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減反政策廃止で食料自給の危機 生産者と消費者で「命と暮らし」を守る仕組みを

東京大学大学院農学生命科学研究科教授 鈴木宣弘さん
国民1人当たりのコメの年間消費量は、1962年には118キログラムだったが、50年後の2012年には56キログラムまで減少した。この間にコメは需要と供給のギャップから生産過剰となり、政府は1971年から本格的な生産調整(減反)に踏み切った。この減反政策が2018年に廃止され、生産農家への「戸別所得補償制度*」も撤廃される。こうした農政の大転換がもたらす影響について、東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんに聞いた。
*戸別所得補償制度:米などの農産物の価格が生産コストを下回った場合に、国がその差額分を生産農家に補償する制度。

多くのコメ農家が経営困難に

来年、2018年からはコメの生産調整(減反)に関与しないと政府は宣言し、民主党政権時代の2013年から継続してきた農家への「戸別所得補償制度」の廃止を決めました。これがいわゆる「平成30年問題」です。
これまでは政府が強制力を働かせ、各市町村や農協と連携し、農家に配分を守ってもらうことで、目標とするコメの生産量を維持してきました。この方式を今後は採用せず、「コメを作りたい農家は自由に好きなだけ作っていいですよ」となったのです。戸別所得補償制度は減反への参加を条件に、主食用米を生産する農家に10アール当たり1万5,000円を政府が支払うものでしたが、政府はこれを2014年には7,500円に引き下げ、さらに2018年には0円にすると決めたのです。
いうまでもなく、農家が持続的なコメづくりに取り組んでいくには、生産コストに見合った米価が求められます。その役目を曲がりなりにも果たしてきた減反、過剰生産を抑制する機能を大幅に弱めるわけですから、本来は戸別所得補償のようなセーフティーネットを強化しなければならないはずです。

セーフティーネットなしの「自由競争」

そうでなければ、コメの生産量全体が野放図に増えた際の米価の激しい下落に農家は対応できず、経済的な苦境の果てにつぶれざるを得なくなる危険性が高まる一方です。その影響が真っ先に及ぶのが、コメを収入の中心とし、その生産量を規模拡大で増やしていこうと努力してきた意欲的な農家です。
農家のためのセーフティーネットとしては、2019年度から「収入保険制度」の導入が予定されています。過去5年間の収入の平均額を算出し、この金額と申告時点の収入との差額のうち81%を農家に支払う仕組みです。しかし生産調整をやめて自由競争が進み米価が下がれば、算定基準となる5年平均の基準額も下がる可能性は高いわけです。より低くなった基準額とより少なくなった所得との差額の8割を補てんしてもらっても、農家の経営が改善されるはずがありません。
もうひとつ、2006年度から施行された「農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律」で措置された収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)という政策も残っています。こちらも収入保険同様に5年間の平均所得を基準額として、申告時点での収入との差額の90%を農家に支払う仕組みです。その原理は収入保険と同じです。やはりセーフティーネットと呼ぶには不十分であり、これでは農家がもたないと、民主党政権が導入したのが戸別所得補償でした。これにより米価が生産コストを下回った場合には、その差額を政府が補てんするという欧米型の仕組みができました。それがまた、もとの木阿弥になってしまったのです。

生産コスト低減には限界がある

現在の米価は1俵(60キログラム)が1万3,000円から1万4,000円です。その生産コストは平均1万2,000円とされ、たとえ規模拡大を進めた農家でも容易に下げることはできません。というのも、日本のコメ農家の場合、地域のあちらこちらに点在する田んぼを寄せ集めての規模拡大にならざるを得ないからです。米国のように1つの畑が100ヘクタールというわけではなく、10アールの水田が何か所にもばらついている状態にあるわけです。これでは耕作にかかる手間暇は容易に合理化できず、コストカットを図るにしてもおのずと限界が出てくるのは当然なのです。

小規模兼業や家族経営の農家こそ食料生産の担い手

こうした日本農業の現状を度外視し、「ひたすら規模拡大を進めれば確実にコストは引き下げられ、米価も安くできる」「安いコメが手に入れば、消費者も喜ぶだろう」と規制改革推進論者は異口同音に訴えますが、まったくの眉唾話だと私は思っています。むしろ、事態は消費者にとって実に好ましくない方向に動いていく恐れがあるのが問題なのです。
規制改革論者は今回の減反廃止と戸別所得保障制度の縮小を「小規模な兼業農家を早く排除するための競争原理の導入」と断言していますが、小規模兼業や家族経営の農家こそ、日本の食料生産を支えてきた「強い担い手」であることが、まったくわかっていないようです。いまもコメづくりは赤字でしょうが、農業以外で得た収入から肥料代や機械代という生産コストを支払いながら、彼らは持続的な農業を営んでいるのです。
この人たちを農業の現場から退場させるなどという発想はもってのほかで、そんなことは不可能でしょう。しかし、こうした農家の力だけでは国民全体の食料確保はできません。だからこそ、懸命に規模拡大を進め、コメの生産量を増やす努力をしてきた農家をつぶすような政策を決して進めてはならないのです。彼らが経済的な苦境から離農するようなことになれば、日本のコメは安くなるどころか、消費者の手に入らないものになってしまうと私は憂慮しています。

