北海道で実感! コンブと昆布巻きの魅力【聞き手:室井滋さん】
年の瀬から新たな年へ。この季節に欠かせない水産加工品の生産者2社を富山出身で大のコンブ好き、サケ好きの室井滋さんが訪ねました。(コンブ漁が最盛期を迎える今年7月下旬に取材)
話し手・高橋晃一さん(NSニッセイ)榎本恵子さん(みついし昆布)
小樽市のNSニッセイヘ
昆布巻き文化に共感
室井 こちらは水産加工品をつくっていらっしゃるそうですね。どういうものをつくられているのですか。
高橋 ここ小樽市で創業して23年目になりますが、一貫して合成添加物を使っていません。保存料やアミノ酸などの化学調味料をまったく使わない水産加工品を400種類くらい生産しています。
室井 えっ? 400種類も!
高橋 はい。中心はサケ。切り身のかす漬け、みそ漬け、あとは貝類です。ホタテとかツブとか刺身用の製品です。それに昆布巻き。しょう油ベースで甘く煮たり、たいたりしてあります。
室井 私はコンブの消費支出金額が日本一といわれる富山県の出身です。富山では山菜や刺身も昆布巻きにしますし、氷見(ひみ)牛などの新鮮な牛肉も昆布巻きにします。まさに昆布巻き文化ですね。おそらく北前船の関係でしょう。北海道からはコンブを運び、富山からは薬を北海道に届けたという話です。こちらでは石川県の「いしる」を手本にオリジナルの魚醤(ぎょしょう)を開発されたと聞きましたが、富山は魚醤にも親しみがあります。
高橋 北海道には魚醤の製造者がいませんでしたから、自社でトライすることにしたのです。たまたま、生活クラブの消費材に「いしる」に漬けたイカがあり、担当者を紹介していただいて、石川県まで勉強に行きました。そのとき、北海道で魚醤をつくるには何を原料にしたらいいかと聞くと、「脂もありアミノ酸も豊富な魚種はどうか」と言われ、北海道らしくニシンで始めてみたのです。仕込みは今年で18年目に入りました。生活クラブの消費材の原料として活用していますし、今後は魚醤そのものを販売できる体制も整いつつあります。
室井 評判はいかがですか。
高橋 食べたあとに嫌な後味が口に残らないと好評です。化学調味料特有の刺激がない、自然の風味を楽しんでいただけているようで本当にうれしいですね。
無添加品は市販できない?
室井 昆布巻きの種類はいくつくらいになりますか。
高橋 今は6種類かな。紅サケと秋サケ、ニンン、ホタテ、タラコ、シシャモ。紅サケはロシア産ですが、それ以外はすべて北海道でとれた物を芯にしています。
室井 いいな。とってもおいしそう。やっぱり富山の昆布巻き文化は北海道のまねをしたのでしょうね。
高橋 それがそうでもなくて、北海道の人たちは漁をして出荷するばかりで、つくるという文化の歴史は浅いという説もあります。
室井 あっそうか。北海道は新鮮な食材がふんだんにあるから、保存のためにどうこうする必要はなかったのかもしれませんね。
高橋 そんな豊かな北海道の食材の持ち味を化学調味料や合成添加物で損ねることなく、安心して口にしてもらえるものを届けたい。そんな私たちの願いが、震災以降、少しずつ社会に浸透してきている気がします。命に対する思いが強くなっているというか、いままでは安ければいい、簡単に食べられればいいと言っていた世代の人たちが「安心できるものを」という言葉を口にするようになってきました。
室井 そういえば無添加の水産加工品を一般の小売店で見かけない気がしますが、どうしてですか。
