。

酢(酸)が食品を腐りにくくすることは広く知られている。このタンパク質も酸で腐りにくくできるのでは──試した結果は上々だった。腐敗が抑えられただけでなく、タンパク質が容易に分離できるようになったため、別の用途への活用が可能になった。さらに分離後の廃液はてん菜工場のカルシウム入り副産物で中和し、カルシウム入り液肥として畑に還元できるなど、さまざまな問題が連結的に解決したのである。

「水処理の専門家は水質浄化の点ではプロですが、家畜栄養学や作物の病害のことは分からない。地域に何が余り、何が不足しているのかも見えません。私たちには水処理の専門知識はないけれど、それらを知っている。何より、トータルでこの地域を豊かにしたいという思いが最大の強みです」

さらに一歩前ヘ

酪農家の大出幸一さんとポテトパルプサイレージを食べる牛たち

一方、ポテトパルプの悩みは4年ほど前に解決した。それまではデンプンの生産に伴い毎日90~100トン発生するポテトパルプを、「責任引き取り」としてイモを持ち込んだ農家に戻していた。だがこれに、一定の割合でふすま(小麦を粉にひいたあとに残る皮)を混ぜると、牛の餌にできることが分かったのだ。

「牛たちも喜んで食べてくれますよ。ほら、見てください」
JAこしみずに所属する四十数戸の酪農家のひとりで、80頭ほどの牛を飼う大出(おおいで)幸一さんが「ポテトパルプサイレージ」の入った袋を開ける。乳酸発酵した餌からはぬか床のような香りがし、差し出すと牛たちはいきおいよく食べ始めた。
「飼料は乳量に直接影響するので、替えるのは勇気がいるんです。幸いポテトパルプサイレージの結果は良好で、しかも値段は配合飼料の5分の1。何より牛たちが気に入っているようです」

現在、地域の酪農家の5~6割がポテトパルプサイレージを利用している。ただしこの餌には乳量アップの鍵となるタンパク質が不足しているため、大豆などで補う必要がある。これにデンプン工場から出るタンパク質を使えば、さらに「ごみを出さない」「地域内循環」の農業は進化する。
ポテトパルプを持て余していた農家も笑顔、安価で良質な飼料が人手できる酪農家も満足の実践は、まさに「トータルで地域を豊かに」との思いが生んだ結果だ。

次世代に渡せる農業を

1日に100トン近く発生し、以前は「悩みの種」だったポテトパルプ

「農業が“荷物”といわれるのは、今に始まったことではありません。でも食料やエネルギーはオセロゲームの角のようなもので、そこを押さえられたらどうにもならない要だと思うんです」
だからこそ農業に携わる人々は、補助金をもらいながらも頑張っていかなくてはならないし、いうまでもなく補助金にあぐらをかいていてはダメだと真柳さんは考える。

「猫の目農政」という言葉すらあるように、一貫性に欠くといわれる日本の農業政策。真柳さんも農協組合員から、「息子に継がせたいが将来は大丈夫だろうか」と相談されるたびに、「せめて40年先、子どもの代が生涯働ける見通しがなければ……」と感じるという。
「私たちが地域内の循環や、土づくりを大切にした農業を実践するのは、消費者に支持されたいからでも日本の農業を守るためでもありません。これから先もずっとここで生きて、暮らして、働いていけるようにというただその一心です。それが結果として、農業を守ったり、食料を供給し続けるという形で消費者のためになれたらいい。そう思っているんです」
北の大地に根を張って生きる人の、正直で誠実な言葉である。

北の大地と豊かな地下水がつくる片栗粉

ジャガイモは品種の多い野菜で、世界には2000を超える種類があるといわれている。用途は大きく3つに分けられる。カレーやシチュ一などの「生食用」、ポテトチップスなどにする「加工用」、そして「デンプン原料用」である。

馬鈴薯デンプンは一般的に「かたくり粉」の名で流通することが多い。「かたくり粉」はもともとユリ科のカタクリから取るデンプンだった。しかしこれは希少な植物で、デンプンが微量しか取れなかったため、性質が似ていて、しかも安価なジャガイモを原料とする「かたくり粉」が広がったのだ。
現在、国内では年間およそ20万トンの馬鈴薯デンプンが生産されているが、その原料イモを栽培しているのは北海道だけ。イモから製品ができるまでの流れは、単純化すると次のようになる。
(1)水をふんだんに使ってイモをよく洗い、すりつぶして乳液状にする。
(2)遠心分離機で固形物(ポテトパルプ)と水分(デンプン乳液)に分ける。
(3)デンプン乳液を濃縮し、精製する。
(4)真空脱水機で水分量38%までしぼって「生粉(なまこ)」にする。
(5)さらに木分量18%まで乾燥させ、精製して完成。

「テンプンづくりに欠かせない条件が2つあります。良質のイモができる畑があり、冷たくてきれいな水が大量に使えることです。小清水は肥よくな土地と豊富な地下水に恵まれ、この両方を満たしているんです」
JAこしみず農畜産部農産課長の上本輝幸さんはこう言って胸を張る。

できたデンプンは「かたくり粉」としてそのまま流通するほか、菓子やインスタントめんなどの食品、ブドウ糖などの糖化製品、化粧品や医薬品、変わったところでは火薬類の原料にもなっている。こうしてみると、デンプンは私たちの生活に欠かせない重要な存在といえそうだ。
「でも、2010年は夏の酷暑などが影響して大不作でした。例年は9月末から11月末ごろまで続くイモの収穫とデンプン製造が11月早々に終わってしまったほど。今年は国産が不足し、輸入デンプンに頼らざるを得ない状況になるでしょう。気がかりなのは、―度輸入に切り替えたところが再び国産に戻るかどうか。大いに心配しています」(上本さん)

■国産馬鈴薯デンプンの約1割は、JAこしみすでつくられている(写真左)■デンプン乳液から、濃縮と真空脱水により38%まで水分を下げた「生粉」

『生活と自治』2011年3月号の記事を転載しました。

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