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生協の食材宅配【生活クラブ】
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相次ぐ酪農の廃業。今夏、牛乳が品薄になる恐れも

東京大学大学院農業生命科学研究科教授・鈴木宣弘さん
国内自給率100%を維持してきた飲用乳が「今夏にも小売店の店頭から消える可能性が出てきました」と東京大学大学院教授の鈴木宣弘さん。その背景にはどんな問題が隠されているのでしょうか。
生乳生産量が17年間で120万トン超も減少
――今夏、牛乳が品薄となり、小売店の店頭から姿を消す恐れが出てきたと鈴木さんは指摘されています。その理由をお聞かせください。
農林水産省の「食料需給表」によれば、2015年度の牛乳乳製品の自給率(重量ベース)は62%でした。それでも飲用乳は100%を維持していますが、2000年度は約850万トンだった搾ったままの「生乳せいにゅう」生産量が15年度に約740万トン、17年度には725万トン程度になり、指定生乳生産者団体(「指定団体」)を経由した出荷量は、17年度には30年ぶりに700万トンを切ってしまいました。
都府県を中心に家族経営の酪農家の廃業が各地で相次いだからです。こうしたなか、生乳の年間出荷量が1,000トン超の「メガファーム」も出てきていますが、国内生産量を回復させるには至っていません。現在の生乳生産量を考えると、早ければ今夏にも国産牛乳が品薄になる可能性があると私は見ています。
東京大学農学部教授 鈴木宣弘さん
――どうして酪農家の廃業が続いているのですか。
酪農家が搾ったままの状態で出荷する生乳は、飲用乳を中心に乳製品の原料として使われます。その97%が各地の酪農協同組合(酪農協)などを経て、国内9つのブロックごとに設立された「指定団体」に集められ、そこから乳業メーカーなどに販売されています。
この背景には生乳は他の農産物のように貯蔵が利かない「生もの」であるため、集荷配送を短時間で済まさなければならないという食品原料としての特性があり、その流通に際しては衛生管理と温度管理を適切に実施しなければならないという理由があります。そうした生乳の効率的かつ迅速な集配送業務を担いつつ、指定団体は季節によって変動する生乳の用途別需給を予測し、用途別販売量をコントロールしながら乳価を安定させる役割を果たしています。
いうまでもありませんが、生乳の用途として一番大きなウエートを占めるのは飲用向けで、需要のピークは夏場です。しかし、この時期は牛も体力を消耗し、搾乳量が増えません。そこで指定団体は加工用に仕向ける量を減らし、飲用に振り当てる量を増やします。逆に冬場は搾乳量が増えますが、飲用の需要は低下しますので、今度は飲用を減らして、加工用を増やさなければなりません。こうした調整をしながら、指定団体と乳業メーカーとの間で生乳1キロ当たりの取引価格が決まります。
生乳の価格は指定団体によって多少異なりますが、近年は飲用が1キロ114円前後で取引され、加工用は飲用より1キロ当たり35円ほど低めの価格(80円程度)です。その価格差の一部を埋めるための措置として、政府は国内の酪農家保護を目的として加工用生乳1キロ当たり10円程度の「補給金」を拠出してきました。これを指定団体では飲用、加工用の販売収益に加えた形でプールし、輸送費やその他の経費を差し引いた金額を酪農家に支払っています。ただし、補給金を受け取るには生乳を指定団体に出荷するという条件を満たさなければなりません。
これが指定団体による「共販制度」で、この制度ができる以前は、個々の酪農家グループが巨大資本と交渉して生乳価格を決めてきました。その力の差は明らかで、酪農家が劣勢に立たされてきたのはいうまでないでしょう。そんな偏りがちな力関係を改善し、乳業メーカーや流通資本の価格交渉力に対抗する力となってきたのが共販制度です。

