それぞれの希望に沿う介護を 小規模多機能型居介護「たすけあい小川」
東京都町田市にある小規模多機能型居宅介護「たすけあい小川」では、一人一人の思いを尊重し「生きる」を支えている。
東京都町田市小川の住宅街にある「たすけあい小川」は、小規模多機能型居宅介護施設だ。利用者・家族の状況や希望に応じ「通い」「泊り」「訪問」を柔軟に組み合わせサービスを提供する。
運営を担う「NPO法人ACT町田たすけあいワーカーズ」は、1993年に赤ちゃんからお年寄りまで心豊かに安心して暮らせる町づくりをめざしワーカーズコレクティブを設立し、2000年の介護保険制度導入を契機にNPO法人格を取得した。同年4月に訪間介護事業を始め、8月に「デイサービス成瀬会館」を開所し、通所介護事業を開始。
「訪間、通所に力を注いでいるうちに次の課題が見えてきました」と話すのは、たすけあい小川の管理者・吉田厚美さんだ。 「ご家族の都合や休息のための『レスパイトケア』などで、利用者(介護対象者)がまったく見知らぬ施設でショートステイをしなければならなくなる場合もありますし、突発的な理由で、いきなリショートステイ先を確保しなければならないケースも少なくありません。そんなときに安心して利用できる介護施設が必要という意見が、多くのメンバーから出されるようになり、泊まれる施設の検討会を発足させ検討を重ねてきました」
そんな折、成瀬会館として借りていた建物が移設されることになり、移転先を探さねばならなくなった。同時期に町田市小川で小規模多機能型居宅介護施設(小規模多機能)開設を計画していた町田市の公募があった。「市内初の小規模多機能です。不安もありましたが、私たちのやりたい事業に近かったので応募したところ、任せていただけることになりました」と吉田さんは言う。
こうして09年5月、たすけあい小川がオープン。町田たすけあいワーカーズは、訪問介護と併せて小規模多機能の介護事業を担うようになった。全員が経営参加し、対等の立場で働く。近年はこうした働き方をするワーカ―ズの一員として働く人を募っても思うようには人が集まらないという声も聞くが、現在、たすけあい小川では28人がワーカーズとして働いている。 それぞれが子育てや介護をしながら働けるように、互いに助け合いながら24時間体制の勤務を分担する。
生活クラブ生協で扱う食材を使った手作りの食事
一人一人の「生きる」を支える
たすけあい小川の利用登録者は現在16人で、要介護度も1~5までさまざまだ。別の施設のデイサービスから移行してきた人もいれば、病院から退院時に紹介された人、家族からの相談を受け、利用登録した人もいる。利用者の家族は60歳を超えても働いている人が多く、家族の出勤する時間帯に迎えにいき、帰宅時間に合わせて送っていくなど、家族の事情を考慮した支援が重要になっているという。
小規模多機能には看護師と専従者のケアマネジャーが常駐し、 一人一人に合わせたケアプランが立てられる。「通い」「泊り」「訪問」のどれか一つを利用する人もいれば、これらを組み合わせて利用する人もいるが、いずれの場合も介護者が変わることなく、同じ場所で途切れることなくケアができる。
居宅介護支援サービスの場合、45分間、60分間という限られた時間の中で掃除、買い物などケアプランで決められたケアを行うが、小規模多機能では状況に合わせケアプランの変更も可能で、利用者の必要としているケアを柔軟にできるという利点もある。 「地域密着型介護サービスの小規模多機能は、高齢者介護には欠かせない事業。利用者にとって何より安心できるサービスですし、その人の『生きる』を支えるために、きめ細かな支援ができます。 服薬管理をはじめ特に家族のいない人には、生活全般に気を配り、例えば食事や水分摂取の心配、気温の変動に伴う室内の温度管理から衣服や布団の心配まで細やかに対応しています」(吉田さん)
小規模多機能は1カ月に何回利用しても、要介護度別に定められた包括料金でサービスが受けられる(食費、宿泊費その他実費は自己負担)。ただし、小規模多機能を利用する場合、福祉用具と訪問看護サービスを除く他の事業所の介護サービスは併用できない。
(上図)出典:厚生労働省 平成28年度老人保健事業推進費等補助金老人保健増進等事業「小規模多機能型居宅介護の機能強化に向けた今後のあり方に関する調査研究事業報告書
最期を迎える支援のあり方
たすけあい小川には、年金受給がないなどさまざまな理由による生活困窮者、家族が病気療養中、環境に問題があるなどの事情を抱えた利用者もいる。個々の状況や本人の意思を尊重した支援を行っており、「キーパーソン」がいない人には成年後見制度を利用し、できるだけ長く住み慣れたわが家で暮らし続けるため、高齢者支援センター、民生委員、医療関係とも連携して支えている。
終末期を迎えるにあたってはふだんから利用者の希望をよく把握しておく必要がある。体調悪化で救急搬送するのか、延命処置を希望するのか本人や家族の意向を確認しておくことが大切だ。家族や主治医とよく相談しその対応を決めておかなければならない。キーパーソンがおらず本人も認知症がすすみ意思確認が難しくなってしまう場合もあるので、早期より自分の人生をどのように歩んでいきたいのか話し合っておく必要がある。また自宅での看取りを希望する家族の支援も必要だ。吉田さんは言う。
「最期を迎える支援のあり方が今後の私たちの課題だと受け止めています。認知症の進み具合によって違いますが、今、ご本人がどう思っているかを最大限に尊重し、可能なかぎり希望にかなう支援をしていきたいです。日ごろから、自分の望む最期を考えておくのが大切になるでしょう。 一人一人の命は重いです。人それぞれに歩んできた人生を尊重できるのがたすけあい小川です」
中庭の整備はすべてボランティアグループ「グリーンクラブ」が行っている
『生活と自治』2017年10月号の記事を転載しました。