配送職員は「認知症サポーター」地域の見守り、担います!
2025年には、認知症患者数が700万人前後に達するといわれる日本。物流の担い手として各家庭にさまざまな物を届ける配送員は、日々地域を回る中、高齢者の困難や異変に気付く機会は多い。生活クラブ東京(本部・世田谷区)では、配送職員が認知症に対する正しい知識と理解を持ち、いざというときに当事者や家族の手助けができるよう、「認知症サポーター養成講座」を開催する。
定期的な配達で地域の見守り
高橋央治さん。「オレンジリング」を着けていると、「それは何ですか?」と聞かれる。説明することで認知症への理解が広がるきっかけになる
地域の高齢者の異変などに気付いたら、事前に取り決めた行政の連絡先にすぐに通報する。暮らしに密着した事業を展開する事業体と自治体との、そうした「見守り協定」は、地域の有効なセーフティーネット機能を担う。
生活クラブの配達職員は、毎週同じ曜日、ほぼ同じ時間帯に決まった地域に品物を届けるので、配達先の組合員や地域住民の様子に目を配りやすい。その特徴を生かして、生活クラブ東京では、東京都を含めて都区内28の自治体(2018年10月現在)と見守り協定を結ぶ。
これまでにも、例えば、「ポストに郵便物がたまっている」「届けた食材がそのまま置かれている」など、配達先での異変に気付いた際に連絡したり、配送途中の路上やマンションで動けなくなっている人を介助するなど、さまざまなケースに対応してきた。だが、職員は地域の福祉制度に精通している訳ではないので、異変を察知した場合でも、どこにどのように連絡したらよいかが不案内なこともあった。協定を結ぶことで連携が明確になり、都区内にある12カ所の配送センターには、それぞれ当該の地域包括支援センターの連絡先一覧表が掲示されるなど、よりスムーズな見守り体制が整ってきている。
「認知症サポーター養成講座」開催
こうした見守り活動の中でも、特に懸念されるのが認知症の症状を示す人への対応だ。2015年に厚生労働省が発表した調査によれば、65歳以上の高齢者の約4人に1人が認知症とその「予備軍」と推計される。
生活クラブの組合員との対応においても、配達時の会話がなかなか成立しない、消費量をはるかに超える注文をする、配達日などについて頻繁に問い合わせがあるなど、近年は多くの事例が報告されるようになった。こうした場合、認知症に対する正確な知識に基づいて接しないと、トラブルの発生だけでなく、本人の症状を悪化させる危険性にもつながると指摘される。
そこで生活クラブ東京として始めたのが、「認知症サポーター」の養成だ。認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対してできる範囲で手助けする人を育てようと、2018年2~3月にかけて、全配送センターの職員や委託先の配送員などを対象に、「認知症サポーター養成講座」を開催した。225人が参加し、受講後には「認知症の人を応援します」という意志を示す、「オレンジリング」が渡された。
講座の企画・実施に当たった、政策調整部共済課長の高橋央治さんは、「東京の組合員は約8万人で、そのうち31%が65歳以上です。高齢になっても安心して共同購入が続けられるように、職員も適切な対応能力を備えておくことが必要です」と話す。まず高橋さんを含む4人の事務局員が、職員や委託先を対象とした認知症サポーター養成講座の講師になる研修を受け、その後、全センターで開催した。
講座では、認知症の基礎知識を学んだ後、参加メンバー同士で、認知症の人へ対応の仕方を考え合う。認知症が引き起こす症状について、なぜそうなるのかも含めて理解することが重要だからだ。本人に接する時の基本姿勢は「①驚かせない②急がせない③自尊心を傷つけない」。実際にセンターであった事例も示しながら具体的な対応のポイントを学び、「現場で生かせるようにしたい」と高橋さんは言う。
高橋さん自身、実際に家族が認知症を発症した経験を持つ。「本当に驚き、戸惑いました。正しい知識を持ち、対応することの大切さを実感しています。そんな自分の思いを伝えながら、配達する人には組合員と接してほしいと思っています。認知症サポーターは特別なことをする人ではなく、認知症の人やその家族の応援をする人なんです」
サポーターとして見守っていく
食材などの配達風景。同じ曜日、時間帯に届ける配送員は地域の変化にも気付きやすい
講座を受けた職員たちからは「身近なことだと感じた。初期症状だと気付かず、イライラして怒ってしまいそうになるので注意したい」「老いてなにもできなくなると思っていたが、認知症で本人が苦しんでいるのが理解できた」「認知症の症状や具体的な対応のポイントがわかった。配達時など手助けが必要と思ったら行動に移していきたい」「組合員の中にもオレンジリングのことを知っている人がいた。サポーターの輪が広がっていけば良い」など多くの感想があがっている。
大泉センター(練馬区)のセンター長、飯塚拓さんは、「身近に認知症の人がいない人も多く、講座を受けて初めて認知症の知識を持てたという声もあってよかった」と受け止める。同センターでは、配達時に起こった事例を、センター職員と委託先のメンバー全員で共有し、講座で学んだ対応方法を生かせるようにしているという。配達先では同じような状況に遭遇することも多く、事例の共有で学べることは多い。
「一見『なぜ?』と理解が難しい組合員の行動も、正しい知識があれば冷静に対応することができます。配達職員は地域の情報に詳しく、小さな変化もよく見て対応していますよ。地域で困っている人を行政などにつないでいけるのも安心です」(飯塚さん)
日々地域とつながる配送職員が、正しい知識を備え、サポーターとして見守っていくことは、高齢になっても病気になっても、暮らしの中に生活クラブがある安心感につながる。
撮影・文/中野寿ゞ子
『生活と自治』2018年12月号の記事を転載しました。