【放射能検査なるほどコラム】教えてハカセ! ⑤ 原発の再稼働の問題って?
福島第一原発事故から6年余り。過酷な事故の影響は今も色濃く、普通の暮らしを奪われたままの被害者も多数存在します。一方で、真剣な事故の反省もないまま、国内の原発は再稼働に向けて動いている状況でもあります。原発の再稼働の問題点について、あらためてハカセに聞いてみました。
再稼働に向け動いていく日本国内の原発
---現在(2017年7月時点)、日本国内の原発はどういう状況にあるのでしょうか?
現在、日本国内には70基にも及ぶ原子力発電所(廃炉と着工準備中を含む)があります。そのうち、2017年7月現在、5基の原発が稼働しています。伊方原発3号機(愛媛県)、川内原発1、2号機(鹿児島県)、高浜原発3、4号機(福井県)の5基です。
---2011年に東京電力福島第一原発事故が起こってから、原発がまったく稼働していないときもありましたよね?
そうですね。2013年9月15日から2015年8月10日までの約2年間は、国内のすべての原発は稼働していませんでした。そしてその間、電力不足になることはありませんでした。
---でも、現在は5基が再稼働しているんですね。それ以外の原発の状況は?
複数の原発が、原子力施設新規制基準に係る適合性の審査の申請をしていて、原子力規制委員会がその審査をしています。現状、原子力規制委員会が、対策工事をすれば新基準に適合すると判断した原発は7基あります。高浜原発1、2号機、大飯原発3、4号機、美浜原発3号機(いずれも福井県)、玄海原発3、4号機(佐賀県)の7基です。玄海原発は佐賀県知事が再稼働に同意し、今秋にも再稼働するといわれています。
---思った以上にたくさんの原発が再稼働に向けて準備中なんですね。
現在、適合審査中の原発も13基あります。着工中の原発が3基あり、さらに9基の建設計画があります。
出典:電気事業連合会図面集(2013)に補筆(2017.7.末現在)
参考:電気事業連合会 http://www.fepc.or.jp/theme/re-operation/
放射性廃棄物の処理方法があいまいなままの原発再稼働
---原発の再稼働には根強い反対もあると思います。再稼働の問題点としてはどのようなことがあるのでしょう?
そもそもの、原発という存在自体の問題点になりますが、原発の稼働によって生み出された放射性廃棄物の処理方法が確立されていません。原発で生み出された放射性廃棄物の多くは、その半減期を繰り返して減衰するのを待つしかなく、現在は、原発の敷地内や六ヶ所再処理工場の保管プールに保管されています。しかし、その保管場所は10年以内に枯渇するとされ、対応が必要です。
---どんな対応方法があるのでしょう?
日本では使用済み核燃料を再処理処分することにしています。再処理とは、使用済み核燃料をウランとプルトニウムと高レベル放射性廃棄物の3つに分ける作業のことです。しかし、1993年に建設開始した六ヶ所再処理工場は、相次ぐトラブルで今もなお操業を始められていません。使用済み核燃料の一部は、海外のイギリスやフランスの再処理工場で再処理されました。ごく一部が東海再処理工場でも処理されました。しかし、再処理で放射能が少なくなるわけではありません。ただ分別するだけです。
約95%を占める回収ウランは、不純物の放射能を含むため取扱いが難しく、現実に発電に再利用する目処が立っていません。電力会社は、この回収ウランを核燃料として資産計上していますが、本来なら処分費用がかかる核廃棄物に過ぎません。
---よく原発は「トイレのないマンション」と言われますが、放射性廃棄物の処理方法があいまいなまま、原発が稼働しているんですね、
一番の問題は、高レベル放射性廃棄物を1万年間以上安全に保持できる場所がないことです。地震国の日本にそのような適地があるとは思えません。はなはだ無責任な状態のまま、原発を稼動して放射能を量産していく。再稼働にあたって、この問題は何ら解決されていないのです。
実効性のある避難計画がないまま再稼働されている問題も
---再稼働にあたっての問題点は他にもありますか?
原発の再稼働は、原子力規制委員会が新規制基準に従って審査をしていますが、万が一の過酷事故発生の際の避難計画の策定は審査基準の対象となっていません。避難計画は、自治体任せになっているのが実情です。
---避難計画がきちんとできていなくても、再稼働の審査に適合とされることがあるわけですね。
原子力発電所を安全に運転するためには、万が一の過酷事故の場合に周辺住民を確実に安全に避難させるための避難計画策定は必須ですが、そこがおざなりにされており、福島第一原発事故の反省がまったく生かされていないと言わざるを得ません。
原発を稼働させることの危険性とは
---ところで素朴な疑問なのですが、稼働している場合と稼働していない場合では、原発の危険度は違うのですか?
