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需要高まる「国産木材チップ」 いま日本の森林と林業は?

九州大学大学院教授 佐藤宣子さん

日本の国土の67%は森林で、その総面積はフィンランドに次ぐ世界第二位の広さを誇る。そんな豊かな森林資源は山間地の人々の暮らしを支え、都市生活者にも恩恵を与えてきた。だが、戦後になると化石燃料が急速に普及し、木材供給も輸入に依存するようになった。その結果、国産木材の価格は下落し、林業者が激減する「林業衰退」が叫ばれるようになって久しい。

こうしたなか、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、東京電力福島第一原発の重大事故が起きた。その反省から原発にかわる新たな電力供給源として注目されたのが木材チップを燃料に使う「木質バイオマス発電所」だ。その全国的な広がりにより、国産木材への需要が高まるなか、政府は「林業改革」を掲げ、国産木材の普及促進の旗を振る。いうまでもないが、森林は木材の供給源であるばかりか、国土の環境保全という重要な機能を担っている。突発的な「ゲリラ豪雨」が頻発し、地球の気候変動による想定外の災害が全国各所での発生が伝えられるなか、いま日本の森林を取り巻く状況と林業の現状について、九州大学大学院教授の佐藤宣子さんに聞いた。

求められるのは「皆伐」ではなく、「間伐」なのに

全国で皆伐が広がり、ハゲ山も続出している。(埼玉県西部)

─―この間、国産木材の需要が高まっていると聞きました。

東日本大震災以降、原発に代わるエネルギーとして期待された木質バイオマス発電所が全国で広がり、森林資源を生かした木材の需要も高まっています。木材の需要の高まりは本来喜ぶべきことでしょう。しかし、現状は手放しで喜べるものではありません。

木材のエネルギー利用は昔からありました。木炭やまきは炊事や入浴など多くの面で人々の暮らしを支えてきたのです。その森林資源を使いすぎ、枯渇することがないように先人たちは伐採を一時抑えるなどの知恵を使って持続可能な資源活用をしてきました。

ですが、大規模な木質バイオマス発電所が各地に登場したことで、国内の森林資源だけではまかなえないくらい大量のチップやペレットなどの木材が必要とされ、わざわざ外国から輸入しなければならない状況が生まれています。木質バイオマス発電は木材を燃やしてお湯を沸かし、発生させた水蒸気の力でタービンを回して電気をつくる仕組みです。そのとき生まれた水蒸気はタービンを回すためだけに用いられ、大気中に放出されますが、高温の水蒸気を捨ててしまうのではなく、熱源として他の用途に有効活用されていないといった課題も残っています。

木材の急激な需要増に対応するのに、木々を育む山そのものの環境に負担がかかっているという問題もあります。本来、林業家が木を選んで伐採し、残った木を育てていく「間伐」が求められているのに、需要に応えようと行き過ぎた伐採を行っている現場も多く、皆伐かいばつによるハゲ山が全国各地で見られるようになってきました。

皆伐かいばつとは、木材の収穫方法の一つで、一定区域の木をすべて伐採してしまうやり方です。短期間でまとまった木材を収穫できる一方、土壌がむき出しになるという問題があります。雨が直接山肌に当たるため、表土が流れ、土砂崩れなどの災害を引き起こす危険性も出てきます。そうした現場を衛星写真で見れば、山が崩壊し、土砂が川に流れ出しているのがわかります。これは全国的な問題ですが、特に九州では皆伐かいばつをやりすぎて、木の成長量を上回る伐採(消費)が問題視されている地域もあります。このままの状態が進めば、後世に負の財産を残すことにもなりかねません。

民家のすぐ裏で皆伐している現場も。(福岡県南部)

樹齢50年が「伐採適齢期」の怖さと小規模林業家の危機

吉野地域では樹齢200年以上のスギを育林する林業を続けている。(奈良県吉野郡)

─―山の現状に危機感を感じている人たちの間では植樹活動が一定の広がりを見せています。

森林への関心を高める活動は大歓迎です。しかし、その活動がどんな森林づくりにつながっているのかを想像しなければなりません。いま、必要なのは植樹より、無秩序に皆伐させないことです。にもかかわらず、林野庁は「50年で木を伐採、植林して循環を作ろう」というサイクルを提案しています。それは実は危険なことです。台風や大雨の多い日本では、伐って植えた後の5〜10年は土砂災害率が増えるという現実を見落としています。

高度経済成長期は、たくさんの木材が必要な時代でした。当時、木材をどんどん供給するために考え出されたのが、「50年伐期ばっき」です。植えてから50年をスギの適齢期(標準伐期)であり、そこが成長のピークと決めて皆伐かいばつし、新たに植え直すという考えが林業者の間に浸透定着したのです。しかし、この50年というサイクルは、どんどん木材を伐採したいという政府の意向が反映されたものに過ぎません。なぜなら、歴史的にはスギの適齢期は80年〜90年と伝えられていますし、樹種や地域によって適齢期は異なるのが当然だからです。

長い林業の歴史を持つ奈良県吉野地域では、200年を超えるスギをたくさん育てています。山の土壌を豊かにして水源を涵養し、土砂崩壊を防ぐには、伐期を長くする「長伐期」のほうが望ましいとの知見です。50年で伐採して植え替えるサイクルが、資源を持続的に確保できる森づくりのために適切とは言い切れないわけです。

急に光を入れないような薄い間伐を何度も繰り返して「長伐期」に持っていく。(奈良県吉野郡)

