「脱原発と自然エネルギー社会を展望するフォーラム」から見えた未来
世界では今、自然エネルギーの発電コストが下がり、自然エネルギーによる発電へ、大幅なシフトが起きています。一方日本では、自然エネルギーによる発電量は増加しているものの本格的なシフトがすすんでいないのが現状。そんな中、生活クラブでは2014年に(株)生活クラブエナジーを設立し、自然エネルギーから生まれた電気の共同購入で、持続可能な社会の実現をめざす取り組みを始めています。
こうした動きをさらに広げ深めていくためのステップとして、2018年4月20日に、生活クラブの主催で「脱原発と自然エネルギー社会を展望するフォーラム」を開催しました。自然エネルギー中心の生き生きとした未来社会を展望する、充実したフォーラムとなりました。その様子を紹介します。
生き生きした未来を描くキッカケとしてのフォーラム開催
最初にフォーラムの主催者として(株)生活クラブエナジーの半澤彰浩代表取締役(生活クラブ神奈川専務理事)が挨拶。「減らす」「つくる」「使う」を柱とした生活クラブの総合エネルギー政策の策定(2013年)から5年、(株)生活クラブエナジーの設立(2014年)から4年、電力小売自由化(2016年)から2年、という足どりを振り返り、現在の「生活クラブでんき」の電力供給量が約5,000万kWh、組合員の契約者が約12,000人に及び、調達先の自然エネルギー発電所も55か所まで広がったことを紹介。このフォーラムをキッカケに、自然エネルギーを通じて今後どんな社会や未来を描いていけるかをさらにみんなで考えていきたいと挨拶しました。
風力や太陽光発電は低価格化。自然エネルギーへのシフトは世界の潮流(基調講演)
続いて、自然エネルギーを基盤とする社会の構築をめざして活動する、公益財団法人自然エネルギー財団の大野輝之氏より基調講演がありました。現在、世界では、風力発電、太陽光発電ともに設備容量が急増しており、2015年には風力発電が、2017年には太陽光発電が、それぞれ原発の設備容量を超えたとの紹介がありました。また、世界の自然エネルギー発電量は原発の約2倍もあり、そもそも原発の発電量が自然エネルギー全体の発電量を超えたことはないのだそうです。
自然エネルギー拡大の背景のひとつには、コストの低下が挙げられ、世界の多くの地域で太陽光や風力が火力より安価になってきている状況とのこと。また、拡大のもうひとつの背景として2015年の「パリ協定」が挙げられました。パリ協定は今世紀後半には温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする目標であるため、その最も有効な手段として自然エネルギーを大幅に導入することが必須で、世界の常識になってきています。しかし、日本は依然として化石燃料電力に依存しており、世界の歩みと大きく差が開いているそうです。そんな中でも、電力利用を自然エネルギーに切り替えていこうとする国内企業の動きなども出始めているとのこと。自然エネルギー拡大に向けての方策はいろいろあり、中でも、使う側から「自然エネルギーを使いたい」という声を上げていくことも大切だという提言がありました。日本国内ではまだ歩みが遅れているものの、自然エネルギーへのシフトは不可避かつ現実的・創造的な選択であることを確信させてくれる基調講演でした。
活発化する各地域での小規模発電の取り組み(パネリストの活動紹介)
フォーラムに先立ち、丸山康司さん(名古屋大学大学院環境学研究科教授)からは、「生活クラブでんき」について組合員に行ったアンケートの結果報告がありました。契約理由の分析とともに、今後生活クラブでんきを広げていくために必要なポイントの提言も。自然エネルギーによる電力を普及させていくためのヒントに気づかされました。
パネリストのうち「生活クラブでんき」の生産者の3名からは、それぞれの活動の紹介が。佐藤彌右衛門さん(会津電力(株)代表取締役)からは、会津電力の設立から現在までの経緯について話がありました。会津は昔から自給自足のできる豊かな土地柄。佐藤さんも、土地の米・土地の水を使った酒造りをしていましたが、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が起きたことで、エネルギーも自分たちの手で作らなければと痛感したそうです。「まず自分たちのところから少しずつ」という小規模分散型の発電所が多くでき、その中の雄国太陽光発電所が生活クラブエナジーに電気を供給しています。