定格運転中は、電力出力100万キロワットの原子炉は、330万キロワットの熱を出しています。例として150日後の使用済み核燃料(200万ワットの発熱があると考えられる)と比べると、1650倍の発熱量です。つまり、ごくざっくりとした計算ですが、原子炉を停止して150日後の使用済み核燃料と比べて、稼働中の原子炉には1650倍の多量の放射能があると推定できます。
このように、原発の稼働中は、半減期が短時間の放射能も含めて多数の放射性元素があり、放射能も発熱量も大きな状態ですから、稼働中の原発事故が最も恐ろしい事故です。緊急停止後の数分で、原子炉内の核分裂反応がすべて止まります。発熱量も半減します。その後の数時間で、発熱量はさらに半分になるといいます。
---なるほど。同じ量の核燃料だとしても、稼働中と停止中では事故が起こった場合の恐ろしさはまったく違うんですね。
ちなみに、福島第一原発は、地震の直後に緊急停止し、数日後に放射能を放出したため、半減期が短い放射能が消滅していました。東京電力は、放射性ヨウ素と放射性セシウムの合計(ヨウ素131換算値)で90京ベクレルを大気中に放出したと公表しました。今なお、多くの放射能が溶融デブリとなって、格納容器下部に堆積しています。
海外の原発の稼働はどのような状況か
---海外では、原発の稼働状況は現在どのようなものなんでしょうか?
アメリカ合衆国は、地球上でもっとも沢山の原発がある国です。現在、99基(合計出力約1億kW)の原子炉があります。これらはみな40年以上前に着工された古い原発で、今や次々と運転休止し、廃炉になっていきます。現在5基を新たに建設中ですが、2011年の福島第一原発事故で安全基準が厳しくなり、全体の建設コストが上昇するとともに、工期が遅れています。それと同時にアメリカ国内でシェールガスの開発が進んでいて、この安価な天然ガスを使った火力発電が急増し、原発のコスト競争力は相対的に下がっています。
※追記:8月1日にアメリカ合衆国で建設中の原発2基が建設断念されたと報じられました。
したがって、現在建設中は3基になります。さらに、別の2基も建設を継続するかどうかの判断を8月中にする予定になっていると報じられています。
フランスは、国策として原発を推進してきたため、58基の原発を擁する世界第2位の原発大国です。しかし、2011年の福島第一原発事故後、減原発を掲げるオランド大統領が当選し、2015年にフランス議会は、2025年までに全発電量のうち原発を約75%から50%まで削減することを決めました。2017年7月に仏環境相が、3分の1近くにあたる17基程度を閉鎖する見解を示しています。
ロシアは、欧州で広がった「脱原発」の動きを尻目に、原発推進の姿勢を崩していません。国営原子力企業であるロスアトムの元で、原発の建設を進めています。
韓国には、4か所に原子力発電所があり、そのうち2か所は日本海を挟んで日本のすぐ対岸に位置します。原子力技術を輸出する取り組みも進んでいました。しかし、新しい大統領は、原発新規建設計画を全面白紙化すると語り、脱原発時代を宣言しています。
ドイツ、イタリア、スイスなどでは脱原発の動きが見られます。ドイツは、原発8基の即時停止と2022年までの全廃を決定しました。イタリアは、国民投票の結果、反対票が9割超を占め、原発の再開を断念しました。スイスは、新規原発建設を停止する旨を発表し、2012年3月には一部稼働停止を決定しました。
---これまで原発推進だった国も、方向転換したりしているんですね。コスト高の問題もますますクローズアップされそうです。
原子力発電は不合理で不経済な発電方法
福島第一原発事故でその実態があらわになりましたが、やはり原発は不合理で不経済な発電方法です。使用済み核燃料の管理費や処分費、万が一の原発事故の損害を考えれば、原発が最も値段の高い発電方法と言わざるを得ません。「原発が安い」という喧伝は、本来原発の運転に必要な経費を小さく見積もっています。
原発は、地方差別の上に立地している装置であることも問題です。賃金格差のなかで被曝労働をする使い捨ての原発労働者を必要とする装置なのです。
---たとえ事故が起こらないとしても、被曝労働を前提に成り立っている発電方法ということですよね。
福島第一原発事故から6年余りが過ぎ、風化も心配される中、数々の問題に目をつむってここでなし崩し的に次々と原発の再稼働を許してよいのかということを、私たちはいま一度考えなければならないと思います。
生活クラブは脱原発社会に向けた取り組みを続けます
生活クラブでは、福島第一原発事故の発生以来、数度にわたり政府に要請や政策提案、パブリックコメントを行い働きかけしてきました。各地の原発再稼働反対のパブリックコメントや意見書も複数回提出しています。今後も、脱原発社会、持続可能なエネルギー社会に向けた積極的な取り組みを行っていきます。
【2017年8月1日】