【放射能検査なるほどコラム】教えてハカセ!① 人と「放射能」の関係って?
今回から不定期にお届けするシリーズ、「教えてハカセ!」がスタートします。最新のニュースやトピック以外の、放射能についての基本的な事柄を、生活クラブのハカセ(博士(工学)/専門分野は環境科学と安全工学)に教わります。知りたいことや素朴な疑問、どんどんぶつけますよ!
まずは、人にとっての「放射能」ってどんな存在だろう?というあたりから。
150億年かけて放射能が減った世界だから
人間は生きられる
---放射能って天然にあるものですよね?いつからあるんですか?
宇宙ができた150億年前からあります。宇宙ができたときは、宇宙は放射能だらけでした。放射能には半減期(放射線を出す能力が半分になるまでの時間)があり、半減期の短い放射能からどんどんなくなっていって、150億年経って天然の放射能がここまで少なくなった世界だからこそ、今、生き物が住めていると言えます。
逆に言うと、宇宙誕生以来150億年かけても消えずに今まで残ってきた天然の放射能は、人間の生きる短い時間の中でなくなることはほぼありません。天然のウランや天然のカリウムといった放射能は、私たちの住む地球からはなくなることはないのです。
人工的な核分裂で
強い放射能が多量に作られるように
---天然の放射能と人工的な放射能は、どのように違うのでしょうか?
ウランなどの天然にある放射能は、仕方のないものとしてそれから逃れながら生きる工夫をすればよいわけです。しかし悪いことに、人間は人工的に放射能を作り出してしまいました。元々自然にあるウランの放射能などは大した量ではないのですが、そのウランを核分裂させると、非常に放射能の強い核分裂物質ができます。そのひとつがセシウム134やセシウム137やストロンチウムですが、これらは元々のウランに比べるとすさまじく放射能が強いのです。核分裂を起こさなければ天然にある元々の放射能を増やすことにはならないのですが、人間がわざわざウランに中性子を当てて核分裂を起こした結果として、多量の核廃棄物ができて、処理に困っているような状況が生まれてしまっています。まして、爆発が起こってしまった東京電力福島第一原発のような状況では、管理できない状態となり、多くの人を苦しめることになってしまうのです。
---核分裂というのはどのような仕組みで起こるんですか?
原子を構成する「原子核」は陽子と中性子でできています。陽子と中性子の組み合わせによって、安定した原子核・不安定な原子核がありますが、不安定な原子核は、分裂して別の原子核になろうとします。これが核分裂の基本的な仕組みです。
人工的に核分裂を起こす場合で言うと、例えばウラン235というのは92個の陽子と143個の中性子でできているのですが、これに中性子を当てて、236個のつぶつぶをぐにゅっと2つ(もしくは2つ以上)に分けるわけです。そのときにその2つが何個ずつのどんな原子核にそれぞれなるかは、分かれてみないとわかりません。こうして核分裂の中では、ありとあらゆる種類の原子核が生まれます。
【核分裂のしくみ】
1.核燃料になるウラン235は、92個の陽子(黒)と143個の中性子(白)でできています。
2.陽子は中性子で結びついて1つの原子核になっています。
3.ウラン235の原子核に、外から中性子がひとつ入り込むとウラン236になります。しかし、これは不安定ですぐに割れてしまいます。
4.ウラン236は核分裂して、たくさんのエネルギーと数個の中性子を放出します。この中性子がさらに別のウラン235に入り込んで、核分裂が連鎖します。
人の手で増やした放射能が人の生活をおびやかす
---放射能で特に問題となる核種は?
核分裂で生まれる原子核の中には、すさまじい放射線を出しながらミリ秒、マイクロ秒といった短い半減期であっというまに崩壊して消えてしまうものもあれば、少しずつ放射線を出しながらゆっくり何億年もかけて崩壊していくものもあります。そうしたさまざまな種類の原子核の中で、半減期が数年から数十年で、そこそこ放射能が強いものが人間にとって影響力が大きい厄介な存在となります。セシウム134(半減期2年)、セシウム137(半減期30年)、ストロンチウム90(半減期29年)などがそれにあたります。クリプトン85(半減期10年)といった放射性物質も生成されますが、これはガス状で他の物質と化学結合しない性質を持つため、どんどん空気中に上って薄まってしまい、あまり問題にされません。
---人間と核のエネルギーの関係をどう考える?
天然に存在するウランを使って核分裂を起こし、大きなエネルギーを得ることを人類が始めたのは、第二次世界大戦中のことです。まず作ったのは原爆、そのあとに原子力発電ですが、核分裂反応を使うという意味ではどちらも同じです。どちらもすさまじく放射能を増やす装置なので、原料であるウランの元々の放射能よりも原爆が爆発した後の放射能のほうが多いし、燃料のウランの放射能よりも原子炉の使用済み核燃料の放射能のほうが多いのです。
放射能は全部危険なものであって、安全な放射能というものはありません。一部で体によいなどとされるラジウム温泉も、微量の放射線を浴びるものであり、安全とは言えません。放射能は体の遺伝子に対して損害しか与えないのです。
地球には太陽からたくさんエネルギーが降りそそぎ、自然のエネルギー源も複数あります。その利用を不十分にしたまま、危険な放射能を次々生み出し利用するようなことは、人は決してやるべきではありません。生活クラブでは、そのような考えから、再生可能な自然エネルギーを基本とした電気の共同購入を始めています。
【2016年8月29日】