2年目をむかえた生活クラブの甲状腺検査活動
生活クラブは2012年度から福島県と他の地域での子どもの健康に対する放射能の影響を比較検討するため、各地で甲状腺検査活動をすすめています。2013年度は全国で約700人の組合員の子どもが受診をしました。その検査結果がこのほどまとまり、7月に報告会を開催しました。(2014年8月5日掲載)
2013年度は702人の子どもが受診
5月に行なわれた福島県の「県民健康調査」検討委員会によると、東日本大震災当時に18歳以下の福島の子どもたちのうち、甲状腺がんもしくは疑いの子どもの数は89人にのぼるとされています。
生活クラブは福島の復興支援について子どもたちの健康を守るための支援活動が最重要課題のひとつと捉え、2012度から「福島の子どもと知る権利を守る活動」として各地の生活クラブで甲状腺検査活動をすすめています。これは福島県が行なっている甲状腺検査に対し市民自らの手で検査活動を行なうことで結果を比較し、実態を知って予防対策に役立てるとともに、県などによる情報管理や操作を監視するねらいがあります。
2013年度も北海道から兵庫まで全国の生活クラブ*で702人の子どもが甲状腺検査を行ない、その報告会が7月に東京で開催され約70人が集まりました。(*ふくしま単協は2014秋以降の実施を予定)
集会では生活クラブ連合会の渡辺繁美企画課長が「甲状腺検査活動は、組合員から寄せられた『復興支援カンパ』を財源としています。2013年度に検査した702人のうち、2012年度からの継続者は329人でした。また検査に協力いただいた医師は69人で、新たに協力のあった医療機関は23ヵ所ありました」と話し、スクリーンを使って検査結果の概要を報告しました。主な事項は以下のとおりです。
1-1 のう胞(水胞)の所見率(2013年度受診者全体)
- 生活クラブののう胞ありは、全体の52.7%(370件)でした。
- 福島との比較では、福島ではのう胞なしが52.24%、生活クラブ47.36%で、生活クラブの方が所見率が高くなっています。
*福島のデータは、第3回「県民健康調査」検討委員会(2014年5月19日)資料を使用
1-2 のう胞の所見の変化(2012年度からの継続受診者329名)
- 2012年度にのう胞の所見がなかった159件のうち、2013年度に新たに発生したのは35件です。発生したのう胞のサイズはすべて5mm以下でした(サイズ不明1件)。
- 2012年にのう胞の所見があった170件のうち、2013年度の所見でサイズが拡大したのは77件、縮小は58件、変化なし16件、消滅は19件でした。
2-1 結節(しこり)の所見率(2013年度受診者全体)
・ 生活クラブの結節ありは、全体の3.4%(24件)でした。
・ 福島との比較では、福島では結節なしが98.74%、生活クラブ96.72%で、生活クラブの方が所見率が高くなっています。
*福島のデータは、第3回「県民健康調査」検討委員会(2014年5月19日)資料を使用
2-2 結節の所見の変化(2012年度からの継続受診者329名)
- 2012年度に結節の所見がなかった315件のうち、2013年度に新たに発生したのは8件です。発生した結節のサイズは8mm以下が7件、14mmが1件でした。
- 2012年度に結節の所見があった14件のうち、2013年度の所見でサイズが拡大したのは1件、縮小は3件、変化なし0件、消滅は10件でした。
*くわしくは「2013年度生活クラブ生協甲状腺検査活動報告書」をご覧ください(PDF)。
検査の継続で被ばくと甲状腺疾患の関連を明らかに
私たちの甲状腺検査活動を監修する道北勤医協・旭川北医院院長の松崎道幸さんは、「のう胞・結節とも生活クラブの所見率が高かったのは、福島の県民健康調査に比べ検診の精度が高いことが考えられます」との見解を述べるととともに、2年間検査を継続するなかでの所見の変化や活動の意義を次のように語りました。
「これらの所見は子どもたちの甲状腺に生じた1年間の変化をダイナミックに明らかにしたもので、他に例を見ない貴重なデータといえます。これから2順目をむかえる福島の県民健康調査を解釈するうえで基礎的資料となるでしょう。この検診を継続することにより、子どもの甲状腺ののう胞や結節の自然歴が明らかになり、より適切に検診結果を解釈することができるようになると思います。東京電力福島第一原発事故による放射線被ばくと甲状腺疾患の関連は、4年目を迎える来年度以降により明確に現れるといわれてきました。生活クラブによる甲状腺検査活動は被ばくと甲状腺疾患の関連を明らかにし、適切な対策を提案するうえで極めて有用で、継続する意義は大きいと考えます」
一方、関東で甲状腺検査を実施した神奈川北央医療生協・さがみ生協病院・医師の牛山元美さんは「がん登録高精度地域(宮城・山形・福井・長崎)の2007年の15歳から19歳の甲状腺がん発生率が10万人に1.7人なのに比べ、福島の県民健康調査では18歳以下の甲状腺がん発生率は31.1人以上となり、実に18倍にもおよびます」と指摘しました。この点については松崎さんも「政府は放射線被ばくによって病気になるリスクを1桁小さく見積もっているのではないか」と批判しています。
また生活クラブふくしまの土山雄司専務理事は「チェルノブイリ原発事故で被ばくしたベラルーシでは成人の甲状腺がんが増えているという論文があるので、福島でも18歳以上の甲状腺検査をすべきです」とし、他の市民団体とともに今後も県に対して提案を行なっていくと話しました。
生活クラブは今年度も各地で、組合員の子どもを対象とした甲状腺検査活動を続けていきます。