千葉訓道さん(飯舘電力(株)取締役)は、飯館電力の目指すことと生活クラブへの期待を話しました。東京電力福島第一原発事故後、全村避難という事態になりながらも、飯館の土地を守り、将来村民が戻るときのための産業を創造したいという思いで5名の有志により飯舘電力を設立した経緯が語られました。避難解除から1年を過ぎ、ソーラーシェアリングによって発電と共に農業や畜産の復活の第一歩を踏み出しているそうです。
高岡敦子さんは生活クラブ都市生活の組合員で、組合員と地域住民による「住吉川小水力発電を実現する会」を2016年に立ち上げました。住吉川小水力発電の実現に向けて今まさに進行中の活動の様子を、写真も交えて紹介。活動の中で、住吉川流域には元々水車による産業の歴史があったことも詳しくわかってきたそうです。自然と共生した小水力発電という発電方法が、地域と密着した豊かな可能性に満ちたものであることが伝わりました。
遅れている日本の自然エネルギー分野でも確実な変化が(フォーラム)
フォーラムでは、コーディネーターの西城戸誠さん(法政大学人間環境学部教授)からの問いで、パネリスト5人が意見を交わしました。会津電力、飯館電力、住吉川小水力発電のような事例から、「今後の日本の再生エネルギー社会へのどんな示唆が読み取れるか」というテーマでは、自然エネルギー財団の大野さんより、世界では地域の小規模な電力会社が既存の大電力会社に影響を与えて、変革が起きていく例が多くあるとの話がありました。会津電力、飯館電力、住吉川小水力発電のような事例は日本の再生可能エネルギー社会の最先端であり、大企業がこれから追いついてくる状況ではないかということです。
また「これから自然エネルギーを選んでいく意味」として、パネリストからさまざまな意見が。「家族の健康を考えて食べ物を選ぶように、電気も安心して子どもに渡せるものを選びたい」「消費“させられる”消費者ではなく、生活者として主体的に選ぶ」「大量消費の時代ではない今、間に合う分だけ作って使うという分散型の発電の良さ」「農産物のように電気も“作った人・生まれる場所”に思いを向けてみる」などの視点が出され、会場にはうなずく人の姿が多く見られました。
「自然エネルギー分野の今後の展望」については、パネリストがみな、確実に変化が起きているという見方を示しました。日本では再生可能エネルギーへと向かう歩みは期待したよりは遅いのが現状。しかし地域電力や消費者はすでに動き始めていて、大企業や行政もやっと変わる時期にきたのではないかということです。飯館電力の千葉さんの「再エネビジネスの未来は明るい!と思ってます」との言葉に会場全体が笑いに包まれました。
地域の生産者と結びつき、自然エネルギー中心の持続可能な社会へ
最後に、この日会場に来ていた「生活クラブでんき」の生産者の方々がずらりと登壇。この生産者のみなさんが地域で作り出したエネルギーを、生活クラブの組合員が共同購入しています。「組合員が生産者と消費材をつくってきた歴史が生活クラブにはあり、それが自然エネルギーの分野でも強さになる」というコーディネーターの西城戸さんの言葉が実感できるような、壇上の光景でした。
フォーラムを通じて、自然エネルギーによる電力へのシフトが世界的な潮流であり、それは脱原発のみにとどまらず、地域の資源を活かしながら地域の経済を活性化し、持続可能な社会を形づくっていく試みであることが共有されました。生活クラブは今後も、「生活クラブでんき」の共同購入をはじめとした取り組みを続け、「持続可能な生産・消費・暮らしのできる低エネルギー社会」の実現をめざします。
【「脱原発と自然エネルギー社会を展望するフォーラム」主なプログラム】
■主催者挨拶
半澤彰浩((株)生活クラブエナジー代表取締役/生活クラブ神奈川専務理事)
■基調講演
<テーマ>「自然エネルギー100%に向かう世界と日本」
公益財団法人 自然エネルギー財団 常務理事 大野輝之氏
■フォーラム
<テーマ>自然エネルギーへの転換と地域社会づくり~「生活クラブでんき」を選択することでの社会転換の可能性
<コーディネーター> 西城戸誠さん(法政大学人間環境学部教授)
<パネリスト> 丸山康司さん(名古屋大学大学院環境学研究科教授)、佐藤彌右衛門さん(会津電力(株)代表取締役)、千葉訓道さん(飯舘電力(株)取締役)、高岡敦子さん(生活クラブ都市生活/住吉川小水力発電を実現する会)、大野輝之さん(公益財団法人 自然エネルギー財団 常務理事)
【2018年5月14日掲載】