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【大震災から2年】vol.3 高橋徳治商店「震災前を越えるものを」

あの日から2年目をむかえた日本。「人々の記憶が薄れつつある」との声もあるなかで、被災地の人々は忘れることができない記憶と闘っています。3つの工場のうち2つがほぼ全壊、残った本社工場も1階は津波による泥で埋め尽くされた(株)高橋徳治商店。高橋英雄社長も「あの日のことは従業員全員にまだ聞けません」と漏らしています。
生活クラブでは東日本大震災に際しグループ全体で支援活動にあたるとともに、第1次・第2次カンパに取組みました。生産者や組合員の現状などを、ビデオレターをふくめ連載で紹介しています。(2013年3月11日掲載)

被災した工場を見て立ち尽くす

震災後、泥の掻き出し作業中の本社工場1階内部の様子(2011年6月撮影) 本社工場と道路一つ挟んだ自宅で母親の四十九日の法要を営んでいた高橋社長。午後2時46分から大きな揺れを感じた直後、本社工場に駆けつけて女性従業員をまず避難させ、同時に男性従業員に火の元の確認を指示。全員の避難を確認した後、自らも家族と車2台で本社工場を後にしました。その頃、石巻魚市場にいた従業員の一人は3時15分、ラジオで一帯に津波警報が発せられていることを知ります。しかし、高橋社長らは「停電のせいかもしれませんが、津波警報を聞いた記憶がないのです」と口を揃えます。
 その日から、高橋社長は市内の高台にあった牧山神社での避難生活を強いられることになります。海岸近くはもちろん、市内の奥深くまで達した津波による海水がなかなか引かず、自宅や工場が津波によって壊滅的な被害を受けていることを知るのは4日後でした。
 「工場にたどりつくまで、いたるところで車が3~4台と折り重なるように散乱しているのは当たり前。建物は津波で一階部分がすっぽり抜かれ、一帯は泥に埋め尽くされていました。工場も例外ではありません」
 その頃の心境を高橋社長は「もう立ち上がれないと思った」と語ります。震災後、東京のサラリーマン生活を辞して(株)高橋徳治商店の一員となることを決めた次男の敏容さんは、「本社工場を見つめながらボーッと立ち尽くしている父親の姿を目にした」と話します。

新工場の建設は5月竣工に向けて急ピッチに進む

本社工場の1階内部の現在。1ラインで生産している 心境に変化があらわれ始めたのは、ボランティアによる本社工場の泥出しが始まった頃。生活クラブだけではなく、NPOなど参加した人々の数はのべ500人を超えました。
「その甲斐もあって、泥が掻き出されて工場1階の緑色の床が現れたときは小躍りしたい気分でした。でも、地震の影響で地盤が沈下しているため、海の潮位が上がった翌日には泥が入り込んでくる。その時は悔しくて、泥を蹴り上げました」と、高橋社長は当事者が故に経験する日々変転した心中を明かします。
 それでも、震災からおよそ半年後の10月には、約40トンあったと推定される泥で埋め尽くされていた本社工場での清掃と修繕を終えて生産ラインが再稼動、復旧への第一歩が踏み出されたのです。

本社工場で、左から製造部主任の横山宣彦さん、高橋社長の次男の敏容さんと長男の利彰さん10月1日に行われた火入れ式で、高橋社長は生活クラブなど復旧作業や支援活動に取り組んだ人びとに「みなさんが『一生懸命頑張って』という小さな火を点してくれました。たった1ラインですが、ここから始めます」と力強いメッセージを発しました。
 消費材の製造再開の第1弾はお豆腐揚げでしたが、その1ラインで現在、6アイテムの消費材を生産しています。さらに、事業の復旧に向けて石巻市の隣りにあたる東松島市の高台に、新工場の建設用地を取得。建築労働者や建築資材の不足が深刻ななか、今年5月竣工に向けた建設が急ピッチで進んでいます。

震災前にもどれないならば…

新工場の側面を飾る「高橋徳治商店」のロゴ 新工場は5月中旬の引渡しと、その後、テストランなどの調整を経て6月上旬から消費材の生産が少しずつ始まる予定です。
 震災前、73人いた従業員を解雇しなければならないという苦渋の選択を強いられた高橋社長。現在の29人に加え、この春からは女性3人を含む7人の新卒者が入社します。前途は明るいように見えますが、高橋社長の悩みは尽きません。技術を持った職人の養成や、包装部門の人材採用が思うに任せない状況にあるからです。
 女性は子どもの学校や家族の介護のために家を空けられない。また「津波で逃げ惑うのはもう嫌」という思いや、「車が津波で流されてしまって通勤できない」、「2年間も働いていなかったので不安」など、働くことに二の足を踏むさまざまな状況を抱えているからだといいます。

新工場の内部 人手だけではなく、新工場の立ち上げには他の問題もあります。
「新工場の立ち上げは人だけではなくモノ、カネの問題が出てくる。個人としては自宅の問題もあります。そして、どれも先延ばしできないことがいっぱいある。すべてを失うということは、こういうことなのです」と高橋社長は現状を説明し、次のように続けます。
「震災前のことが心の根っ子にあるから震災前にもどりたいと考える。しかし、もどれない。それなら震災前を超えるものを作り出していかなければならないと思っています。」

 

東日本大震災の復興支援は、まだまだ必要です

生活クラブでは2013年度以降も、息の長い復興支援に取り組んでいく必要があることから、組合員のみなさんに「復興第3次カンパ」を呼びかけます。具体的な方法については、各単協のニュースなどをご覧ください。引き続き、ご協力をお願いします。

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