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古きをたずねて新しきを【本郷 浩さん】

和食の基本は「さしすせそ」(砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそ)。
中でも酢は歴史のある調味料で、日本では木おけを便って醸造されてきた。

戦後最大の危機

本郷 浩<span>(ほんごう ひろし)</span>さん<br >■提携先  私市醸造(株) <br >■提携品目 食酢、純米酢など 「震度5弱でしたが、とにかく長く揺れが続きました。製品の充てんラインも大きく崩れ、漏電による火災を防ぐために電源を落とすのもままならない状況でした」
 2011年3月11日をこう振り返るのは生活クラブ提携生産者の食酢専門メーカー「私市(きさいち)醸造」製造部長の本郷浩さん。同社がある千葉県鎌ケ谷市は、東日本大震災の震源からは離れてはいたが、影響は小さくなかった。
 醸造・熟成を終えた酢を保管する貯蔵タンクも被害を受けた。設置面に固定していたことがかえってあだとなり、貯蔵タンクが破損した。しかし、幸いにもタンクの転倒は免れることができた。
 本郷さんは「私市の魂」ともいえる、木おけの並ぶ蔵へ向かった。大破したものはなかったが、長く続いた余震で酢が辺り一面にこぼれだして床を浸していた。さらに木おけの中を見て本郷さんはがく然とする。
 「菌膜が落ちている!」
 1922年に創業した同社が、太平洋戦争の戦火を逃れて鎌ケ谷の地に移って以来の危機だった。
 酢酸菌は酸素がなければ繁殖できない好気性の菌であるため、木おけの表面だけに繁殖し菌膜をつくる。だが調べてみると26本ある木おけの中で、かすかに菌膜の破片が確認できたのはたったの2本だった。
 「急いでヒーターを入れて残った酢酸菌を増殖させ、菌膜をよみがえらせました。これを他の木おけに少しずつ移植して事なきを得ましたが、もしあの時、少しも残っていなかったらどうしていただろうかと今でも思います」
 その後、1日でも早く、製品を消費者に届けたいとの思いで社員は一丸となって急ピッチで復旧作業を行い、3日後には充てんラインを再開させた。

伝統と創造と

1.酢の貯蔵タンク 2.ドイツ製の食酢発酵プラント 3.木おけのまわりを覆っているのはこも。近年では入手が難しくなっている 4.私市醸造の自慢の木おけ。表面に張っているのが酢酸菌の菌膜 私市醸造は杉のおけを使った昔ながらの手法で食酢の醸造を続ける、国内でもまれな存在といえるだろう。
 戦後、「衛生上の問題がある」「生産効率が悪く品質も落ちる」などとして醸造の現場から木おけは次々と姿を消したが、私市醸造では木おけを手放さなかった。木おけでは発酵に2~3ヵ月、さらに2~3ヵ月の熟成期間を要し、酢ができあがるまでに最低でも5ヵ月がかかる。
 「こだわりの酒造メーカーの酒かすを3年以上熟成させたものと、遺伝子組み換えでない原料でつくったアルコール。これらを長い歳月を重ねた木おけに仕込み酢酸菌の力を借りて生み出される酢には、独特の香りやコク、まろやかさがある。それは何ものにも代え難い」と本郷さん。
 その言葉を裏付けるように、私市醸造では大阪府堺市の木おけ職人に古い木おけのメンテナンスだけでなく、未来にこの味を引き継ごうという意思の証しとして、寿命100年の新おけづくりも依頼する。安価な回転ずし全盛の時代にあっても、この木おけの酢を愛用するすし職人は少なくない。
 一方で私市醸造は洋風の料理に適した、一般にはホワイトビネガーと呼ばれる癖のない軽やかなタイプの酢も醸造している。ドイツやアメリカから導入した食酢発酵プラントを使って醸造し、原料となるリンゴ酒やブドウ酒などを素材まで十分に吟味して社内で醸造している。
 これらを基にして、同社は現在、酢だけで約60種類の製品を生み出している。日本古来の伝統の技と味を守りつつ、新しい食文化の創造にも意欲的だ。
 「味というものは時代とともに変化するものですが、手間と愛情をかけてつくり出す“手の味”の尊さは不変のもの。私たちの酢がその手助けになればこれほどうれしいことはない」と本郷さんはほほえむ。