食料生産の未来を守ることが政府の役割では

いまやコメの国内消費量は毎年8万トンずつ減っているとされています。「食」の洋風化や少子高齢化などの影響でしょうが、だからといって、日本のコメを守らなくていい、コメ農家を守っていくセーフティーネットは不要とする政治を認めていいはずがありません。国民の生命の源たる食料、その基軸となるコメの国内における持続的な生産を守っていく、このことこそが政府の最大の責務だからです。
ここ数年、農水省は食料自給率の向上を訴えなくなりました。自給率という言葉そのものが死語になったという印象すら受けます。現在の「食料農業農村基本計画」は食料自給率よりも、食料自給力が重要としています。不測の事態になったときにどうするかという計画があればいいということのようです。
それがまた、学校の校庭などにイモを植えて急場をしのげばいいという戦時中のような話になっています。農水省は本気で国民の食料や日本農業の未来を考えているのかという疑問まで湧いてきます。

いまや目前。牛乳が店頭から消え、いずれはコメも…

こんな農政の影響はコメだけでなく牛乳に顕著に表れています。もはや牛乳は足りないのです。どうにか飲用乳に回すのが精いっぱいでバターや脱脂粉乳の製造に使う原乳がほとんど出荷できなくなっているのが現実です。そこまで日本の酪農は疲弊してしまいました。
酪農には牛肉や豚肉とちがい差額補てんの仕組みがありません。この問題を放置したまま、日本政府は欧州連合(EU)との間でチーズの実質的な関税撤廃に合意しました。これは、国内の酪農にとって深刻な打撃となります。おまけに政府は原乳の価格を維持しながら販売する「指定団体制度」を解体しようとしています。この制度が各地で酪農を続けてきた家族経営の農家を守ってきたのです。このままでは小売店の売り場から飲用乳がときおり姿を消すという危機的事態が、来年には起こりうる、いや起こっても不思議がない状況に置かれています。
コメもそうです。規制緩和したり自由化したりして、「輸入で安くなったらいいじゃないか」と思っているうちに、国内の生産者が次第に姿を消していき、自分たちが食べる一番の基礎食料である国産のコメや牛乳・乳製品、畜産物が必要なときに買えない事態が目前にまで迫ってきています。

種子法の廃止でNON-GOM作物を選べなくなる

輸入農産物や食品には不安要素が多いという問題もあります。日本が輸入に依存している大豆やトウモロコシ、ナタネの大半は、その将来的な安全性に十分な確証が得られていない遺伝子組み換え品種(GMO)で、それを世界一食べているのが私たちなのです。GMOの開発企業は日本人が食べるコメや麦の遺伝子組み換えも計画し、その障害になる種子法を日本政府に廃止させたとの見立てまであるくらいです。そんな心配なものを食べたくないといっても、遺伝子組み換えではない作物(NON-GMO)を生産する人がいてくれなければ、私たちにはどうすることもできません。

消費者と生産者の力で「食」の未来を作ろう

いまも生活クラブ生協は頑張ってくれていると私は思っていますが、さらに多くの生協が生産者との強い提携関係の構築に努める意味は実に大きいと思います。日本の「食」の生産者と消費者がつながり、自分たちで自分たちの命を守る道を切り開いていくことが、何より求められているのです。いまのうちに生協が生産者とのネットワークを徹底的に強化拡大し、「本物」を生産する人たちをしっかりとグループ化していってほしいです。
「本物」とは人にも環境にもやさしく、動物にも、風景にもやさしいことではないかと私は考えています。この「本物」の基準を満たし、持続可能な社会のありように貢献する生産方法から生まれた「食」であるならば、私たちがしっかりと価格形成していきますというルールを「ミグロ」という生協がつくり、それを国のルールとして採用したのがスイスです。
スイスでは1個80円の国産鶏卵と1個16円の輸入鶏卵が同じ売り場に並んで売られていますが、多くの消費者が主体的に国産鶏卵を選び、その生産者を支え、国の食料自給率を高めていこうとしています。以前からスイスは憲法には食料自給率を維持すると書かれていましたが、近年、憲法を改正し、その姿勢を強化したと聞きました。どこかの国とは、政治家や官僚の姿勢がまったく違うのに感心せざるを得ません。国があてにならないなら、私たちは、消費者と生産者が一体となって、自分たちの力で自分たちの命と暮らしを守る仕組みを強化していきましょう。(談)

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