「規制改革推進会議」が「共販制度」の見直し要求

ところが、政府の諮問機関である「規制改革推進会議」は、指定団体が酪農家から生乳販売の自由を奪っているとして、その機能見直しを主張しました。規制改革推進会議は「たとえ指定団体に出荷しなくても、酪農家が補給金を受け取れるようにしなさい」と要求し、政府は生乳の全量出荷という原則について「部分出荷(二股出荷)を拒否してはならない」という法改正を進めました。
たしかに自分で搾った生乳を自分で牛乳や乳製品に加工したいと考え、自前の工場を持っている酪農家もいますし、自分が搾った高品質の生乳を他の酪農家が出荷した生乳と混ぜてほしくないから「指定団体には出荷したくない」と訴える酪農家もいます。さらに指定団体のような卸売機能を持った民間企業の参入もあり、そこに生乳を出荷する大規模経営の酪農家も出てきてはいます。
しかし、大多数の酪農家は従来の方式を支持しているのです。彼らは共販制度の見直しが自らの所得向上にはつながらず、いずれは買いたたきによる乳価の下落リスクが高まると考えています。つまり、乳価の先行が不安定かつ不透明な状況に置かれたと見ているわけです。これが、国際化の動きと併せて、酪農家を廃業に向かわせる要因の一つになりえます。
併せて乳牛の初妊牛価格が10年前(40万円程度)の倍以上の一頭100万円に届く水準で高止まりしているという問題もあります。今後の乳価の安定が見込めないなか、高い初妊牛を導入するよりも廃業を選ぶ酪農家も少なくありません。この数年は乳価も上がって所得も安定していることもあり、「いまやめれば借金を残さずに済む」と判断して廃業する人も多いようです。少子高齢化の影響もあります。子どもはいても「どうしても長時間労働になる仕事だから」との理由で後を継がない、あるいは親が継がせないと考える人もたくさんいます。そこに乳製品の輸入自由化の荒波が押し寄せてきているのです。

「日欧EPA」と「TPP11」で乳製品の輸入自由化

――どういうことですか。
実は日本の酪農は「トリプルパンチ」ともいえる3つの深刻な問題に直面しています。その一つがいまお話しした指定団体の共販制度見直しであり、後の二つは環太平洋連携協定(TPP)に参加していた12カ国のうち、米国を除いた11カ国で構成されたTPP11ならびに日欧自由貿易協定(EPA)における合意です。
日欧EPA(17年12月合意)では、EU産チーズに対する関税の実質的撤廃が決まりました。この決定の伏線になったのがTPPです。その交渉で米国は「チェダーやゴーダといったハード系チーズの関税を完全撤廃せよ」と日本政府に要求しました。これを日本政府は受け入れ、「ただし、カマンベールなどのソフト系チーズは守った」と国内向けには発表したのです。
その後、トランプ政権がTPPへの不参加を表明しましたから、本来なら米国産ハード系チーズへの関税の完全撤廃は白紙のはずです。ところが、その米国との取り決めを日本政府はそのまま日欧EPAにスライド適用し、おまけにカマンベールなどのEU産ソフト系チーズの実質的な関税撤廃(EUからの輸入枠を無税とし、枠を順次拡大する)にも合意してしまったのです。
さらにTPP11(18年3月合意)ではバターと脱脂粉乳の輸入枠を年間7万トンにすることが決まりました。この輸入枠はTPP交渉での米国も含めての約束です。最大の当事者の米国がTPPから離脱したにもかかわらず、7万トンの輸入枠はそのまま残し、日本政府は米国の分もオーストラリアやニュージーランドなどに与えてしまったわけです。当然、両国は大喜びですが、こうなると米国も黙ってはいないでしょう。日本との2国間協議や自由貿易協定(FTA)で「自分たちにも別の輸入枠を用意せよ」と必ず要求してくるはずです。
輸入自由化で外国産の乳製品が国内市場に大量に入ってくれば、国産の乳製品は激しい価格競争を迫られるでしょう。その結果、国内で生産される生乳の需要が減少すれば、乳価に深刻な影響が出てくるのは当然です。
酪農家の自由意思に基づく取引といえば一見聞こえはいいですが、当初は「高く買うよ」といいながら、結局は自分たちの利益だけを優先して買いたたくのが巨大流通資本の手法です。そんな買いたたきの構造が定着すれば、酪農家の所得は減少の一途をたどり、離農が加速化して国内の酪農生産基盤は崩壊してしまいます。その怖さに日本の消費者が全然気が付いていないのが一番心配です。
頼みの北海道でさえ大幅な増産は厳しい状況にあり、かつて酪農王国といわれた千葉県でもどんどん酪農家が減っています。マスメディアを通じた世論誘導の「チーズが3割安くなる」といった甘言に乗せられているうちに、今夏は飲用乳がときどき店頭から消えるかもしれないと、私は強い危機感を持っています。いうまでもありませんが、新鮮な飲用乳は輸入できません。足りなくなった、無くなったからと海外から持ってくるわけにはいかないのです。
今後も生乳の国内生産量が減り続ければ、飲用乳の価格は当然高くなるでしょうし、将来的には一部の富裕層しか口にできない貴重品になる可能性も出てきました。実際に政府は今年になって脱脂粉乳の輸入枠を2万7千トンに、バターの輸入枠を1万3千トンに増やすと発表しました。今夏の牛乳不足を補うために、バターと脱脂粉乳に水を加えた「還元乳」をつくるためではないかと疑いたくなる動きです。日本の消費者の多くが還元乳しか買えなくなる時代がすぐ間近に迫っています。それは決して大げさな話ではありません。そんな最悪の事態を避けるために私たち消費者がどうしたらいいかについては、次回にお話ししたいと思います。

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