対等互恵の関係を

私市一康社長 このほかにも私市醸造では業界に先駆けて、2000年に原料アルコールの遺伝子組み換え対策を果たしている。遺伝子組み換えされていない原料を使った酢は市場ではまず見当たらないだろう。
 当時、生活クラブが遺伝子組み換え食品の排除を方針に掲げたことを受け、共にその可能性を追求した結果、通産省(現・経済産業省)所管の工場で、組み換えトウモロコシではない、サトウキビ由来のアルコールの調達にこぎつけることができた。
 遺伝子組み換えの課題を解決した結果、原料アルコールは寿命を迎えた木おけの正直(板と板とが合わさっていた部分)に書かれた、江戸時代の職人のメッセージ割高になり製品価格は上がったが、同時に私市醸造の製品の品質も高まったと話すのは、代表取締役社長の私市一康さんだ。
 「私どものような生産規模のメーカーが生き残るためには、シェアやブランド力で勝負するのではなく、ほかにはない特徴を持つことが大切なのです。そして常に、現状で満足せず、考えながら行動することが求められていると感じています」
 そうした私市さんの思いは、社員の働き方からもうかがえる。部署ごとに、受注に応じて社員が自分たちで考え、相談しながら仕事のスケジュールを組み、資材の発注も行うなど、独自の職場運営が定着しているのだ。


 東日本大震災以来、私市さんは改めて自問自答していることがあるという。
 「酢を通じて誰との縁を築いているのか」─。
 「次の世代に私市の技術と伝統、食文化を引き継ぎたい。それが食酢醸造メーカーとしての私たちの使命だという思いが一層強くなりました。その時に生活クラブとの提携関係に象徴されるような対等互恵の関係を、消費者の皆さんと共感を持って深化させていけたらと思うのです」
 戦火の中でも守り続けられた思いを受け止めながら、私市さんは社員と共に今と未来を見据えている。


特徴を知って、上手に使いこなす

加温した酢を充てんする前の、リユースびんのチェック。この後で丹念な洗浄が行われる酢のつくり方には2種類ある
 酢の発酵方法は大きく分けて2種類。木おけに代表される「静置発酵法」と、世界中で幅広く採用されている「通気発酵法」である。
 静置発酵法は日本古来の製法で、おけの表面から少しずつ発酵がはじまるが、仕上がるまでには時間がかかる。おけ全体をこもで包んで保温するのは発酵がはじまることによって発生する発酵熱を逃がさないため。できあがる酢は、独特の香りとコクを持っているので単独での用途は和食などに限られるが、根強いファンも多い。
 通気発酵法はステンレスの大型タンクに仕込み、タンクの液全体にまんべんなく空気を送り込んで発酵させるために発酵速度が速い。そのために絶えずタンクを冷却水で冷やさなければ発酵熱により酢酸菌が活性を失ってしまう。こうしてつくられる酢は酸度が高く、サッパリとした軽やかな味わいになる。漬物やドレッシングなどに適し、はん用性があるのが特徴だ。
 この2種類の酢の長所を生かしたものが生活クラブで扱うS食酢。さらに味に深みを出すために純米酢を10%加えてあり、あらゆる料理に適している。実はプロのすし職人がブレンドする酢の配合に近い。生活クラブではこのほかに純米酢、純りんご酢、純玄米黒酢、ワインビネガー、希釈して飲むドリンクタイプの酢などを供給している。

私市醸造で扱っている消費材の一部。このほかにも希釈して飲むドリンクタイプも複数ある保存の仕方など
 私市醸造ではリユースびんを使っており、製品の性質上、徹底した再洗浄と品質チェックを行う体制が整えられている。特に原料に塩分を含まない酢を製品にする場合は、細菌などによる2次汚染を防ぐ目的で72度前後に加温したものを充てんしている。
 異物混入のチェックにも細心の注意が払われている。エチルアルコールや酢酸は昆虫にとって非常に魅力的なにおいであるため、さまざまに防虫対策を施してもなお、混入を100%防ぐことはできない。これを補完するのが目視によるチェック。製品の中にできる微細な泡の中に異物がないかを点検する。
 それだけに家庭での管理にも気を配りたい。使い残した酢はびんに戻さない、すし酢など塩分濃度が高いもの以外は、開封後は冷蔵庫で保管するなど、最低限のルールを守りたいものだ。

『生活と自治』2012年1月号の記事を転載しました。

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