まるごと栃木「生産者を訪ねる旅」を開催! 10年以上続く生産者同士のつながりを実感
栃木県は牛乳や米、野菜、牛肉、豚肉など、生活クラブと提携する生産者が多数いる重要な産地です。2008年に生活クラブは生産者とともに「まるごと栃木生活クラブ提携生産者協議会」(以下、「まるごと栃木」)を発足しました。これは生活クラブを通じてつながる生産者が協調して、地域の活性化や国内自給力のアップに取り組むことを目的とした協議会。メンバーは栃木県開拓農協(牛肉・野菜)、箒根酪農協(牛乳)、新生酪農株式会社(牛乳)、JAなすの(米・野菜)、どではら会(米)、生活クラブ栃木、生活クラブ東京、生活クラブ連合会の8団体です。
2018年9月22日、「2018年度まるごと栃木『生産者を訪ねる旅』」が開催され、東京・茨城・栃木・群馬の生活クラブ組合員とその家族など61名が3つのコースに分かれてバスで農場などを巡りました。
生産者の取組みを「まるごと」学べる交流会
「まるごと栃木」では10年にわたり、生活クラブと生産者がお互いに意見を出しあいながら、さまざまな取組みを行なってきました。その一つが米や野菜を育てる農家と、豚や牛を育てる畜産農家・酪農家との「耕畜連携」です。たとえば米農家が飼料用米や飼料用イネを育て、畜産農家や酪農家へ供給。それを食べた家畜の排せつ物を堆肥にして米・野菜農家へ供給します。また、この循環の中で生産される米、野菜、牛乳、肉などは生活クラブで消費していきます。こうした地域資源を活用した生産と消費のモデルを構築することで、飼料の自給力アップを実現し、安定した食料の生産へと一歩前進しました。
開会式では「まるごと栃木」の会長を務める栃木県開拓農協の稲見建夫さんから「それぞれの生産者のもとを期待しながら回ってほしい」との挨拶があり、北東京生活クラブの理事木村香さんからは「ふだん食べている消費材の産地を訪れる貴重な機会に恵まれたことがうれしい」と、見学を待ち望んでいたことを話しました。
お昼は米も肉も野菜もすべて栃木産の「まるごと栃木」弁当
食べてくれる人がいるから続けられるさまざまな取組み
新生酪農でリユースびんの洗浄工程を見学
今回のツアーでは、バスにのって組合員が各生産者を訪ねます。3コースの内、生活クラブ東京の皆さんが巡ったコースの様子を紹介します。
<新生酪農株式会社 栃木工場 (提携消費材:パスチャライズド牛乳)>
生乳が工場へ運び込まれ、容器に充填されるまでの工程を工場の中をまわりながら説明を受けました。生活クラブでは生乳の品質や牛が食べる飼料にも独自の基準を設けています。しかし、組合員の飲む量は減ってきているのが実情です。新生酪農の池澤章洋さんから「生活クラブで消費しきれなかった生乳は他社へ販売しています。生活クラブの皆さんと一緒に作ってきた牛乳なので他社への販売はできるだけしたくない。そのためには、もっと牛乳を飲んでほしい」との要望がありました。
<JAなすの どではら会(提携消費材:黒磯米)><栃木県開拓農協 (提携消費材:レタスなどの野菜)>
どではら会の副会長を務める相馬岩利さんの農場を訪問し、収穫した米を乾燥、選別する様子を見学しました。米の栽培には「まるごと栃木」でつながった畜産農家の堆肥を使用し、化学肥料を減らす努力をしています。
また、一年を通じて野菜を生活クラブに供給する栃木県開拓農協の西野入農園でも、同じく堆肥を使用。化学肥料や化学合成農薬をできる限り削減し、環境にやさしい農業をめざしています。出荷目前のレタスを試食した組合員からは「こんなにレタスを甘いと感じたのははじめて!」と驚きの声。子どもたちもうれしそうにほおばっていました。
西野入農園で採れたてのレタスを試食
<栃木県開拓農協 喜連川ファーム(提携消費材:豚肉)>
株式会社平田牧場の「日本の米育ち 三元豚」を育てる喜連川ファーム那須牧場では、車窓から豚舎を見学。車内で育て方などの説明を聞きました。「休みの少ないたいへんな仕事ですが、30~40代の若手が頑張っています。組合員のみなさんには食べることで応援してもらいたい」と生産者の酒井浩太さん。喜連川ファームでは以前は大量に出る排せつ物の処理に手を焼いていましたが、「まるごと栃木」により堆肥としてうまく循環するようになったそうです。
<栃木県開拓農協 株式会社イソシンファーム(提携消費材:牛肉)>
最後の訪問先は肉牛を育てる株式会社イソシンファームです。新生酪農の提携酪農家の乳牛から生まれた雄の子牛や、乳牛と黒毛和牛の交雑種を肥育。「栃木開拓牛」や「ほうきね牛」を生活クラブに届けています。肥育牛は家畜市場で子牛を購入するのが一般的で、地域内で取引きをしている事例は全国的にもめずらしく、実現できたのは「まるごと栃木」があったからこそ。栃木県開拓農協の藤田幸仁さんからの「食べる口を増やし、若い働き手のこれからを応援してほしい」とのメッセージで見学が締めくくられました。
イソシンファームの牛舎で
食にとどまらない新たな関係の構築をめざします
那須連山のふもとには広大で肥沃な大地が広がります
生活クラブ東京の副理事長の増田和美さんは「1988年に野菜の共同購入からはじまった栃木との関係は、組合員が訪ねるだけではなく、生産者を“迎える”交流会も開催しながら続いています。『耕畜連携』にとどまらず、ハンディキャップを持つ方々が農業に従事する機会をつくるなど、新しい取組みがどんどん行なわれています。実際に産地を見ることは、本を読むだけでは分からない良さがあります。生産現場を知って消費材をもっと好きになってもらう機会になったらうれしいです。また、今回参加した皆さんと一緒にこの経験を色々な人に伝えていきます」と述べました。
これまで「まるごと栃木」プロジェクトは、生産者同士が連携して地域が抱えるさまざまな問題を解決してきました。これからもその関係を持続させることが大きな目標です。現在、生活クラブがすすめる「FEC自給ネットワーク」※づくりも進んでいます。太陽光発電所の建設や空き家の対策など、プロジェクトはさらなる発展をめざしていきます。
※生活に欠かせない「食(Food)」「エネルギー(Energy)」「福祉(Care)」のしくみを自分たちでつくりだす社会をめざす構想。内橋克人氏(評論家、旧2012国際協同組合年全国実行委員会・委員長)が提唱。
【2018年10月22日掲載】