高橋 無添加だからですよ。保存料を使っていない食材を流通させるには、品質保持のために徹底した温度管理が求められるわけですが、これがなかなか容易ではない。つまり、腐らせてしまう恐れがあるから嫌われるということです。
室井 なるほどねえ……。それにしても気になるのは日本の水産業の今後です。未来予測という本がたくさん出ていて、何十年かしたら日本の漁場から魚が消えると書いているものが少なくありません。そんなことになっては本当に困りものです。水産資源を適切に守りながら、漁師さんはもちろん、高橋さんたちにも頑張ってもらわなきゃ。私も大切に食べることで応援していきたいと思います。
襟裳岬で漁を見学
新ひだか町のみついし昆布ヘ
室井 えりも町でコンブ漁を見せてもらいましたが、あのくらいの長さになるには、どのくらいの年月が必要なのですか。
榎本 とっていいのは2年ものからです。コンブの丈は5月から6月にかけて一気に伸びる。でも、1年目はそのままにして、次の年までとってはいけないことになっています。このコンブは秋に根を残したまま一度切れてしまいますが、そこからまた成長します。
室井 切れちゃったほうがかえって大きくなるのですか。
榎本 ええ。2年目から「成(なり)コンブ」といわれて肉がついてくる。海中にあるプランクトンを吸収し、太陽の光をいっぱい浴びて光合成で成長するのです。だから6月の日照が多い年は実入りがいいのですが、この時季に天候が不順になるとコンブの出来が悪くなってしまう。コンブを見ていると最近は自然の摂理がおかしくなってきていることが本当によくわかります。
室井 2年もの以上のコンブはどうなってしまうのですか。
榎本 枯れてしまったり、堅くなって食べられなくなっていきます。もうだれも相手にしなくなっちゃいますね。
室井 そうかぁ。もしかしたらとっても長~いコンブが海の中にいたりして。
榎本 あります、あります。堅くて食用にはなりませんが、何かほかの用途には使えるかもしれません。たとえばコンブには燃やすといやなにおいをなくしてしまう消臭効果があるんですよ。
室井 本当ですか!
榎本 はい。家の中で肉とか焼きますよね。その後に缶の中にコンブを入れて燃やすだけで、においがなくなりますよ。
室井 富山に海洋深層水を使った市の施設があって、そこのエステサロンにはすりおろしたコンブを混ぜた「海草パック」があります。
榎本 生活クラブの組合員には、だしをとったコンブにもう一度火をいれてやわらかくしたものをミキサーにかけて、パックにするといいですよと話します。コンブには保温効果があるから、確かに肌がつるつるになります。
いいコンブの決め手は?
室井 なかなかいいアイデアですね。ところで、どんなコンブが良質とされるのですか。
榎本 よくアンジョウされたものが一番でしょうね。いおりの「庵」にむすの「蒸」と書いて「庵蒸」。船から浜にあげたコンブは、すぐに小砂利を敷いた干し場に広げて、天日で乾燥させますが、このとき自然の湿り気をほんの少しだけ与えてあげる。さらにコンブを納屋に入れてねかせて、再び天日にあてるのが庵蒸です。これでコンブの繊維がやわらかくなり、うまみが引き出されてきます。うちが提携している漁師さんは、この手間を惜しみませんし、浜にあげたコンブをそのまま干すのではなく、海水で洗ってから干しています。多くの浜では高齢化などの影響もあり、最近では洗わないのが一般的になってきて、根についた泥などがコンブに残った状態のまま干すのが当たり前になってきているようです。
室井 やっぱり手間かぁ。それにしてもコンブっておいしいし、栄養も豊富な食材です。
榎本 カルシウム、ミネラル、ビタミン。
室井 ビタミンも?
