協同組合が活躍する場を広げるために
国際協同組合年だった2012年、グリーンコープ共同体、消費者信用生協、生活クラブ連合会の3団体は「協同組合フォーラム~協同組合が活躍する場を広げるために」を発足させ、連続国際シンポジウムを開催してきました。まとめとなる第3回のシンポジウムが2013年2月2日、福岡国際会議場で行なわれ、海外からの3人のゲストによる講演と都留文科大学教員の田中夏子さんによる講評などがありました。(2013年4月1日掲載)
協同組合が取り組むべき4つの優先順位
協同組合フォーラムによる第1回のシンポジウムは2012年5月12日、「生協の社会的役割と地域の未来」をテーマに、第2回は9月8日に「グローバル化の中の共済の社会的役割」をテーマに東京で開催してきました。グリーンコープ共同体代表理事の田中裕子さんは開会にあたり、「今回の国際シンポジウムはそのまとめの機会となります。協同組合の推進に向けた国内外の取り組みの成果や課題を学びながら、今後の活動を展望していきます」と挨拶しました。福岡県生協連会長・宮崎正義さんの来賓挨拶の後、海外ゲストによる基調講演が行われました。
カナダ・ヴィクトリア大学名誉教授・平和と社会的包摂のための協同組合研究所所長のイアン・マクファーソンさんの講演のテーマは、「レイドロー報告『西暦2000年の協同組合』の4つの優先分野の今日的意義」。レイドロー報告とは、アレックス・レイドローが1980年の国際協同組合同盟(ICA)モスクワ大会に提出したもので、協同組合の未来への選択などを論じ、協同組合が取り組むべき以下の4つの優先分野を提示しています。
- 世界の飢えを克服する(世界の飢えを満たす)
- 生産的労働のための協同組合(より生産性の高い労働のための機会創出)
- 保全者社会のための協同組合(私たちがこの地球上で委託されているものをより注意深く保全する)
- 協同組合地域社会の建設(より協同組合的な地域をつくる)
※(注:カッコ内はマクファーソンさんによる)
マクファーソンさんは1点目について、「緊迫した問題である食料安全保障への協同組合の貢献は、年月を経るにつれて一層、重要性を持ってくる可能性がある」としました。
2点目は労働者協同組合について。マクファーソンさんは、その可能性は年月を経るにつれて確実に拡大しているとし、労働者協同組合に注目が集まる構造的な理由について次のように説明しました。
「従来の経済に容易に溶け込めない人々のニーズに応えているからです。また、若者が自分の事業を立ち上げる方法になっている。さらに、皆さんの組織ですでにそうであるように、女性たちが特に社会的ニーズに応えて自分の事業を立ち上げる場合の手段でもあり、移民たちが資源を動員して経済活動に参入する便利な方法でもあるからです」
ただ、協同組合がその発展を支援する能力については、「需要に追いついていない」との認識を示しました。
目的の達成には組合員を巻き込み、その声を反映すること
3点目についてマクファーソンさんは、この間、ほとんどの政府、世論を形成する人々、経済界のリーダーたちが恒久的で集約的な成長によって世界の直面する問題の多くが解決すると考えてきたことを紹介。「しかしレイドローは、協同組合の構造と関係性は『もっと消費せよ』という際限にない要求に抗い、変革をもたらすための最良の方法であると主張したでしょう」と述べました。
4点目の協同組合地域社会の建設についてマクファーソンさんはまず、政策転換やサービスからの撤退をはじめとする政府の地域支援の削減などで、地域社会はますます先細りしている場合が多いこと。その結果、安定した地域経済と社会システムづくりのための地域に根ざした試みに再び関心が高まっている現状を説明し、協同組合の役割をこう強調しました。
「幅広い社会的ニーズに応えビジネスチャンスを作り出すような協同組合の成長が求められています。協同組合の主たる目的は、その設立の目的となった経済的、社会的ニーズに応えることである一方、レイドローが言ったように、より平和な社会、より協同組合的な地域社会建設への貢献です。協同組合の価値や開かれた性質、民主主義の原則は、地域社会に直接、間接的に貢献しうるのです」
