足りないものは何ですか?【米澤製油】
「食」の国内自給力を少しでも高め、遺伝子組み換え作物(GMO)を日本の食卓から追放する─。
そんな願いを形にした生活クラブのなたね油の利用が減少傾向にある。
調理技能と市場の多様化
いまや天ぷらやフライなどの揚げ物は買ってくるものとなり、自宅でつくる人が減ったという。これを裏付けるかのように、長引く消費不況のなかにあっても、堅調に売り上げを伸ばしているのは、スーパーや百貨店の総菜売り場だ。
この背景には単身者や高齢者世帯の増加などの社会構造の変化や外で買って家で食べる「中食」の増加という食生活の変化がある。つくる手間や後片付け、火の扱いを考えても、確かに揚げ物の敷居は高い。
だから買ってくるし、家庭の台所でつくらなくなれば「つくり方がわからない」という世代も増えていく。むろん、それは食用油の消費量に直結する。
「国内全体で見ても家庭用は1ヵ月で平均700グラム、対前年比98%に落ちています。10年前は平均1キロでしたから3割減。生活クラブのなたね油の利用も同じように減ってきています」
米澤製油の安田大三さんは、複雑な表情でそう話す。実際に使ってもらい、使い続けてもらわなければ、価値がわかってもらえない素材だけに、何を利用の動機としたらいいかと悩みは尽きない。
「開発当時を知る50~60代の組合員が利用を支えてくれていますが、この世代が実感する価値観が20~30代の人に共有されていません。調理技術の伝承が途絶え、技能が低下したことや、一般市場での選択肢が増えたことも要因になっていると思います」
かつて食用油といえば、天ぷら用、サラダ用などの用途別の品ぞろえが中心で、これを生活クラブは「企業の論理の押し付けで、選ばされて買わされている」と否定し、「米澤のなたね油なら、これ一つでいい」と提案してきた。その後、市場は用途別から“健康増進に資する油”にシフト。「中性脂肪がつきにくい」「血液をさらさらにする」「コレステロールゼロ」を強調する商品が販売されている。
「そもそも植物油のコレステロールはゼロなのに、あえて強調表示するわけですよ。一種の惑わしですが、生活クラブの組合員からも、なたね油のコレステロール値についての問い合わせがあり、対応が必要かと感じたりもしますね」
容器を美化し、小容量化?
オリーブオイルの普及も大きい。2009年に約4万2千トンだった輸入量は11年には7千トン増の4万9千トンほどに拡大した。その理由が欧州の食文化への憧れと健康志向、ある種の“ステータス”を感じさせる容器にあるのではと安田さんは推測する。
「オリーブオイルのびんは実にきれいですよね。食卓を飾る一つの調度品みたいな感覚で支持されているのではないですか。ともすれば中身より容器代が高いという本末転倒の構造になるのでしょうが、これが実際に使ってみようと思う動機になるのであれば、無視できない要素といえます」
缶をびんに変え、さらに小容量化するとなると揚げ物をする十分な量にはならない。しかし、フライパンに1センチほどの高さまで油を注いで調理する「揚げ焼き」という方法もある。これなら「やけどしそうで怖い」「キッチンが汚れる」などの理由から、天ぷらやフライをしない世代に受け入れられる可能性も出てくる。
価格設定も悩みの種に
小容量化のみならず価格をどうするかも課題だ。
「1キロ328円のキャノーラ油を販売しているスーパーが、同じ商品を198円で特売すると集客力が高まり、他の商品の売り上げにも影響すると聞きました」と話すのは米澤製油社長の森田政男さんだ。そうした市販品と価格競争をする気はないが、それでもと森田さんは語る。
「原料や製法の安全性や廃油にせずに使いきれる特性などを考えた上で、価格の違いを論じていただきたいのですが、それが難しいのも事実でしょう。だとすれば、米澤のなたね油は高いと思っている方にアピールする機会として、一時的に価格を引き下げてみることも必要ではないでしょうか」
一方で、安田さんの考えは少し違う。廉売品で、一度使ったら処分して新しいものを消費するというライフスタイルを認めたくないから、注ぎ足しながら何度でも使え、廃油にならない米澤のなたね油の利用を勧めてきた。これでは消費サイクルが長くなり、販売増にはつながらないが、それが本質的なリーズナブルさに合致すると信じている。