榎本 あるんですよ。
室井 コンブと梅干しを食べていたら大丈夫ですよね、日本人は。
榎本 だしだけではコンブにはまだ栄養が残ってしまっている。水溶性の食物繊維以外は食べないと吸収できないからです。だから、ぜひ食べてもらいたいのです。牛乳を一滴も飲めない人がいて、コンブをずっと食べていたそうです。この人が骨密度を測ってみたところ、すごかったという話を実際に聞いたことがあります。
室井 実は私、骨密度にはけっこう自信があるんです。そうかぁ、富山で育ってコンブをしっかり食べてきたおかげなのかぁ。ずっと不思議に思ってきましたが、これでナゾが解けました。これからもいいコンブをお願いしますね。
◆サケとコンブにゾッコン。そしてもう一つ……
私は富山の出身で、私たち富山県人はだれもが力二やエビ、マスにサケ、そしてコンブをこよなく愛している。そして、ちょっと、うるさい。
それは子どものころから、日々食べまくっているからだ。
わが県はコンブの消費量などに関しては、常に全国で1~2位をキープしている。魚に山菜、お肉と何でもコンブでグルリ巻くと安心するDNAの持ち主の集まりなのだ。焼酎にだってコンブを入れるし、エステでも“コンブパック”があるくらい。
富山湾の魚の豊富さは言うまでもないが、さすがにサケやコンブは北海道産なので、とにかく私たちは北海道の生産者の皆さんには足を向けて眠れない気持ちでいるわけなのだ。だから、今回の産地への旅は、私の食生活の中での“肝ちゅうの肝”だなあと期待が膨らんだ。
NSニッセイさんで、新巻き鮭はじめ色んな加工品がじっくりと人々の手作業でとても丁寧につくられていく過程を見せてもらい、つくづく感心した。
化学調味料などの添加物を使わず独自に開発しだ“魚醤(ぎょしょう)”をはじめ、天然の調味料だけを使って加工されていると知り、ハッとする。魚醤はまさに能登や富山湾沿岸地域の昔からの伝統の味なのだから。
「北海道と私たちの田舎って、何だか深いご縁がある気がするんですよぉ」
納得して大きくうなずく私に社長の高橋さんが、工場敷地内のアンテナショップで販売するソフトクリームを是非にと勧めてくださった。
何と何と、このソフトが“魚醤ソフトクリーム”。
スコブル明るくておしゃれなショップが気になってはいたけれど、“魚醤ソフド”とはこれいかに!?
果たして私は、そのソフトクリームを恐る恐るペロリとひと口味わうが、ギャギャンと目をむいてしまうのだ。
「ウッソ~、信じらんない。お見事! ですぅ。チーズとはまた別のうま味成分を感じる。とにかく初めての味に間違いなし。こりゃぁたまらない」
予想をはるかに超えたおいしさにゾッコンになるのであった。
さらに翌日─。
この魚醤ソフトの味が忘れられず、いつまでもそのことばかり考えていると、今度は新ひだか町でそれに勝るとも劣らぬ、これまた珍しいソフトクリームに出会った。
その名は“コンブソフトクリーム”
みついし昆布さんに伺ったところ、常務の榎本さんがニコニコ笑顔でくださったのだ。
「ひょっとしてソフトクリームにきざみコンブがまぶしてある?」などと間抜けな想像をする私の前に登場したのは、若草色のキュートなソフトクリームだった。アクセントとして小さなコンブが1枚、ウエハースのようにして刺してある。
「うわぁ、超なめらか~!! これコンブをペースト状にされてるんですね。ミネラルタップリですご~い。さっきからごちそうになっているお手製のコンブ菓子も超美味だけど、これも抜群ですね]
私はえりもの海で漁師さんたちが荒れた海の中に入って一生懸命コンブをとっておられた今朝方のコンブ漁の様子を思い浮かべた。
海の宝・コンブをしっかりキリリと保存し、さらにそれをいつくしむようにして加工していく。その一つの姿が、このソフトクリ-ムだと思うと、これまた感激もひとしおなのだ。
はるか北、豊饒(ほうじょう)の海の幸の恩恵を、遠く離れた私たちが日々受けられるのは、まさに良心的な加工を心がける人々に支えられているからだと、しみじみ感じた旅なのでありました。(文/室井 滋)
『生活と自治』2011年12月号の記事を転載しました。