─―いまも林業の担い手は減り続けているのですか。

そうとは言い切れません。たしかに2015年の国勢調査では、全国の林業従事者は1990年の10万人から4万8000人と半減しました。しかし、この調査結果には小規模な面積を保有する林家はカウントされていないのです。実は小規模林家(3ヘクタール以下)も05年までは林業者としてカウントされていたのですが、それ以降の国勢調査では統計の対象から外されてしまいました。以降、統計上「林業経営体」として数えられるのは、国の制度にのっとり「森林経営計画」を策定して届け出ている人か、一定の木材(前年実績200立方メートル以上)を伐採した人のみです。実際にはもっと多くの人たちが林業に従事しているのですが、その人たちは「存在しない」ものとして林業政策が講じられているのも問題でしょう。

─―なぜ、小規模な森林所有者は「存在しない」と扱われるのですか。

いつでも森林に入って自分で木を伐り出せるようにするのが「自伐型林業」の特徴。そのために小型重機(バックホウ)で小さな道をつくっていく。(高知県四万十市)

小規模な林業家がちまちまと施業しても、国が目標設定する木材生産は間に合わないので、切り捨ててしまおうという考えの反映で、この点は小規模農家を切り捨てた農業政策にも通じます。安倍首相は18年1月の施政方針演説で「戦後以来の林業改革に挑戦します」として、「意欲と能力のある経営者に森林を集約し、大規模化を進めます」と訴え、森林を「意欲と能力のある林業経営者」に集約するための法制度をつくろうとしています。林業の大規模集約化を進め、新たに「森林バンク」制度を創設しようというのです。スギやヒノキなどの人工林の管理を市町村がいったん引き受け、林業経営者に貸し出し、伐採を委託するなどして集約化を進めるのが森林バンクの仕組みですが、これが小規模経営の林業家をつぶす力として働く恐れは高いと思います。

第一次産業である林業は農業と同じように、自然の力に依拠した産業です。ただし、種をまけば、その年に収穫が見込める農業とは異なり、林業は苗木を植えてから伐採するまでに数十年もの時間を要します。いわば山に植えた木は後世の暮らしのための「備え」であり、のちのち通常の家計のやりくりでは足りないような大きな出費が発生したとき、裏山の木を切って現金に換えるための「財産」ともいえるわけです。ですから、たとえ伐採可能な木であっても「のちの子孫のために、しばらくは伐採しない」と経営判断する林業家もいます。

ところが、国は何としても50年サイクルで伐採したいがために、70年や80年以上といった長期間の伐期を考えている林業家は「林業をしていない」と決めつけています。事実、林野庁が発行する森林白書には、(林業を衰退させるのは)「森林所有者の経営意欲の低迷」(17年版)とはっきり書いてあります。このように山の持ち主の「伐採しない」という経営判断を尊重せず、施業意欲が低迷した人の土地は「森林バンク」に集め、大規模事業者が自由に使うことができるようにしようとする政策は、国家が個人の財産権を奪うのに等しい行為であり、実に大きな問題ではないでしょうか。

いまだからこそ注目したい「自伐じばつ型林業」の力と可能性

全国で移住者や地元の若者が「自伐型林業」を始めている。(高知県四万十市)

そんななか、豊かな森づくりのために間伐を中心に林業をする小規模な「自伐じばつ型林業」が、注目されるようになってきました。いまの林業は山の持ち主が自分で木を伐採せず、森林組合などの業者に間伐や皆伐かいばつを委託するケースが主流です。一方、森林の育成、管理、間伐などの施業、販売までを一貫して自分で担うのが自伐型林業です。

だれかに仕事を委託するのではなく、すべてを自分で行うのが最大の特徴で、山を所有する人はもとより、自分で山をもっていなくても長期で山の管理を任された人たちが取り組んでいます。彼らは生活をやりくりするため、一年で山の資源を切り崩すような経営をしません。大型機械にも頼らないので経営コストも低く、木を大切に育てるのに欠かせない間伐を繰り返しながら蓄積量(在庫)を増やす長期視点の持続的森林経営を続けています。

九州には、かねてから林業とお茶栽培を組み合わせ、農繁期と山での仕事が重ならないようにする「農家林家」がいます。そんな「兼業」を自伐じばつ型林業は継承し、様々な業種と林業をかけ合わせた新しいライフスタイルを生み出しています。鳥取県智頭町にはコメやビール用のホップを作りながら、自家所有の山林で林業をしている人がいます。カヌーやダイビングのインストラクター、華道の師匠や寺の住職をしながら、林業に精を出す人もいます。山があれば林業をしたいという人たちの多さは驚くほどです。みな専業にこだわらない20〜30代の若者が自伐型林業に挑戦し始めていますし、都市部から移住するIターンや、一世代飛び越えて地元に帰ってくるVターン(孫ターン)する人もいるなど、とても期待できる動きです。

自伐じばつ型林業に取り組み、地域の一員となる人が増えれば、地元の高齢者と会話する機会も増え、山村の生活者としての役割を自然と担うことになります。岐阜県恵那市に40戸の集落で70ヘクタールの森林の管理を委託されている人がいます。彼は林業と狩猟と宿泊業(民泊)で生計を立てていますが、彼の家族が移住したことにより地元の小学校の維持存続が決まりました。彼がイノシシ猟をすることで獣害も減り、高齢者の生きがいとなっている畑が荒らされなくなるなど、「地域福祉」の実現にもつながっているという自伐型林業の力にも注目してほしいと思います。

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