「だからね、本当に価格の問題なのかとの思いもあるわけです。でもね、とにかく使ってもらわなければ話にならないから、何が組合員の心をつかむのか、どんな表現で良さを伝えればいいのかと頭を抱えてしまいます」(安田さん)
米渾製油にしかできないこと
容器や容量、価格の設定という課題に向き合いつつ、米澤製油は原料確保にも悩まされる。国の助成金制度の普及により、国産ナタネの栽培面積は東京ドーム約1333個分の2000ヘクタールに拡大したが、いまも自給率は0.04%で、輸入品のほうが安い。だが、輸入品の大半は遺伝子組み換え(GM)ナタネとみられ、米澤製油は生活クラブ連合会とともに、オーストラリア西オーストラリア州の産地と提携し、遺伝子組み換えではない(NON-GM)ナタネを調達してきた。
ところが、西オーストラリア州でもGMナタネの栽培が広がる恐れが出てきたため、タスマニア島などからもNON-GMナタネを調達しなければならなくなった。輸入ナタネの価格は世界的な穀物相場の高騰や円安により、高値安定の状況にあり、とりわけNON-GMナタネの値段は高くなる傾向にある。安田さんが言う。
「昨年、国内で消費された食用油は約163万トン。ナタネ油が約106万トン、ダイズ油が約37万トンで、残りはコーン油や綿実油ですが、圧倒的多数がGM原料から搾ったものです」
1日に1000トンの原料を処理する6杜の製品が87%を占める日本の食用油市場だが、そうした大手製油所で原料のGM対策を講じているところはない。その理由を米澤製油社長の森田さんはこう語る。
「そんなことに手間をかければ生産性が落ち、コストもかかって採算が合いませんし、原料のタンパク質が製品には残留しないから問題ないとの考えからでしょう。GM対策は当社のような規模の工場だからできるんです。さらに、製造工程で合成化学薬品を一切使わず、不純物を湯洗いで除去しているのも私たちの誇りです」
1968(昭和43)年、製造工程で使われたポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入した北九州市の企業が製造した食用油が「カネミ油症事件」を引き起こした。米澤製油はそうした惨事を二度と繰り返すまいとの精神を半世紀近くも堅持している。
◆なたね油 かんたん活用レシピ
台所で簡単にできる、なたね油の加エレシピ。「なたね油を食べる」というような感覚で、こんな楽しい使い方があります。
米澤製油のなたね油に、バジルやニンニク、ハーブなどを取り合わせてソースや調味油として作り置きすると重宝します。
季節の野菜に付けたり、朝食の卵料理に利用したり、ドレッシングのベースにしたりなど、メニューの幅がぐんと広がります。
なたね油はさらっと軽く、くせがないので、ソースや調味油にして肉、魚、野菜などを調理しても、素材のうま味を生かした風味に。
ソースや調味油にしたものは冷蔵庫で保管しますが、固まりにくく、手軽に使えるのもうれしいですね。
◇なたね油のグリーンソース
【材料】
なたね油…100cc、生バジル…60g、ニンニク・‥1片、パウダーチーズ…30g、塩…小さじ1
【作り方と利用法】
1.なたね油、ニンニク、パウダーチーズをミキサーかフードプロセッサーにかけて細かくする。
2.バジルと塩を1に加え、ペースト状になるまでさらに細かくする。
*夏らしいソースで魚介類にぴったり。そのままパンに塗ってトーストで。カレー粉(大さじ3)とココナッツミルクと塩を加えるとグリーンカレー(2人前)にも。
*冬はバジルのかわりにホウレン草を活用すると、さらにうま味のあるソースに。しゃぶしゃぶ鍋やふろふき大根のたれにも利用でき、ぜひ一度は試してほしいレシピ。
◇ミニトマトのハーブオイル漬け
【材料】
ミニトマト‥15個、なたね油…ミニトマトがかぶる量、ミックスハーブ…小さじ1、塩・‥小さじ1、こしょう…少々
【作り方と利用法】
1.ミニトマトを洗い、水気をふき取り、保存容器に入れ、ミックスハーブ、塩、こしょうを入れてまぜ合わせ、ミニトマトがかぶるまで、なたね油を加える。
*ミニトマトはそのまま食べられる。漬け油は、手作りのドレッシングや冷製パスタ、魚介や肉などの料理に幅広く利用できる。
◇なたね油&ゆずこしよう
【つくり方・利用法】
なたね油とゆずこしょうを小皿にとり、まぜながら、大根やニンジン、キュウリなどの野菜につけて食べる。
企画・構成/ブルーム企画(撮影/青木左干子、レシピ/田中友紀子)
『生活と自治』2013年6月号の記事を転載しました。