全国の木・竹生産者とともに 木のある暮らしをお届けします(酒井 慶太郎さん)
酒井産業(株)は、長野県の中心より南、木曽谷の北の入り口にあります。地元の木曽平沢は漆器の産地として400年の歴史があり、また、同じく奈良井宿は、江戸から京都までを結ぶ中山道の宿場として栄え、今も多くの方が訪れる人気の観光地であります。
そのような中、酒井産業も先代までは漆製品のみを生業とした生産者でした。40年ほど前、現社長が代を引き継いだ頃から漆器の素地でもある「木」にこだわりを持ち、漆器に加え、木製品全般を扱う生産者に変わり、現在では、主に家庭で使われる木・竹製品を製造する産地のまとめ役となりました。連携する生産工場は、今では、北海道から九州まで100工場を上回ります。実際に利用される生活者の声を生かし、ものづくりを考え、素材を吟味し、適任の加工工場を選定し、年間の生産スケジュールを管理し、最終的にものづくりを完成させることがわが社の仕事になっています。
生活クラブとの出会い
1978年、私が10歳のとき、現社長に連れられて長野から初めて東京に出てきたのが、日本武道館で行なわれた生活クラブ東京の10周年記念式典でした。初めての上京でしたので、よく記憶に残っています。その頃、生活クラブとの提携が始まったと聞いています。以降、産地見学会などを行ない、関係を深めてきました。国内の多くの木・竹生産工場が時代とともに消えてゆくなか、生活クラブとの連携を通して、酒井産業の木・竹生産者グループは生き残ることができています。
年に一度、木曽で酒井産業の全国木・竹生産者グループの集いの会が行なわれます。生活クラブとの木育(もくいく)や木づかい運動への取り組み報告は、生産工場の人たちにとっても励みになっています。生産工場の後継者不足が心配されるなか、ここ数年で、息子さんが後継者として戻ってきたという嬉しい話が何件も出てきています。ほんとうにありがたいことです。生活クラブのお陰と感謝しております。
木育との出逢いと木のおもちゃ
わが社の社長が、東京の方と会食していたときのことです。その方のお住まいに木材がどのくらいあるかという話になりました。「まな板は黒い樹脂のシート、お箸もお椀もプラスチック製、お風呂場にも湯桶もスノコも木製品はないよ!」とのことでした。マンションの床にはカーペットが敷きつめられ、壁は大壁工法という柱の見えない造り。唯一、冷蔵庫の中の友人から届けられた蒲鉾の板が木製品だったそうです。木を使わない側と木でしか生きられない側が向かい合い、苦笑いしか出なかったそうです。
木曽に戻っても、社長はそのことが頭から離れませんでした。木のある暮らしはもう古いんだな。そんなふうにも考えてしまったようです。ところが、親しくしている大学の教授が関係した実験の話を聞いて、考えが変わりました。
実験というのは、大学生のグループに木の部屋と、そうでない部屋に入ったときの感想を聞き取り、集約するというものです。そのなかで、スギやヒノキの香りを臭いと感ずる学生がいることが判明しました。さらに調査すると、幼い頃に嗅いだことのない香りだという回答でした。
スギやヒノキの香りは古くから日本人に好まれていると考えていましたが、どうやらDNAに刷り込まれていたのではなく、そう感じるには、幼少期の実体験での刷り込みが必要だったということです。スギやヒノキは、香りに強い個性があります。幼少期に刷り込まれた木の香りは、時間が経ってもその頃の記憶と重なり蘇ります。木の香りをかぐと何ともいえない懐かしさや心地よさを感ずるのは、木の香りとともに幼少期の甘い想いが鮮明に思い出されるのかもしれません。
ちょうどその話を聞いた2007年頃、林野庁から「木育」を進めるための協議会を立ち上げるので、オブザーバーとして参加してほしいという依頼がありました。オブザーバーとして木育推進会議に参加するなかで、わが社が今、やらなければならないのは、木育だ、小さな子どもたちに強制的にでも木に触れる体験を与えることがわが社の大切な役割だと、強く思うようになりました。
生活クラブはそんな私たちの想いを受け止め、生まれた子どもへの木のおもちゃのプレゼントや、木育えほんの制作にも即座に取り組んでくれました。木のおもちゃについては、毎年カタログを作り、生活クラブ連合会のHPを通して申し込めるようになっています。2015年度版もできましたのでぜひご覧ください。2013年には木育絵本『木とあそぼう! もり うみ こども』が発行されました。これも連合会HPに掲載されています。
日本の森林を守るために、国産割り箸を使ってください
もうひとつお伝えしたいのが、「割り箸の不買運動」についてです。割り箸は森林破壊につながるからと、割り箸の不買運動をしている方もいらっしゃるでしょう。その98%は正解なのですが、残り2%には大きな誤解があります。問題なのは輸入割り箸であって、国産材の割り箸はむしろ使う必要があるからです。
国内の割り箸消費量は、年間約200億膳。国民1人あたり、ざっくり年間200膳を使っている計算になります。このうちの98%が輸入割り箸で、2%が国産割り箸です。この98%の輸入割り箸の材料のなかに違法伐採された木材が含まれています。また、輸送用のコンテナの中でカビが発生しないように、防カビ処理が施されているものが一般的です。色目を白くするために、漂白している場合もあります。国産割り箸は、そのような加工を施しているものはありません。だから、98%は正解です。
国産割り箸は、建築用の柱材を加工するときに出る端材や、山の手入れをする際に、間伐や枝打ちで出る不要な木材を利用しています。
森林破壊が進む他国の森林とは事情が異なり、日本の森林は、戦後、植林された人工林が伐採適齢期を迎えているのですが、使われないままになっているものが多いのです。このまま伐採しないと森林が過密状態になり、幹が太くならず、雪の重みや台風などで倒壊する危険性が高まります。ただ、伐採するには費用がかかります。端材を少しでも付加価値のある割り箸に活用することで、その収益を山の作業に循環させることができるのです。山を守るためにも国産の割り箸はぜひ使ってください。もちろん、輸入割り箸の不買運動は継続しましょう!
漆の可能性についてもご紹介したかったのですが、またの機会といたします。ご興味のある方は、ぜひ、生産者交流会の折りなどにお声をかけてください。皆さんと木や森に関わる実情や課題を再認識し、解決に向けたお話ができるとうれしいと思っています。
今後とも末永く、日本各地の木・竹生産地をよろしくお願い申し上げます。
(2015年8月掲載)
※掲載時期によりパッケージが現在のものと異なる場合があります