【放射能検査なるほどコラム】生椎茸とレンコンに見る原発事故の影響と対策
2011年の東京電力福島第一原発事故で、もっとも大きな被害を受けた食品のひとつが、生椎茸やレンコンです。放射能による影響、その後の対策などについて、まとめてご紹介します。
原発事故後に
生椎茸やレンコンから高い数値が出た理由
きのこ類は元々、微量元素をたくさん吸収しやすいという性質を持った食材です。それが、滋養にあふれ栄養豊かな、きのこ類ならではおいしさにつながっています。ところが、福島第一原発事故による放射能汚染が起きると、その性質が仇となってほだ木などに吸着した放射性セシウムを集めてしまうことになりました。程度は違いますがレンコンも似た性質を持っています。そのため、生椎茸やレンコンは、事故直後には放射能検査で高い値が出ることもあったのです。(※1)
地元の山を守ってきた生椎茸栽培の
営みも原発事故が破壊
生椎茸に関して言うと、放射能汚染は、生椎茸そのものだけではなく、椎茸を栽培するためのほだ木にも及びました。実は、原発事故前までは、福島県は日本国内のほだ木の一大産地として知られる県でした。国内の生椎茸を栽培するほだ木の3~4割は福島県産だったほどです。しかし、原発事故の放射能汚染によってそれらの木がことごとく使えなくなってしまい、事故後は、生椎茸のほだ木の供給がひっ迫するという状況も起こったのです。
生椎茸の栽培には、「地元の山を守る」という側面もあります。生椎茸の生産に使うほだ木は2~3年で交換することが多いのですが、ほだ木のための木を地元の山から定期的に刈ることで、森林が手入れされ、野山の環境が維持されていきます。また、生椎茸の栽培に使ったあとのスカスカになったほだ木は舞茸生産の培地に適しており、崩して舞茸の菌床栽培に利用するというサイクルもできていました。ところが原発事故は、そういった地元の人たちが長い年月をかけて築いてきた農業や林業の営みを、一気に壊してしまったのです。ほだ木を刈ることがなくなったために荒れてしまった野山や雑木林が、今、福島県にはたくさんあるのです。
生活クラブ独自の基準で検査を徹底
放射能を減らすための活動支援も
生活クラブでは、「食べ物による内部被曝はできるかぎり少ないほうがよい」という考えのもと、原発事故の直後から放射能検査体制を作り上げ、まずは国の安全基準を超えたものを確実に出荷停止することを徹底しました。その中で、事故直後には、生椎茸やレンコンの供給中止の事例も生まれました。その後2012年に国の基準値とは別の生活クラブ独自の自主基準値を定め、2016年には自主基準値を大幅に引き下げました。生椎茸の新基準値は、国の基準(一般食品)の100Bq/kgの半分である50Bq/kg、レンコンは青果物の区分で25Bq/kg。国の基準よりかなり厳しい自主基準で運用しています。
また、生産者と共に、生椎茸の放射能セシウム低減化のためのトライアルも行っています。2015年から2016年にかけては、プルシアンブルー処理という方法で低減化をはかる実験を行いました。残念ながらこの方法による明らかな低減結果は得られませんでしたが、放射能汚染に立ち向かう生産者を支援する目的でつくられた生活クラブ独自の「生産者支援基金」によって、今後も生産者の取り組みを支援する活動は継続していきます。
組合員ひとりひとりが
食べるものを判断し選択するために
生椎茸・レンコン共に、供給後に自主基準値を超えて回収した事例はありませんが、出荷前に判明して供給産地を急遽変更する事例がときどき発生しています。検査結果はすべて公開しており、検出があった場合は検出値をわかりやすく示しています。自分が食べるものについての情報を知らないまま口にするのではなく、組合員それぞれが「何を食べるか」を自主的に選びとっていくために、検査の結果はすべて公開していくのが生活クラブの変わらぬ姿勢です。
東京電力福島第一原発事故により国土は放射能で汚染され、何の落ち度もない生産者と消費者が共に、「おいしくて安心な食品を生産し、食べる」という日常を理不尽な形で奪われることになりました。それまでに培ってきた農業のあり方をすっかり壊されてしまった地域や農家もたくさんあります。これらの苛酷な現状を原発事故が引き起こしたことは、今後も決して忘れるわけにいきません。
(※1)生活クラブの放射能検査での生椎茸とレンコンの測定値(不検出を除く)。
【2017年1月30日】