千葉忠夫氏講演会─格差と貧困のないデンマーク 世界一幸せな国の人づくり
生活クラブ連合会・共済連主催の「2016年 協同組合の旅」は、国民の85%が自分たちは幸せだと感じているデンマークへの視察を行ないました。この旅で出会った、デンマーク・ボーゲンセ市在住の千葉忠夫さん(N.E.バンクミケルセン記念財団理事長、日欧文化交流学院学院長)の講演会が、5月21日に東京・世田谷の生活クラブ館で開催。51人が参加しました。
千葉さんは、1967年に社会福祉が充実した国が北欧にあると聞き、その実態を学ぼうと単身ヨーロッパに渡りました。デンマークで社会福祉の実践を学び、社会福祉の現場活動に従事しました。70年代に「ノーマリゼーションとは知的障がい者の生活条件を可能な限り知的障がいを持たない者(普通の人)の生活条件に近づける」ことだと言うノーマリゼーション実践提唱者であるバンクミケルセン氏と出会い、師と仰ぎ、1991年にはN.E.バンクミケルセン記念財団を設立しました。また、1997年に日欧文化交流学院を設立し、日欧文化交流のためのさまざまな活動も行なっています。
民主主義を体得する教育制度
デンマークは面積43,09平方キロメートル(山梨県くらい)、人口約558万人の小さな国ですが、総選挙投票率は86%と政治への関心が高く、一人当たりGDPは世界第8位です。農業や酪農が盛んな農業大国でもあり、高齢化率17.8%、出生率は1.73です。
福祉国家デンマークの基盤は民主主義を体得する教育にあります。デンマークの教育は無償で、図1のような教育制度になっています。幼児、児童は国の大事な資源だという考え方に基づき、0~3歳は保育園または保育ママが自然な発達に沿って養育します。4~6歳は自由に遊ぶことを一番大切にして成長を見守り、さまざま体験をするカリキュラムも用意されています。その次の0年生を設け、自由に遊んでいた子どもたちが社会性を身に付け集団生活ができるようにします。7~16歳が義務教育で、子どもたちには教育を受ける権利があります。国民学校では学習内容の把握を確認するテストはありますが、点数を競う試験はありません。その後の進路は高等学校、職業専門学校があり、それぞれ興味のある分野に進めるようになっていて、学歴社会とは無縁の教育が行なわれています。
▲図1
現在、デンマークの福祉施設の現場で勤務する若い生活指導教諭たちはノーマリゼーションという言葉を知らない人がほとんどです。社会福祉が発展し定着すると「福祉」という言葉が消滅し、高齢者、障がい者が特別な存在ではない暮らしになっています。
デンマークの消費税率は25%で、所得税は40~60%です。税金の使い道は図2のようで、一般的には高福祉高負担と言われますが、「高福祉高税」で国が国民の生活を保障する制度になっているのです。その他、女性の就業率や政治参加が高く、汚職率が世界一低く、Green Nation (再生可能エネルギー)が普及しているなど、デンマークは世界一幸せな国です。
▲図2
社会福祉国家への方程式
日本を住みやすい国にしたいと考える参加者たちに、千葉さんは日本を幸せな国にする方程式「幸せな国=○○○○」を一緒に考えましょうと提案しました。
「差別がない国」「貧しくない」「子どもがいきいき暮らす」「自分の存在が認められる」「健康である」「戦争をしない」など、参加者全員が発言し、どれもが正解だと千葉さんは言いました。そして、幸せな国=安心して生活できる国で、ゆりかごから墓場まで一生の生活が保障されている国です。それは弱者だけでなくすべての国民の暮らしが保障される社会福祉国家であり、「真の民主主義国家」だと言います。
その「真の民主主義国家」を実現するためには、「自由」「平等」「博愛(思いやり)」が必要です。しかし、今の日本には真の自由、真の平等、真の博愛がありません。真の民主主義が存在しない国は幸せな国にはなりません。その実現のために、女性の政治参加を高め、教育改革を進め、労働環境を改善するなどさまさま活動が必要だということも参加者と一緒に考えました。
最後に、「日本の未来のために真の民主主義を勝ち取らなくてはなりません。仲間と連帯し行動を起こし、闘わなければならないのです」と、千葉さんはエールを送りました。
【2017年6月6日掲載】