4つの優先分野の目的達成についてマクファーソンさんは、「その際の課題は常に組合員を巻き込み、その声を反映すること。さらに、最良のマネジメントシステムを見つける努力を怠らないこと」と述べ、こう締めくくりました。
「協同組合は定期的に一歩後ろに下がってじっくりと考えなければなりません。現在と未来の組合員や地域に貢献できるものとしての義務をうまく果たしているだろうか、と」
消費者生協の設立が相次ぐ米国と、協同組合基本法が成立した韓国
講演の2人目は、米国協同組合事業連盟(NCBA)前会長兼CEO、米国海外開発協議会事務局長ポール・ヘイゼンさん。米国の協同組合についてデータを織り交ぜながら紹介しました。それによると、米国の協同組合数は約29,000にのぼり、組合員数は1億2,000万人(2009年の報告)。協同組合のトレンドとして、「消費者生協の設立が爆発的に起こり、300の新しい生協が設立されており、最近の不況と高い失業率を受けて労働者協同組合に新たな注目が集まっている」と言います。
ヘイゼンさんは、米国における協同組合の成功事例を報告するとともに、協同組合が社会に与える影響力について次のように述べました。
「協同組合は株主所有の事業体より、良いサービスを提供することができます。協同組合が存在することで市場に大きな競争が生まれ、非協同組合が協同組合と同程度のサービスを提供することを迫られます。たとえば、信用組合が多く存在するようなマーケットの場合、銀行も結局、ローンの切り下げ、貯金の利率を上げるのです」
3人目の講演は、韓国旧生協全国連合会元事務総長のイ・ジェウクさん。2011年12月に制定された協同組合基本法の成立過程とその後について解説しました。イさんは、同法が制定された背景には、2012年を国際協同組合年と決めた2009年国連総会の決議が重要な契機として作用したこと。そしてもう一つは、「失業率増加と雇用創出、貧困階層の増大という課題を民間の次元で解決し、福祉財政支出急増の負担を減らそうという政府の意図が反映された結果でもあった」と指摘しました。さらに、韓国の経済成長率は下落し“事実上の失業者”は10%に達しているなかで、「協同組合に対する支援は増大する可能性がある」として、韓国の協同組合を次のように展望しました。
「このような状況で基本法による協同組合は、韓国社会の大きな実験となりえます。協同組合についての教育と理解の幅が広がり、それに政策支援がともなって協同組合が成長するならば、韓国経済の問題を解決するのに役立つでしょう。しかし、協同組合の教育と理解、経験がなく、政府の支援を期待して不誠実な協同組合が量産されるならば、協同組合は社会の負担になるでしょう」
協同組合は「公益」へ向けて腰を上げるべき
講演などの後、都留文科大学教員の田中夏子さんが、これからの協同組合に期待される役割と可能性について講評しました。その核心は「共益」と「公益」についてでした。「共益」とは、協同組合の組合員あるいは組織の内部的な利益。「公益」は社会が抱える困難に答えを見出していく取組みを指します。田中さんは協同組合は「公益」に向けて重い腰を上げるべきとの認識を示したうえで、課題の発掘については「それぞれの協同組合がそれまでに積み上げてきた経験のなかから、それを公助、公益へと飛躍させる回路、ロジックを自分たちの手で見つけ出すしかない」と指摘し、次のようにまとめました。
「さまざまな矛盾が地域に凝縮して現われる時代になっています。講演のなかで、地域社会が先細りしているという話がありました。協同組合がそれに向き合うと同時に、地域を傷めつけるような社会の仕組みを明らかにして政策的な対応を求めていく、その活動がいま、求められています」
最後に生活クラブ連合会の加藤好一会長が、閉会挨拶をしました。
「協同組合は一般的な企業と違って独自の役割を果たす存在であるにもかかわらず、そのアイデンティティが見失われ、一般の企業の方向へ強く引きずられている動きがあります。生協法が会社法や保険業法へ接近していくことへの懸念として、岩手県の消費者信用生協、グリーンコープ共同体、生活クラブ連合会が連名で日本生活協同組合に共同提案を出しています。日本においても協同組合基本法の可能性を検討していきたいと思います。今日のシンポジウムが、今後の日本の協同組合運動に結びつくことを祈念します」