米国でTPPに反対する「パブリックシティズン」と連帯
「協同組合の旅」で生活クラブ連合会の代表団が米国のワシントンDCを訪れたのを機に、国会議事堂のすぐ近くにある「パブリックシティズン」を訪問しました。パブリックシティズンは、1970年代に若き弁護士ラルフ・ネーダーが立ち上げた市民団体で、利益を追求する大企業から消費者を守るために食品、環境などの分野で活動しています。今回の訪問では同団体で国際貿易の分野に取り組む「グローバルトレードウオッチ」の国際キャンペーン部長メリンダ・セントルイスさんに、TPPをめぐる最近の活動について聞きました。(2012年11月6日掲載)
TPPで議論されている内容は、国会議員にすら秘密
「これまで北米自由貿易協定や世界貿易機関の問題に取り組んできましたが、TPPは貿易協定のなかで一番透明性に欠けています」とメリンダさん。
TPPには投資、知的財産権など20の分野について書かれた章がありますが、交渉に提案されている文書を国会議員すら見ることができません。その一方で600の大企業からなる「貿易アドバイザー」はそれらの文書を自由に入手できるため、議員の間では民主党、共和党ともに不満が高まっていると言います。去る6月には民主党議員130名以上が連名で、米国通商代表部に対してTPP交渉の透明性を求める書簡を提出しました。議員たちにこのような状況に目を向けさせ、行動へと導いたのがパブリックシティズンです。メリンダさんらスタッフたちは、議員の教育に重点を置いた活動をしています。
「漏れてくる情報に頼らざるを得ない状況ですが、これまで知的財産権と投資の章の草案を入手できました。それによってこれまでTPPについて抱いていた懸念が現実であることが分かりました」とメリンダさんは明かします。「知的財産権の分野では、たとえば製薬会社の特許権が強化され、エイズの治療薬のような途上国にとって重要な薬の価格が上がったり、ジェネリック薬の普及が妨げられる恐れがあります。また投資家の利益保護が強化され、国の規制によって利益追求を妨げられていると企業が国際法廷に訴えるという事態が広がる懸念があります」と続けます。
TPPに反対する気持ちは、どの国の人々にも共通
メリンダさんは「企業はこれまで国会で通らなかった企業の利益保護のための法律を、TPPという“裏口”から通そうとしている」と指摘します。たとえばサブプライム問題以降、金融安定化のために導入された金融規制策、政府調達における国産品優遇策、そして遺伝子組み換えをはじめとする食品表示がTPPによって禁止される恐れがあると言うのです。
「TPPは国際貿易の問題というよりも、食品安全、健康、環境といった分野の政府の政策を弱めようとする企業の道具なのです。日本はTPPに参加しないのが理想ですが、少なくとも交渉のスピードを落とすべきです」
一方、生活クラブ連合会からは、総会で採択された特別決議や、生活クラブが幹事団体を務める「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」が8月に実施した「TPPクイズに答えて、おいしい国産プレゼント!」キャンペーン、意見広告などの活動を紹介。
メリンダさんは「私たちは国会議員に焦点を当てているので、市民に対する教育活動はこれからの課題です。あなた方の活動はとても参考になります。近ごろ訪日したグローバルトレードウオッチ代表のロリ・ワラックが、日本では多くの方々が集まってくれたことに感動したと話していました」と熱心に耳を傾けました。
生活クラブ連合会の渡部孝之常務理事は「日本では農家の高齢化が進んでおり、TPPに参加すれば多くの農家がやる気を失って離農するのではないかと心配しています」と国内農業の現状を述べると、メリンダさんは「米国も同じで、いろいろな国々の人々から同じ声を聞きます。TPPと言えば国対国の交渉と思われがちですが、そこに暮らす人々の気持ちはどこでも同じです。これからも日本と米国の市民の力をあわせて、TPPの問題に取り組んでいきましょう」と話し、今後の連帯を確認しました。